ハデス様のウルトラ業務改善方法
「君も最近忙しいようだな」
今日ハデスの元にやってきたのは神々の伝令使・ヘルメス。
主に読者諸君が知っているヘルメスのお仕事は旅人、商人などの守護神というものであろう。
しかし、ヘルメスの役割はそれだけに済まない。発明、策略、時に死出の旅路の案内者まで請け負っている。そのため、ヘルメスとハデスは昔から長い付き合いが続いている。
「そうだね、ここ最近急に忙しくなってしまったよ、過労死ってやつ?もし僕が人間だったら君の世話になっているだろうね」
ヘルメスの仕事は時代によって常に変わる。
郵便が発達した時代には、配達員を。乗り物が発達した時代は、乗組員を。
そして最近では宅配のサポートに勤しんでいる。
「巣ごもりとかなんだとか知らないけどさぁ、みんな宅配使いすぎ。なんで急に需要のびたの?」
アポロンとハデスの内緒のやりとりを知らないヘルメスはプンプン文句を言い続ける。ヘルメスの小言を聞きながらハデスは内心ひやひやする。ハデスが余計なことをしなければ、ヘルメスの仕事はここまで増えることはなかったからだ。
「ヘルメス。疲れているようだし、今日は私の城で羽を思いっきり伸ばすがいい」
二人の前にはつい先日もいだばかりのイチゴや葡萄をふんだんに使ったケーキやタルト、クッキーがある。そう、ハデスは冥府で農夫の作業も立派にこなしているのだ。
「冥界ってどうして太陽がないのにこんなに美味しいフルーツが取れるんだ?全く不思議でしかないね」
読者諸君が知っているヘルメスのいろいろな逸話にトリックスターなストーリーが多いだろう。しかし、ヘルメスは自分が安全な道を楽をして歩むということ以外に興味がないだけで、実は彼の性格は単純明快なのだ。
常々不思議に思うことがある。古今東西、昔から複雑な作業をやすやすとこなす特技を持つ者は大体が単純な性格を持ち合わせているのはなぜだろうか。
おっと話が逸れた。
ヘルメスは目の前の色とりどりのお菓子に目移りする。
「あ、僕の飲み物今日は紅茶がいいな!」
「お前は甘いものが本当に好きだな」
ヘルメスが来ることがわかってハデスは慌てて大量にお菓子を用意した。ヘルメスは甘いものを食べてる時が一番幸せだと以前話していたからだ。しかし、今度の忙しさではご機嫌をとることに成功するかどうか不安なところもあった。
ヘルメスの持っている皿にお菓子が積み上げられていくところをみると、ひとまず安心したと言っても大丈夫なようだ。
「ふぉんなことよりさぁ、ただでふぁえ最近宅配の人が忙しくて守護にひそがしいってのに。ひんだ人も増えちゃって、僕、めいひゅに来る回数増えたと思わない?」
大量のクッキーを口に頬張って、さらに口元にパンクズをつけて、なおヘルメスは話を続ける。
「このままじゃカロンも忙しいと思うんだ。冥府としては何か対策ってしないの?」
「カロンの多忙さは確かに今最も考えなくてはならないところだろうな」
同僚の相談を聞くのと、部下のカロンからの労働改善の希望を聞くのとではハデスの気の持ちようは変わってくる。
「カロンから職場環境改善の要望があったらきちんと答えてあげないとダメだよ。君の大事な部下なんだから」
ハデスのように特別な力を与えられてる神ならまだしも、今ヘルメスから指摘されたカロンは神ではない。そのため、特別な力は与えられていない。
ハデス自身も少しオーバーワークであると感じていた。ヘルメスと喋りながらも、今後これからやってくる死者をについてまとめられた資料に目を通す。
その中で、とある人物に目をつけた。
運送業をしている、まだ30代の男性。死因は最近よくある過労死とのことだ。この男性の資料をヘルメスに手渡しながらハデスは尋ねる。
「この男の魂はもう迎えたか?」
たくさんお菓子を掴んだテカテカの指が資料をめくる。
「んー、迎えたね、たしか。アポロンからこの人が何回か事故起こしそうって教えてもらったから、守護神やったこともあったな。結構頑張り屋さんだったみたいだよ」
そのヘルメスの一言を聞いて、これは使える、とハデスはニヤリと笑った。
「私にいい考えがある。環境が整えばヘルメスにも融通を利かせよう…」
次の日、アポロンの宮にハデスは向かった。アポロンの宮殿は美しい絵画や薬草に彩られた美しい宮殿になっている。
「おや、ハデス様。ご用がありましたらこちらから伺いましたのに」
サブカルチャーを好むアポロンの宮の本日のBGMは90年代の渋谷系の音楽。
「いや、今日は是非とも頼みたい事があったので、こちらから参じ詣った」
「珍しい、私に頼みごとというのは?」
苦々しそうな顔をしてハデスは話始める。
「いや、つい先日私たちが愚かなことをしたであろう。困ったことに今度は冥府にも支障が出てきたようでな。カロンがオーバーワークしているようなのだ。冥府ですらこうなのだから、現世はもっと大変だろう。そのことはヘルメスから昨日話を聞いた」
「それは私の宮でも同じことです。現世の医療は近頃緊迫しているようなので…」
変わらず憂を帯びた瞳をするアポロン。忙しくなったのは自分の思いつきなのをもう忘れているようだ。
「そこでだ、お主の力を少し借りようかと思ってな」
「私の力…ですか?」
「そうだ、若い働き者が命を終えることが多いと聞いた。そこで、だ。お主の力で彼らに肉体を与え、冥府のアンデットとして働かせることはできないだろうか。天界で働くことは出来なくても、冥府はそもそも死者の国だ。うまくいけばカロンの業務改善につながると思ってな」
「それは…確かに私の力で改善はできるでしょう。しかし、それは私の一存でどうこうできることではございませぬ…」
冥府とはいえ、命を勝手に書き換えることはできないと、アポロンはやんわり拒否する。
さあ、ハデス様の次の一手。
「いいのか?この者はお主が以前好きだと訴えてたバンドのドラマーではないのか?」
ハデスはぴらりと一枚の資料をアポロンの前に提示する。その資料には確かに、数年前人気だった下北系のバンドのドラマーの写真が添付されていた。アポロンは目をパチクリと開き、写真を見る。
「うーわ、まじか、え、死んだの?なにそれエモッ。エモすぎる。もうリュイのエイトビート聴けないの?わざわざヘルメスに頼んで守ってもらってたのに。つらっ」
突然アポロンの言葉が崩れた。芸術が心の琴線に響いた時、アポロンの口調はまるで若者言葉のそれになるのだ。その様子をニヤニヤ眺めるハデス。
「もし、この者に肉体を授けるとなれば、冥府で今後この者の、その、えいとびーととやらを聴くことが可能になるが、如何かな?」
オタクに甘い一言を垂らす。
古今東西、新しいものを知り古いものを尊ぶと言うのが芸術を嗜む人々の理というものである。それは何千年と長く生を楽しむ神々も変わらぬことである。
アポロン様は芸術を守ることで芸術活動をしているアーティストたちから信仰され続けてきた。いわば全ての芸術家のパトロンとなっていた。
そして、冥府でもアポロン様のパトロン活動は続く。今後新しくバンドが結成されることになったからだ。
しかし、アポロン様。
あなたの一存で芸術家を守ることができるのならば作者の好きな故・氷○冴子さんの未完の大作、「金の○銀の大○」の新作読みたいです。
是非蘇らせて彼女の新作を、この世に送り出して欲しいです。
どうか、どうかお願いします。
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