異世界転移の方法
再び西の塔にやってきたクレス、ロドン、ミラとその数名の部下たちだったが、一向にサメはやってこなかった。
「魔法石が手に入らないとなると、どうすればいいんでしょう……?」
クレスが不安げに呟く。
「異世界へのゲートを使って、彼を元の世界に送り返したい。ロドンくん。良いか?」
ミラはロドンに、伺いを立てた。
「それがアリなら、最初からやっとけよ!」
「そう簡単な話じゃない。ロドンくんたちがいた世界にあんなのを送り返すんだぞ?いくら音より早く飛ぶ機械や
「ロドンさんのいた世界、そんなものがあるんですね……」
クレスは遠くをぼうっと見つめている。
「あー、まあ良いんじゃないか?」
重大な話題でのそっけない返事に、ミラは首を傾げる。
「……やけに反応が軽いな」
「うちの世界なぁ、映画……機械で観れる劇みたいなやつだな。それで空飛ぶサメとか、竜巻と一体化したサメとか、頭がいっぱいあるサメとか、蛇口から出てくるサメとか、魔術を使うサメとか、見慣れてるんだよ」
「そんなところまでカバーしてるんですね。異世界の文化って……」
クレスにとっては、音速の機械や空飛ぶ槍よりも超能力を持つ飛行人喰いサメの映画のほうが奇天烈な発明に思えた。
「そんで、そのヘンテコな映画って実は、警察や軍隊がそういうサメと戦うための訓練用の映像として作られてるんだ。実際にめっちゃ強いサメが出てきたらどう戦うか、っていうマニュアルだな」
「何でそんなことを知ってるんですか?」
クレスが素朴な疑問を口にした。
「俺が軍人で、そういうメチャクチャな能力のサメが現れたときに対処する係だったからだよ」
「……通りで、あんなでたらめな能力を持ったサメとの戦い方を心得ているわけだ」
「だからまあ、あのサメが元の世界に送り返されることは気にしなくて良い。俺の元同僚たちなら、何とかしてくれるはずだ」
ロドンは、昔の仲間のことを思い出しながら呟いた。
「それは有り難いですね……って、そういえば、そもそも肝心の異世界転移ってどうやって行うんですか?」
「僕のスキルを使う」
ミラが人差し指を立てると、その先に拳ほどの大きさをした黒い球体が現れた。
「異世界に繋がる門を人工的に作り出す、【異世界転移】のスキルだ」
「【異世界転移】って、いち個人のスキルで簡単にできるようなもんなのかよ!?」
ミラは、ロドンが何に驚いているのかわからないといった様子だった。
「そういえば、アウレリアさんもサメを召喚した、と普通に仰っていましたね……」
「それにしても何かこう、ちゃんとした儀式とかやるのかと思ってたんだよ」
ミラは笑って否定する。
「そんなことしなくてもすぐ行けるさ。貴族なんかは観光目的でよく行っているよ」
「マジかよ!?」
「当然目立たないように行くから無理もないが……ほら、それこそ君たちはダエーの街から来たんだろう?」
「ああ、そうだけど……?」
「ダエーの領主はちょくちょくお忍びで向こうの世界に遊びに行ってるから、しっかりサブカルチャーにハマっているよ。確か……マンガとか、ラノベとか言うんだったかな?」
ロドンは、サメ退治出立に際して領主に「どちらかといえば主人公を追放する側の見た目」などと独特な偏見で見た目をこき下ろされたことを思い出した。あれは向こうの世界の常識によって形成されたものだったらしい。
「アレ、そういうことだったのか……」
「知りませんでした……貴族ってそんなことしてるんですね……」
「君たちも、この戦いが終わったらロドン君の故郷に行ってみるといい。……ただし、ワープゲートの存在を秘匿しなければならないから現地人との接触は禁止だし、ウチの兵士の監視付きだがな」
「へぇ、ロドンさんがいた世界ですか……どんなところなんでしょう」
ロドンはため息をついた。
「でも、戦いが終わるのは当分先になりそーだな」
「……そうでもないようだ」
ミラが上空を見上げる。
「来たぞ」
まっすぐに、サメが飛来してきていた。防衛機能も通用しないことが判明したいま、街の命運はいま塔の上に集まったクレス、ロドン、ミラとその部下たちに託されている。
「僕がワープゲートを作る!ロドンは【発射】の能力で、ワープゲートの中にサメを押し込んでくれ!!」
「オーケー。ただただ、全力でぶん殴れば良いんだな」
「サメの向こう側へ回り込みましょう!!」
クレスとロドンは空飛ぶ箒に乗って茂みと茂みの間を縫う低空飛行をする。サメは、クレスたちの箒とワープゲートに挟まれる格好になった。
「よっしゃ、行くぜ」
ロドンは箒から両手を離し、2本の脚で立ち上がった。
「【発射】──!!」
ロドンは箒から飛び出した。拳を握りしめ、一意にサメへと狙いを定める。
「ぶっ飛べ!!」
ロドンはサメへ殴りかかろうと、握り拳に力を込めた。
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