殺し屋の少女

政府公認の殺し屋……


見るからに怪しそうなサイトではあったが、緊迫した状況に置かれている真希は疑う目すら持たなかった。そのままサイトからダイレクトメッセージを送信し、自分が置かれている状況を簡潔にまとめ、急ぎであることを強調した。


すると、ほんの1分程で返事が来た。ますます怪しくなるが、真希の中では安堵の方が大きい。


「現場近くにウチの者がいるのですぐに向かわせます」

しかしそんな安堵も一瞬にしてかき消されることになる。


勢いよく事務室の扉を開ける音がすると、いつもの温厚な面影は一切ない、まるで別人のような院長が立っていた。


「望月、お前見てただろ。コソコソとしやがって。」


真希は血相を変えてその場から逃げようとしたが、すぐに院長に追いつかれ突き飛ばされた。咄嗟に床に着いた右手首に激痛が走る。


「もうお前を生かしておく必要もなくなったからな。さっきの男と同じようにしてやるよ」


何も抵抗することができないまま手足を結束バンドで強く結ばれ、診察室へ投げ入れられた。


「さっきの男、片しに行くか。」


「この子も一緒に連れていった方が効率がいいんじゃない。」


「確かにそうだな。」


全身の血液を抜かれて息を絶ったあと、どこに連れていかれるのかはなんとなく想像できた。きっと何処か遠くの山奥に埋められる。そんな気がした。


真希は涙が止まらなかった。ずっと自分に優しく接してくれた院長と夫人がこんなことをしていたなんて、信じたくなかった。それと、ずっとこの事情に気が付かずにいた自分に対しても無性に腹が立って、悔しかった。


二人が器具の準備をしている途中、受付の方から誰かの声がした。


「あのー、すみませーん」


夫人がため息を付いて声の方へ向かっていった。


「ごめんなさい、今日は休診日で……」


その直後、玄関の方で銃声が鳴り響いた。

いや、本当に銃声なのだろうか。よく刑事ドラマなどで聞く銃声よりもずっと軽かった。外には確実に聞こえていないだろう小さな音。


音がしてから夫人は戻ってこないし、声も聞こえなくなった。


異変を感じた院長は準備を進めていた手を止め、診察室の奥の方へと退いた。


それから間もなくして扉の前に現れたのは、中学生くらいだろうか。黒いブカブカのマントに身を包んだ黒髪の少女が立っていた。


「ええと、今日は休診ですか」


「な、なんだ貴様は」


院長は少女相手に怯えていた。恐らく、いや確かに先程の銃声を出したのはこの少女だろう。何らかの武器を持っていることは確実だった。


「あ、そこで手足結ばれて捕まってるのが依頼者ですかね」


「も、もしかしてあなたが殺し屋の……」


「殺し屋だと?そんな奴がどうしてこんなところに……」


「だから、そこの捕まってる人に依頼されて……」


「依頼だと。ふざけたこと言ってんじゃねぇよ」


裏返り気味の声で叫んだと同時に、院長は少女に向かって鋭いハサミを掴みながら突進していった。


「危ない!」


真希は目の色を変えて叫んだが、少女はそれを軽く避けて、目にも留まらない速さで拳銃を懐から取り出し先程と同じ銃声を鳴らした。


どさり、という音を立てて院長はその場で倒れ伏した。

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