追い込み漁
ロドンは箒から身を躍らせた。そして右拳を振りかぶる。殴る対象は眼前の巨大なサメ。叩き込む先はその奥にあるワープゲート、ひいては、その先に広がるサメとロドンがかつて存在した世界。
「吹っ飛びやがれッッ!!」
勢いよく繰り出された拳骨が、硬い鮫肌に食い込んだ。ロドンは拳がズタズタに裂かれるのもお構いなしだった。ただ、あらん限りの膂力をサメの身体をふっ飛ばすことだけに費やした。
巨大なサメの肉体が、ゆっくりと回転しながら【発射】スキルによって吹っ飛んでいく。真っ暗なゲートの中へ、サメはもがき苦しみながら飲み込まれていく。
「やったか──!?」
ミラが喜んだのも束の間、サメは抗うように【巨大化】のスキルを使う。肥大化した背びれや膨らんだ肉がワープゲートの端に引っかかった。
「オイ、ワープゲートもっとデカくできねぇのかよ!?」
ロドンはクレスの箒に再び飛び乗って、叫ぶ。
ミラが魔力を送り込むとワープゲートは少しずつ拡大していったが、膨張し続けるサメを飲み込むことはできない。そしてある程度のところまで大きくなった途端、ついにワープゲートの拡大が止まった。
「……これが最大だ!!」
サメの肉体は
「アレを押し込むのは無理だぞ!?」
「構わない!粉微塵にしてやる!!」
ミラはハンドサインで指示を飛ばし、魔術師部隊がサメの周りを囲むように展開させた。そして、彼ら彼女らはボウガンほどの大きさのコンパクトなレーザータレットを構える。
「わ、ちっちゃいレーザータレット……!」
可愛らしいサイズになった防衛兵器に、クレスは目を奪われた。
「帰還に必要なだけの魔力を残し、ワープゲートに入る大きさになるまでサメを切り刻め!!」
ミラが叫ぶ。戦力になる魔術師たちのありったけの魔力を使った作戦であるため、一回きりの最終手段だった。
レーザータレットのから伸びる魔力ケーブルが、射手である魔術師たちの身体に接続されその魔力を吸い上げる。そして砲塔は一斉にワープゲートに食い込んだサメに向けられた。
「──というわけでクレス嬢、ロドン君。そこから早急に離れてくれ」
「無茶言うな!!」
「は、はい!!」
慌てるクレスの箒が、憤るロドンを連れて迅速にサメ付近から離脱する。
「移動式レーザータレット部隊、撃て!!」
ホイッスルのような音を立てて、レーザーがサメへと解き放たれる。城壁から放たれたものに個々の威力は劣るが、大勢の魔術師を動員したため総合的な火力では劣っていない。
光で、視界一面が埋め尽くされる。殺意に満ちた熱は、遠く離れた者の肌にもかすかに届いた。
しかし、レーザーがサメの身体を焼き焦がすかと思われた瞬間、サメの全身じゅうのあちこちから巨大な口が出現した。質量を持たないはずのレーザーは棒状キャンディのようにばりばりと噛み砕かれ、容易く嚥下されていく。
「……嘘だろ?」
まったくもってデタラメな展開に、その場の全員は驚きや怒りの境地を通り越してすっかり呆れてしまう。どうやら、サメは街を離れていた間に新たなスキルをかくとくしていたようだった。
「なんなんだ、アイツ」
ロドンは改めて、自分が討伐を仰せつかった存在の潜在能力を思い知った。
レーザーはサメの体内で消化され魔力に変換された。サメの身体は一回りも二回りも増長して、ザラザラした筋肉の隆起は陽の光を浴びて妖しく光る。
──サメの身体をレーザーで粉微塵にして異世界のゲートに押し込める作戦は、たったいま完全に失敗した。
「総員退避だ!僕とクレスとロドンが時間を稼ぐから、君たちは城内へ逃げろ!簡易レーザータロットは邪魔なら捨て置いて構わない!!」
「ミラさん!もうレーザーは撃てないんですか!?」
「魔力の残っている魔術師もいるだろうから多少は撃てるとは思うが……さっき見た通りサメには効かないぞ」
ミラが気を落とし、焦りを見せているのに反してクレスは、小さな微笑みを見せた。
「ありがとうございます。助かります」
「ロドンさん!」
クレスは箒の後ろのロドンを少しだけ振り返って、興奮したような声を上げる。
「何だ?」
「今のサメの様子を見て、ある仮説が浮かびました。それで、提案があります。いえ……」
クレスは首を横に振って、自己の発言を訂正した。
「勝算が、あります」
クレスの脚が小刻みに震えているのが、恐れによるものか武者震いなのかは判別がつかなかった。しかし、ロドンの胸中には彼女への信頼だけがあった。
「やるじゃねーか。聞かせてくれよ」
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