星の欠片

「手伝えることなら何でも手伝うよ!」

 ルカが言った。


「今から、あのサメと宇宙にある隕石の欠片を入れ替える」


「……へ?」

 返答に、ルカとクレスは面食らう。ロドンは天へ向けて人差し指を突き立てた。

「俺の指差す先。上空約680kmに小さな星の欠片が流れている。隕石と言ってもかなり小さいから、きっと地面に落ちるまでに燃え尽きるだろうな」


 クレスは、ぴっと小さく手を挙げる。

「ロドンさん、どうしてそんな事がわかるんですか?」


 ロドンは鼻で笑って答える。

「おいおいクレス、俺はさっきスキル所持者をぶっ倒したばっかりだろ?」


「……あ、さっきのゴロツキたち!」

 暗闇の中、遠くの森の中から矢を射かけてきた数人組のことを思い出していた。


「アイツらが使っていたのは、物の位置を探り当てられるスキルだったらしい。さしずめ【探知】スキルってとこだな。これで俺たちの居場所を特定して矢を射ってたんだろ」


「ごめん、むつかしい話は後でお願い!」

 ルカは祈るように両手を合わせる。


「おっと、そうだった」

 ロドンたちはサメへ身体を向けた。ロドンに吹っ飛ばされたサメは、性懲りもなく舞い戻ってきている。


「んじゃ、作戦開始だ」

 ロドンはルカの手を引いて走り出す。

「えっ、ちょっと!」


 サメは口を大きく開くと、身を捩った。唸り声がルカとロドンの胃袋に響く。


「でっか……!」

 至近距離で向かい合う巨体に、ルカは怯えた声を漏らす。


「安心しろ!お前ェとクレスは死なせねぇ!!」

 ロドンはサメの顎へ剣を突き立て、サメの進行方向をずらした。


「頼んだ!!」

 ロドンは急に、ルカの手を引っ張った。

「【発射】!」


 ルカの身体は宙に投げ出され、魚雷のようにすっ飛んでいく。

「うぇっ!?」

ルカはサメの頬へ両手をついた。


「今だ!【位置交換】のスキルを使え!!」

 ロドンが怒鳴り、ルカは訳もわからないまま叫ぶ。

「いっ、【位置交換】!」


 さっきまで、サメのいた空間からサメの姿が消えた。

代わりに、灰色と茶色の混じった金属塊が出現した。


 石が重低音をたてて着地する。ルカとロドンの身体は、衝撃波で後方へ飛ばされた。


 土煙が晴れていく。夜闇の中に、ひときわ真っ黒い影が鎮座している。

「お……おぉ……」

 ルカは尻餅をついた姿勢のまま、立ち上がることができない。


 遠くから、ぱたぱたとクレスが駆け寄ってくる。

「お二人とも、大丈夫ですか!?」


「立てるか?」

 ロドンが、ルカに手を差し伸ばした。

「悪いな。不意打ちじゃねぇとあのサメには効かねぇと思ったんだ」


「まあ、ビックリしたけど……助かったからオッケーだよ」

 ルカは尻についた土を払った。

「この世界には、あんな生き物がいるのねぇ」


「いや、アイツはイレギュラーだ。俺やルカと同じ、別の世界からスキルを与えられてやってきたサメだからな」


「じゃあ、あんなヤツはもういないのね」


 ロドンは首を横に振った。

「いや、俺の【探知】スキルによれば……アイツは遥か上空からこっちへ向かって泳いできている。ゆっくりとだけどな」


「え、じゃあもっと遠くへ逃げないといけないんじゃない?」


 今度はクレスが首を振った。

「そういうわけにもいきません。私とロドンさんは、あのサメを倒すことが任務なんです」


「え、嘘でしょ!?あれ空飛んでたし、一軒家くらいの大きさだったよね!?」


 ロドンは頷いた。

「あと硬くて傷一つつかねぇし、溶けてもすぐに治る」


「ヤバくない?チートじゃない?」

 ルカの顔が青ざめていく。


「スキル所持者は倒した相手のスキルを奪えるんだ。あのサメはスキル所持者を喰いまくっていくうちにああなったんだだろう」


「だから私たちは、サメに勝つためにスキルを集める旅をしているんです!」

 クレスは小さな手を額に当て、敬礼した。


「なるほどねぇ」

 ルカは腕を組んで唸る。

「任務ってことは、誰かに言われてやってるの?」


 クレスは頷いた。

「はい、王様が直々に下したミッションです!」


「……そっか」

ルカは、任務という言葉を繰り返し呟いた。


「……そういうわけだ。次の街へ向かうから、俺たちを【位置交換】で飛ばしてくれ」

 ロドンは、街道から少し右に逸れた先を指差す。

「50kmほど先だ。山の中腹に俺達と同じくらいの高さの低木が生えてる。それと入れ換えてくれ」


「直接クナルトの街に入っちゃダメなんですか?」

 クレスが訊ねた。


「その街の法律がどうなってるのか知らねぇけど、不法侵入だとか言われると面倒臭ぇ。今夜は街外れの宿屋で泊まって、クナルトの街には明日の朝すぐに入る」


「確かに、穏便に行くべきですね」


 やり取りを見届けたルカが口を開く。

「なるほど。それじゃあやるね」

 ルカは、クレスとロドンの手を握った。

「準備はいい?」


「ああ」

「はい!」

 クレスとロドンが力強く応え、ルカはにこりと笑った。


「それじゃあいくよ、【位置交換】!」

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