第17話 異世界伝記

翠は自分と使用人、来客者用のベットを購入し、家具屋と同様で、屋敷の住所を指定するとその場所へ送り届けてくれるシステムが採用されていたので、それをお願いし、夕方ごろに届くとアルが教えてくれた


皆で屋敷へと帰ろうとしている時に、道中に本屋があった事を思い出し、情報収集も兼ねて本屋へ寄ろうと考えた。少し時間がかかることを考えて、1人で行くことにした翠


翠「ごめん。ちょっと寄りたいところがあるから、先に帰って貰っても良い?」


カレナ「畏まりました」


カレナが先導し、皆を連れて帰るのを確認した翠は先程見かけた本屋へと向かう


ここか?


そこには先程までとは違って、オシャレというよりは古びた歴史を感じるお店といった風貌のお店があった


翠「レリックっていう名前なんだ」


レリックという本屋に入ると、そこは少し埃が被ったような空間で、薄暗い雰囲気を醸し出していた。店内にはお客さんはいなく、店員の姿も見えなかった。このお店は営業していないのかと考えた翠だったが、戸が空いていたことを思い出し、こういうスタンスのお店なのかと考え、気にしないで本を探すことにした


少し店内を歩き回って本を探していると、ある本が目に付く。そこにはこう書かれていた


翠「…異世界伝記?」


異世界という言葉は、この世界でも浸透している言葉ではないことに気づき、違和感を感じる翠。手に取って表紙やタイトルを眺めていると、ある違和感に気づく


翠「これ日本語じゃん!?」


異世界に来たことで得たスキルのおかげで、言語全てが自動翻訳されていたこともあって、言語が違うことにすぐ気づかなかった翠であったが、日本語で書かれたその本を急いで開いてみると、そこには色々な事が書いてあった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


          やぁ

この本を読んでいるということは、君は日本人なんだろう。俺も日本で生まれ育った。そして日本から来た転移者だ。あれこれ生い立ち話をするのも悪くはないが…それはまた別の機会にしよう。今回これを読んでいる君に伝えたいことは大きく分けて2つ


     1 : 俺が異世界に来た理由

     2 : 帰還への手掛かり


まず俺が異世界に来た理由だが、帝国という国に集団転移させられたんだ。俺は当時高校に通っていた高校生だったんだが、クラス毎全部転移させられた。そこで俺達は魔王を倒すために力を貸して欲しいと頼まれた。異世界に来た喜びや転移の際に女神から貰える新しいスキルに期待しちまった俺達は、二つ返事でその話を受けちまった。


それが間違いだった。


最初は訓練やモンスター討伐で、魔王を倒すための訓練だと考えていた。だけど、そのうち相手が人間になってきたことに気づいた。帝国の王からは魔王討伐をしようとする俺達を邪魔する敵だ、という説明を受けた。だがそれは嘘だった。本当は魔王の脅威なんてなかった。他国を占領して自分のものしようとする帝国の策略だったんだ。気づいた時には遅かった。もし君が同じような境遇でこの世界に来たなら今すぐそこから離れろ。俺達と同じ過ちは犯すな


次に帰還への手がかり。お前もこれは知りたい情報だろうから結論から言おう。帰還の方法はない


翠「そ、そんな…」


だが絶対じゃない。それは俺達が探せた範囲での話だ。俺達は女神から得たスキルで、この世界では人類最強クラスとなった。そこでモンスターが蔓延っているダンジョンに行くことになった。怪我人や時には死人まで出た。だけど俺たちのクラスは誰一人裏切りや抜け出すことはなく、皆で協力してダンジョンをクリアしていった。すると、最下層と思われるところに辿り着いた。目の前にはでかい扉があった。その扉を開けようとしたが、開かなかった。スキルや色んなことを試したが、プロテクトの魔法が掛かっていてビクともしなかった。もしかしたらその先に何か情報があるのかもしれない。だけど俺達には開けることは出来なかった。もしお前が諦めきれずに帰還方法を探すというなら、そこに行ってみると良い。何かがあるとしたらそこだ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


本の内容はここまで終わっていた。本を読み終えた翠はいきなりの話に頭が追いつかず、情報を整理しようとしていた。すると後ろから声ががかる


???「お前さんその本を読めるのかい?」


本の内容を頭の中で整理していたのと、いきなり声をかけられたこともあって、声を出して驚く翠


翠「っわぁ!!?」


???「おや。そんなに驚くとは思わなかった。すまないね」


後ろから現れたのは、杖をついた老婆だった


翠「えっと…あなたは?」


???「ここの店長をしておるマロネというものじゃ。マロ婆と呼んでくれ。でお主、その本を読めるのかい?」


翠「…えっと…そうですね…一応読めますね」


翠は日本語が読めるのを怪しまれたかと考え、誤魔化そうと考えたが、この本は貴重なものであると考えているため、持ち主の店主であるこの人に下手な対応は出来ないなと考えた


マロ婆「そうかい。ならその本をお前さんにくれてやるわい」


翠「え…良いんですか?」


どうやってこの本を手に入れるようか考えた翠にとっては拍子抜けの言葉だった


マロ婆「構わん。その代わりこの老婆のところに、また遊びにでも来ておくれ。見ての通りに暇なんじゃ」


この世界では本の希少価値が高い。そのため庶民が簡単に買えるような金額ではなかった。その上この見た目では、貴族も購入しに来ることは少なく、お店には誰も近づかないようになってしまっていた。そしてマロ婆は随分前にモンスターによって夫も亡くしているということで、今ではほとんど話し相手がいないそうだ


翠「わかった。また近いうちに遊びに来るよ」


可哀想に思った翠は、また近いうちに来るということを約束して、屋敷へと帰宅して行った


        第17話終わり

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