大魔法石奪還作戦
ロドンが、両手を広げて箒から飛び降りる。剣をサメの身体に突き立てて、自分の体を引っ掛けた。
「離せ魚野郎ッッ!!」
ロドンは左手を伸ばし、魔法石を必死で押し引きする。しかし、サメの歯は魔法石に深く食い込んで離れない。
「石だけを引き剥がすのは難しそうだな」
ピシリ、と音がした。魔法石にはサメの歯が食い込み、縦にヒビが入りつつある。このままでは、魔法石がサメに喰われて糧となるのも時間の問題だ。
「でも、【発射】したらどこに飛んでいったかわかんなくなるか……」
「ロドン!魔法石を【位置交換】でどこかへやってくれ!!」
ミラが、サメの頬にしがみつくロドンに向かって叫ぶ。
「良いのか?貴重なモンなんだろ!?」
「魔法石が喰われれば、そいつの魔力が強化されてスキルの威力が上がってしまう!それならいっそ、サメもすぐには見つけられないほど遠くに捨てたほうがマシだ!」
「……そうか!じゃあ悪く思うなよ!!」
ロドンはサメから剣を抜き、組み付いていた両手を離す。そして、サメの身体から飛び降りと左手の先で魔法石に触れた。
「【位置交換】──!!」
宇宙の小さな隕石のかけらと、サメに噛まれていた魔法石が入れ替わる。
「やべっ!!」
ロドンは急いで手を引っ込めた。それから刹那の後に、サメの顎が隕石を噛み砕いた。
「……隕石って、鉄とかだよな!?」
ロドンが落ちていく。無防備なロドンの身体を真っ二つにするべく、サメの巨大な口が来襲する。
「させません!!」
見えない速さで箒がやってきた。自由落下するロドンの身柄は箒に乗ったクレスの身体に引っかかって回収される。
「サンキュー」
ロドンはクレスの体に直接しがみついていた姿勢から、器用に箒の後部座席へ移動する。
サメはこれ以上戦っても得るものはないと考えたのか、遠い地平のむこうへと帰っていった。
「──サメのパワーアップは免れたけど、防衛機構の充電もできなくなったか。こりゃやべーな」
ロドンが汗とサメの血を拭う。
着地したクレスたちのもとへ、商隊を逃し終えたミラたちが落ち合った。
「どうしますか、父上」
紋様の刻み込まれた小さな石に王子が語りかけた。石は遠隔で会話ができるものらしく、国王の声が返ってくる。
「してやられたな。このままでは防衛機構も半日と
「箒に乗れる魔術士たちを通商に向かわせる、というのはどうでしょうか。僕やロドンさんなら護衛が務まるはずです」
「駄目だ。お前たちスキル所持者を護衛につけることはしない」
「何でだ?魔法石さえ補充できりゃ、何回サメが来てもレーザーで粉々にできるだろ?」
「いくらスキル所持者と言えど、戦いの素人集団である通商隊を防衛することは難しいだろう」
「しかし、それでは打つ手がないということになりますが」
少し、間があった、通信機の向こうの王は、何か逡巡しているようだった。
「ロドン。聞いているか?」
「なんだ?」
ロドンは、いきなり指名されて面食らった。
「城への中庭、『花園』へ向かえ。そこで、王妃からスキル譲渡の儀式を受けろ。きっとヤツを殺すのに役立つはずだ。やり方は知っているな?」
「ああ。指輪を受け渡ししたら良いんだろ?」
ミラがなにか言いかけたが、王は意に介さず続けた。
「ああ。許可する。ミラはそこに残ってもらうから、先に行っておいてくれ」
「そうか。なら早速行かしてもらうぜ」
ロドンは階段へ向き直って、降りていった。
「ロドンは行ったか?」
王は確かめるように言った。王子が肯定する。
ミラの、通信機を持つ手が震える。
「父上。貴方は何を考えているのですか」
通信機から、深い溜め息がひとつ聞こえた。
「……王妃があのロドンにスキルを奪われても、サメ退治には協力しろ」
ミラは我が耳を疑った。
「は……?スキルを奪われたら、母上はすぐにでも病で死んでしまうのでしょう!?」
「奴を倒すには、ロドンの力を借りるしかない」
「でも……!」
「ここが、儂らの限界だったのだ」
そう言い残して、通信は途切れた。通信用の魔法石はただの石に戻る。
ミラは少しだけ立ち尽くした後で、踵を返して歩き出した。
スキルを渡せば王妃は死ぬ。サメ退治のためなら、王妃がスキルを奪われ死んでしまうこともやむを得ない。王はそう言ったのだ。
そこでミラはふと、この世界で常識とされている一つの事実に思い当たった。スキル所持者は、他のスキル所持者を倒せばスキルを奪うことができる、ということだ。
王子は拳を握りしめ、静かに決意した。ロドンの”力”を借りるしかない、と。
◆
花園にやってきたロドンは、クレスが説明した経緯を頷きながら聞いていた。
「死にたがりの【不老不死】人間か。スキルを簡単に明け渡すと思ったら、そんな事情があったわけだな」
「直接殺すわけじゃないにしろ、俺がスキルを貰ったことで人が死ぬのはなあ……?」
煮え切らない態度を見せるロドンに、王妃は話題を転換した。
「……スキルを得たサメがたくさん人を食べたから、あなたたちが遣わされた。そうよね?」
「ああ。そうだな」
王妃は、悲しそうな目を見せた。
「──あのサメは、私がこの世界に呼んだの」
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