作戦会議
風を切る箒は城壁を抜けて、茜色に染まりつつある空の下を滑空する。箒は運転手のクレスを先頭に、真ん中のレモラを背後から支えるようにロドンが座っている。
「戦いになれば、ロドンさんの【発射】【探知】【催眠】、レモラちゃんの【増殖】のスキルが頼みです。よろしくお願いしますね」
「クレスお姉ちゃんの魔法も、たよりにしてるからね!」
ロドンが力強く頷く。
「そうだな。逆にアイツの注意しなきゃいけねえところは──」
「ええと、召喚魔術とルカさんから奪った【位置交換】と、遠距離にいる私達に矢を飛ばすスキル──って、あれ?」
クレスは言っているうちに、何か気づいたようだった。
「どうした?」
「ロドンさんの【探知】スキルによれば、領主はそう遠くには行っていないんですよね?」
「ああ。でも結構遠いぜ。何回か【位置交換】を使ったっぽいから、クレスの箒でも30分──は、この世界じゃ伝わらないか。まあ、1から2000数えるくらいの時間はかかる」
「でもあの領主は、今この瞬間も【位置交換】を使ってるわけではないんですよね?」
ロドンは目を閉じて、【探知】スキルを用いた。脳内にぼんやりとした地図のようなものが浮かぶが、その様子は先程までと変わっていない。高速で進むクレスの箒のお陰で、距離はじわじわと縮みつつある。
「……そうだな。言われてみりゃ変だ」
「スキルって、何回かしかつかえないとかあるの?」
レモラが訊ねるが、クレスは首を傾げる。
「うーん、スキルにはまだまだ謎が多いのでわかりませんが、少なくとも私は聞いたことないですね……」
「ってかそもそも、アイツが【位置交換】を使いこなせてるのがわからねぇ」
「そうなの?」
レモラが振り返る。
「【位置交換】は交換するモノの姿と位置を認識してないといけないからな。見えねぇもんを【位置交換】するためには、モノの在り処を探る【探知】スキルを使わなきゃならねぇ」
「じゃあ、領主さまはそのスキルをもってるの?」
「どうだかな。クレス、全く同じスキルが被ることはあるのか?」
クレスは首肯した。
「ありえます。もしくは、スキルを授受する3つの条件のときにお話しした『スキルを奪うスキル』を持っているかですね」
「あー、そういえばそんな事も言ってたな」
ロドンは後頭部をぽりぽりと掻く。
「じゃあ、『スキルをうばうスキル』できまりだね!」
レモラは閃いたらしく、右拳を左の手のひらに打ち付ける。
「どうしてですか?レモラちゃん」
「だってさっき、テントに矢をとばしてきたもん。【探知】はもののばしょがわかるんでしょ?レモラたちのお家がわかったのもスキルをつかったからだよ」
「……なるほど。そうかもな」
「スキルをコピーするスキル……仮に【スキル複製】と呼びましょうか。それでロドンさんから【探知】をコピーし、【位置交換】と組み合わせて逃走。そして【探知】でレモラちゃんのお家の位置を割り出してテントに矢を撃ったということですかね」
「ああ。そっからわかることは2つだな。『【スキル複製(仮)】でコピーしたスキルには制限がある』と、『矢を撃つのに使ったもう一つのスキルがある』だ」
レモラは首を左に傾けた。
「どうして分かるの?」
「逃げるだけなら、さっき言ったみてぇに『【探知】で位置を特定した遠くのものと自分を【位置交換】する』ってのを繰り返してりゃいい。なのに領主は普通に逃げてる。ってことはたぶん、アイツはいま複製した俺の【探知】スキルを使えねぇ」
「確かに。そう考えられますね」
「そんで、【探知】でイディアを探し出したとしても、すげー遠くから撃った矢をピンポイントで当てるなんてことはできねぇ。もう一個スキルがあって、それを使ってるんだろ」
……と、言い切ってからロドンは不安になってクレスに訊ねた。
「──だよな?もしかして、俺が知らないだけで必中の魔術とかあんのか?」
「いえ、必中の魔術は現行の魔術体系では発見されてません……たぶん!田舎とはいえ魔法学校主席の私が知らないんですからきっとないはずです!」
「さっきみたいなのが、また来るんだね……」
少し縮こまったレモラの背中を、ロドンは励ますように軽く叩いた。
「……それと、もう一つ気をつけることがある」
「え、まだあるの?」
レモラはきょとんとした顔でロドンを見上げる。
「城で兵士に訊いたんだ。領主はこれまで3人のスキル所持者を殺してきたらしい。そのうちの一つは兵士に移した【催眠】だろうが……アイツはルカから【位置交換】を奪ったから、転移してきたときに持ってたのと合わせて領主はスキルを4つ持ってることになる」
「【位置交換】と【スキル複製(仮)】、【必中(仮)】に加えて、領主はもう一つスキルを隠しているってことですね」
レモラは緊張と不安の表れたような声を漏らす。
「む、なんだかややこしいね……」
ロドンが頷く。
「油断すんなよ。相手はなんだかんだ強い」
クレスは、ちらりと後方のロドンとレモラを振り返った。
「でも私たちも、なんだかんだ強いですよ」
「ああ。それもそうだな」
ロドンは頷いた。箒の柄を太ももで挟んだ姿勢で手を離し、拳の関節を鳴らす。
「──そろそろ領主が見えてくる距離だ。殺さねぇ程度にボコってやろうじゃねーか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます