壁に囲まれた街

 スキルによって瞬間移動を果たした先は、暗い森の中だった。

「それ重いでしょ。ありがと」

 ルカに言われて、クレスは抱えていた宇宙服をゆっくりと地面に下ろした。

「確かに、すごく重いんですねこの服」


 クレスはルカに向き直った。

「ルカさんのおかげで助かりました」

 繰り返し頭を下げる。


 ルカは苦笑いして、首を傾げた。

「まぁ、先送りしただけで解決したわけじゃないけどね。二人の目的はあのサメを殺すことなんでしょ」


「まぁ、これからぼちぼちやっていくさ」

 ロドンはあくびをしつつ寝転がった。

「スキル所持者を倒せばスキルを奪えるんだ。これから俺たちは、あのサメを倒せるだけの能力を少しずつ集めていけばいい」


 ルカは、何かに気づいた素振りを見せた。

「……もしかして、アタシを今ここで倒すつもり!?」

 ルカは、両腕を抱えるように交差させて身を守った。


 ロドンは鼻で笑う。

「いや、そんなことしねぇよ。命の恩人だからな」


 横からクレスが割って入る。

「倒さなくても、神殿で儀式を行えばスキルは授受できるので。スキル所持者の方を探していきます」


「あ、そうだ」

 ロドンが半分だけ身を起こした。

「お前ェのスキル、これから使わねぇならくれよ」


「えー……何かと色んなことに使えそうだし、あんまり手放したくないな~」

「な、何に使うつもりですか!」

「そりゃもう……ねぇ?」

 ルカは悪巧みをするときの表情を作った。

「ロドンさん、この人は危ないですよ!」

「ねークレスちゃん。この能力、『向こうの世界』に持って帰れたりしないの?またあの白いゲート通ってさ」

「向こうの世界に戻ったら、能力は全て失われますよ!」

 ルカは口をとがらせた。

「なんだ、つまんないの」


 ロドンが苦言を呈する。

「オイお前ら。いつまで茶番やってんだ。明日はすぐ次の街に行くんだろうが」


「はい……」

 クレスはしょぼくれた。

「強力なスキルでしたが……仕方ありませんね」


「え、ちょっと待ってよ。スキルは使わせてあげるってば」

 ルカは手をパタパタと振った。


「えーと、どういうことですか?」


「アタシも二人の任務について行くよ。あの時、あの場所に転移してきたのも……きっと何かの縁でしょ」

 ルカは、胸を拳で軽く叩いた。


「危険だぜぇ?またあのサメとカチ合うことになる」


 ルカは口元に手を当て、半目でロドンを見下ろした。

「えー?アンタこそ、次サメに遭ったらアタシの能力無しで逃げられるの?」


 ロドンは片方の口角を上げる。

「言うねぇ」


 クレスは目を輝かせた。

「ありがとうございます、ルカさん!」


 ロドンは歯を見せる。

「助かるぜ」


 ルカは目を細めた。

「これからよろしくね」


 ◆


 すっかり明るくなってから、三人は街道を歩き始めた。


「宇宙服、置いてっても良かったんじゃねぇの?」

 ロドンは手の甲で汗を拭う。炎天下の進行で背負う宇宙服は、なかなか厄介な荷物らしい。


「アタシもそう思ったんだけどさー。クレスちゃんが持ってけって言うから」

 クレスとロドンの少し先を歩くルカは、身軽に跳ねる。荷物の類を一切ロドンに押し付けたのだ。


「何が役に立つかわからないので……」

 クレスは汗を拭う。濃紺の魔女装束は熱がこもるらしく、スカートを扇ぐようにはためかせている。


「ああそうだ。そう言えば……お前ェがなんで宇宙服を着てたか訊いてねぇな」


「そりゃ、宇宙飛行士だからね」


 クレスが目を輝かせた。

「じゃあ、ルカさんはあの空の向こうに行ったんですか?」


「うん。そうだよ」


 クレスは両手を組んだ。

「いいなぁ~~!!」


 ルカは人差し指でこめかみを掻く。

「箒で空を飛べるほうが羨ましいけどね~。こっちの世界には魔法なんてないもん」


「でもそんなに高くは飛べないし、荷物もそんなに積めないから遠くにもいけないので……」


「じゃあさ!」

 ルカは手のひらを拳で叩いた。

「もし向こうの世界に一緒に行ける時が来たら、内緒で乗せてあげるよ」


「できんのか?そんなこと」

ロドンが水を差す。


「わかんない!けど、未来のことは未来のアタシがどうにかするでしょ!」

 ルカの左手はクレスの頭を半ば乱暴になでる。

「えへへ……ありがとうございます。期待してますね」


「あ!」

 ルカは、進む先に何かを認めた。

「次の街って、あれ?」

 ルカは進行方向を指差し、振り返る。


「はい。あれが第二の街、クナルトです」


「街っつぅからもっと小せぇのを想像してたけど、ちゃんとした都市って感じだな」


 街は、白い壁で囲まれていた。壁の向こうからは領主のものと思しき城が顔を覗かせている。

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