炎と煙の中の決着

 ロドンは剣を抜いて、領主に斬りかかった。しかし領主はロドンへ右手を向ける。


「効かん!」

 ロドンは持つ剣が急激に重くなったように感じられた。そして剣は、走ってきていたゴーレムの方へ吸い寄せられた。


「やべっ……!」

 ロドンは手を離すのが間に合わず、ゴーレムの方へ倒れかかった。そこへ、ゴーレムによる文字通りの鉄拳が降りかかる。


「ぐっ……!!」

 ロドンはたやすく転がされたが、すぐに立ち上がる。


 見ると、さっきまで持っていた剣はゴーレムの腹に張り付いている。

「まあいいや……剣が無ぇなら拳でやってやる」

 ロドンは領主へ向かって走り出すと、ゴーレムが割って入った。


 再びゴーレムの拳が繰り出されるが、ロドンはその拳へ自らのパンチをぶつけた。

「【発射】──!!」

 ゴーレムの体はすっ飛んでいくが、鋼鉄の塊を殴りつけたロドンの拳も無傷ではなかった。肉が裂け、血のあふれる痛々しいものになっている。


「無駄な足掻きはやめろ。俺がこのままゴーレムの裏に隠れ続けたら、お前はいずれ拳が砕けるぞ」


「上等だ。ゴーレムの充電……いや、魔力か?そういうのが無くなったときは、バキバキに折れた拳でテメーをボコってやるよ」


「ロドンさん!」

「領主の能力はものを磁石にする【磁化】だと思われます!矢や剣がゴーレムに吸い寄せられたのはそのせいかと!」


「おお、サンキュ!──にしても急だな。なんでわかったんだ?」


「えっと……サメが、磁力を感知して獲物を探すからですね……」


 その場にいる全員には、もはや聴き慣れてしまった唸り声が聞こえた。上空には、巨大な空飛ぶサメの姿がある。


「またかよ!!」

 顔をしかめる領主と対極的に、ロドンはニヤリと笑った。

「でも今回は【探知】をコピーできないし、お前が能力を押し付けて逃げる兵士もいないぜ」


 サメは領主に飛来するが、領主はつまらなさそうに笑った。

「構わん。俺はサメには喰われん」

 サメはある程度まで領主に近づくと、突如不快感を催したように後ろを向いて離れていった。


「何しやがった……!?」


「その娘が推察したとおりだよ。自分に【磁化】の能力を強く発したのさ。感覚器官なんてのは、その許容範囲キャパシティを超えるほどの刺激を加えればバカになるだろう?」

 領主はゆっくりとロドンへ近づく。

「これでお前は、俺のゴーレムとサメの両方を相手にしなければならなくなったわけだな」


 迎え撃とうとしたものの、ロドンは拳が痛むようで、わずかにスキが生まれた。そこへゴーレムが飛びかかる。ロドンはゴーレムの両腕を掴まれた。

「【発射】はただふっ飛ばすしか能の無いスキル。ならば貴様自身をがっちりとホールドしてしまえば良いのだ」

 領主は勝ち誇ったように宣言する。


 拘束されたロドンの頭上からはサメが飛来する。万事休するかと思われた。

 しかしサメを一瞥して、ロドンは鼻で笑った。


「それがどうした!」

 ロドンはポケットから、小さな瓶を取り出した。

「頼むぜ。クレス」

 地面に叩きつけられた瓶からは炎が飛び散り、辺りの草原や低木に引火した。刻一刻と、周囲は赤や橙色の光が広がっていく。


 領主は跳ね回って足元の火を避ける。

「くそ……ゴーレム、戻って来い!」

 領主は少しでも火から遠ざかるため、ゴーレムの体を登った。しかし煙からは逃れられず、涙を流し咳き込んでいる。

「イカれた馬鹿者め、早く消せ!!このままでは共倒れだぞ!!」


「消さねーよ」

 ロドンはニヤリと笑って、じわりと湧き出る汗を拭った。

「俺には、空飛ぶ箒の操縦なら最強の相棒がいるからな」


「ええい、強がりを言うな!!周りを見てみろ!!」


 ロドンと領主は足元をジリジリと焼かれる。立ち上る熱で目を開けていることも難しい上に、嵩を増していく煙は空まで覆わんばかりの勢いだ。


「あの魔女はこんな視界の中でどうやってお前を見つけると言うのだ。まさかスキルでも持っているわけでは──」

 領主には思い当たることがあった。先程ロドンの【探知】スキルを奪えなかったということは──【探知】スキルを預かっているスキル所持者がいるはずなのだ。


「さっき言ったろ?俺の【探知】スキルはいま預けてる。──クレスじゃなくて一緒に乗ってるレモラの方だけどな」


「このまま真っ直ぐだよ!!」

 レモラの声がした。

 凄まじい風圧とともに、煙の中から黒いローブの少女が現れた。その黄色い目は、ロドンの姿を真ん中に捉えている。

「ロドンさん!!」

 箒に乗ったクレスとレモラは、ロドンをひっつかむとすぐさま煤と煙の立ち込める中から脱出した。


「お、おい待てお前ら!!良いのか!?俺が自殺すればスキルは手に入らないぞ!!!!」

 ロドンはため息を付いた。

「往生際の悪りぃ奴だな」


「とはいえ、これで詰みですね」

「お姉ちゃんたちの勝ちだね!」

 クレスは微笑んで、レモラの頭を撫でた。

「レモラちゃんの指示のおかげですね」


 ゴーレムの上で踊るようにして熱さに悶えていた領主は、箒から伸びる長いロープに絡め取られて引き上げられた。


 煙に燻される領主のもとへ、ロープをするすると降りてきたロドンがやってくる。

「はっ……な、何だ!?」

 狙撃用に購入したゴーグルを付けたロドンは、煙によって目を開けられない領主の襟を掴んだ。

「それじゃ貰うぜ。アンタのスキル」

 領主の頬が、平手に張り飛ばされる音がした。ロドンのスキルは【発射】【探知】【催眠】【スキル複製】【位置交換】【必中】【磁化】の計7つとなった。

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