光の無い目
「大丈夫ですか」
そう言って少女は真希の結束バンドを懐から出したカッターナイフで切った。
手のバンドを切る瞬間に振動が伝わり、つい先程の痛めた右手首を庇った。
「多分捻挫はしてますね。ここ病院なんでなんでもあると思います。処置しときましょう」
少女は病院内をガサゴソと探し回り、捻挫の処置に必要な道具を集めてきて、真希の手首をいじり始めた。
「ありがとう、助けてくれて」
「いえ」
慣れた手つきで固定を始める。ここまでほんの一瞬でこなし、更に丁寧だった。
「すごい……私も捻挫の処置練習したことあるけど、こんなにも速く丁寧に出来るなんて。もしかして、医療関係の仕事目指してたりとか?」
「そんなんじゃないです。ただ、私の恩師に一通り怪我に関する処置法は教えて貰ってるので」
「そっか。でも本当にすごい。私の方があなたに教わりたいくらい」
「そうですか。専門知識など持ち合わせていない私なんかで良ければいくらでも教えられますけど……出来ました。痛みが続くようならちゃんと病院行ってくださいね」
「ありがとう」
ここで会話は終了し、少女は簡単に道具を片付けた。実際話してみるに、少女は見た目こそ中学生くらいだが、結構ハキハキと話せるタイプなようだ。はっきり言って、子供らしからぬ態度だ。
辺りがしんとして、少し離れた所に院長が倒れている。真希の中で今更ながらこの状況に改めて恐怖心が芽生えた。
そして、意を決して少女に尋ねる。
「……院長と奥さん、こ、殺しちゃったの?」
恐る恐る、一番気になっていたことを聞いてみた。気になってはいても聞いていいのか分からなかった。
拳銃で撃ったのだから、助かるはずはない。そんな返事が返ってくると思っていた。
「いいえ、2人共気絶してるだけですよ」
「え?でも確かに拳銃で撃って……」
「見えてないんですか、院長全く血が出てませんよ。あれはただのスタンガンです。オーダーメイドなんです。拳銃型でカッコいいでしょ?少し離れていても効果があるように出来てるんです。勿論、実弾のものも持ってますけどね。見ますか?」
本物の拳銃を持っている時点で少女を子供扱いする気は失せたが、カッコいいでしょ?と言ってくる姿に初めて少しばかり少女に子供らしさを感じた。
しかし、初めて見た時からずっと表情が変わっていない。普通、人と話せば話すほど相手のことを詳しく知っていくものだろうが、今回は話せば話すほど少女がどんな人物か分からなくなる。珍しいタイプだ。
「本物はいいよ……でも、良かった。2人共生きてて」
その瞬間、少女の表情がなんとなく変わった気がした。
そういえば、最初から少女はどこか掴み所のない、何を考えているのかよく分からない目をしていた。どこか遠くを見つめているような、光の無い目。表情が変わらないように見える理由はそこにあったのかもしれない。
この瞬間、それが際立つ表情になったのだ。
「意識が戻ったら、またあなたを襲ってくるかもしれないんですよ」
「……」
それに対しての返事はない。また二人が真希の命を狙ってくるだろうということは察していたが、未だにその事実を受け入れ難いのだ。昨日まで優しく接してくれた人達が悪人だったと。だから、2人が無事であることを聞いてホッとする自分がいることが不思議で複雑でたまらない。
すると、また少女が懐から何枚か重ねられた紙を取り出し、真希に突きつけた。
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