第13話 常識の欠如
それぞれの役割を決めた翠は、この殺風景な屋敷のを早急に変えなければと考えていた。自分だけならまだしも人を雇ったからには、それなりの家具を揃えるべきであると考え、必要なものを買いにいくことにした
翠「じゃあ役割も決めたことだし、家具とか色々必要な物を買いに行こうと思うんだけど、僕1人で行ってもなんだから皆で行きたいんだけど大丈夫そう?」
アルフ「日用品なら私達が買いに行きます!」
翠「日用品もそうなんだけど、この家家具とかもないから、それも欲しいなって思ってさ」
アルフ「それは私達もご一緒にしても宜しいのでしょうか?」
基本貴族は娯楽品などの買い物の際、自ら店に赴いたり、専門の人を雇って購入したりする。そのため奴隷と共に行動することはなく、日用品などの買い出しのみ奴隷は外出することが許されるのが、普通であった
翠「うん。当たり前でしょ…だけど全員で回るのは効率が悪いよね。じゃあいくつかの班に分けて買い物に行こうと思うんだけどそれでいい?」
主人がいない間に逃げようとした奴隷は数多くいる。だが奴隷の紋章がつけられているため常に場所は把握されており、逃げようとすると手首に激痛が走るような魔法がかけられている。そのため逃げ出す心配はない。翠はそのことを知らないが、逃げ出したとしても構わないと考えていた。だが奴隷達は逃げることなど頭にはなかった。仮に逃げられたところで生活するのが難しいことがわかっているからである。それにむしろいい主人に出会えたことに感謝すらしていた
翠「まずは家事担当のカレン、ロット、アリサは食料や服の調達をお願いしたい」
カレン、ロット、アリサ「はい!!」
翠「ミーナはカリンたちの護衛で一緒に行ってくれないか?」
ミーナ「畏まりました」
翠「イヴァン、アレクサンダーは武器や防具の調達を頼む」
イヴァン「はい!」
アレクサンダー「おう!!」
翠「自分にあったものをしっかり選んできてくれ。あと予備の武器もあった方がいいからそれも頼むイヴァン」
イヴァン「はい!」
翠「ミズキには必要な本と薬に使う道具や素材を買ってきてくれるか?」
ミズキ「わ、分かりました」
翠「護衛としてはアルバートが同行してくれ」
アルバート「畏まりました」
翠「カレナ、カレア、レイ、カリンは俺についてきてくれ。一緒に家具を選んで欲しい」
カレナ、カレア「畏まりました!」
レイ、カリン「はい!」
翠「じゃあお金を渡すから頼んだもの以外にも気になった物があったら買ってきていいから。それぞれの班に白金貨5枚ぐらい渡すから足りなかったら言って」
使用人達「え?…」「…はい?」「…ん?」
と色々な反応を見せる使用人達
翠「え、足りない?」
異世界の物価ってそんなに高いのか?
翠がそれぞれのグループに白金貨を5枚ずつ渡すと言った途端、皆が集まって何やら話を始めた。それは当然の事であった。通常の家庭は月に銀貨3枚ほどで生活するのが基本である。そのため雑貨や日用品に白金貨5枚をかけるなど聞いたことがなかった
翠「?」
アリア「翠様ってもしかしてお金遣い荒い?」
アルフ「今どのぐらい手持ちがあるんだろうか?」
カレア「それって聞いていいのかな?失礼にならない?」
アリア「…いえ聞いたほうがいいわね。それに翠様なら、そんな小さいこと気にしないと思う。それに私は経理を任されてるから確認する必要があるわ」
アルフ「そうだね。聞いてみよう」
話を終えたアルフ達は疑問になった事を翠へと投げかける
アリア「翠様1つ質問をしても宜しいですか?」
翠「うん」
アリア「現在の翠様のお手持ちはいくらぐらいあるのでしょうか?」
翠「え〜と…陛下から白金貨50枚貰った後君達を奴隷商で…」
使用人達「へ、陛下!?」
翠「え、うん」
使用人達は顔を見合わせた後アリアが翠へと質問をする
アリア「へ、陛下とお知り合いなんですか?…」
翠「あ、うん。ちょっと色々あってね」
奴隷達(い、色々とは…?)
色々あったからで済むほど簡単な事ではなく、陛下に会うことが、どれだけ凄いことか翠は知らなかった。そんな疑問を聞くまでもなく、翠が特殊な人物である事は皆うすうす勘付いていた。だが、まさか陛下と知り合いだとは考えもしなかったのである
翠「あ、あともう1人この家に来ることになるかもしれないから。まぁ当分先の話になると思うけど、その時は宜しくね」
アルフ「もうお一方ですか?」
翠「うん。さっき言ってた陛下の娘さんだよ」
使用人達「えぇ〜〜〜!!!!!!」
翠「え、な、なに…」
アルフ「な、なんで王女様が!?」
翠「僕がシルと婚約するからだよ?あ、シルっていうのはシルフィード第二王女様のことね」
奴隷達はみんな口を開いて驚いた顔をしていた
アルフ(それって…)
アルフは気づいていたが、口に出すことはなかった。翠も半ば強制的に決められた婚約ではあったが今では後悔していなかった。だが第二王女とはいえ、王女と婚約することがどういうことを意味するか翠はまったく理解できていなかった。翠はみんなが驚いているのを無視し更に追い打ちをかける
翠「そうだ、シルとの婚約パーティーをこの屋敷で開くことになってるから、家事の人達は気合いをいれて頑張ってね!陛下とかいろんな貴族が来るらしいから」
カリン、ロット、アリサが青ざめた表情をし、他の人達は同情するような目で3人を見つめていた
翠「あ、カレナ、カレアもだよ?」
カレナ、カレア「…え?」
翠「貴族の人達の案内をして貰う予定だからね」
カレア、カレア「…」
翠「まぁそのためにも家具とか色んなものを揃えないといけないから買いに行こうか」
使用人達「…はい」
皆あまりにも驚く話を1度に聞いてしまったため当初の目的を忘れていたのであった。その後衝撃的な話を聞いて固まっている使用人達であったが、翠の一声により気を取り戻した
翠「じゃあ行こうか!!」
各自のグループに白金貨5枚を渡した。それにより奴隷たちは当初の目的を思い出し、翠に先程の話の続きを聞いた
アリア「翠様、出かける前に先程の続きを聞いても宜しいですか?」
翠「え〜と…今残りいくら持ってるかだっけ?そんな心配しなくても君達の給料は払うよ?」
アリア「いえ、その心配ではないのですが…」
翠「?」
翠「まぁいいけど。確か白金貨50枚を王様に貰って、その後君達を奴隷商で金貨30枚で買ったから、残りは白金貨47枚ぐらいかな」
アリア「…なるほど」
アルフ「は、白金貨47枚…」
翠「まだ少ないから増やそうとは思ってるけど…」
アルフ「え!?」
アリア「ちなみにどのように増やすおつもりですか?」
翠「商売を始めようと思ってるんだけど、婚約パーティーのときに陛下に相談しようと思ってるからまだ先になるかな。まぁ今はその婚約パーティーのために色々準備しなきゃいけないから、それどころじゃないけどね。少し状況が落ち着いてきて、プランが決まったら皆にも手伝って貰うから、そのときに話すよ」
アリア「かしこまりました」
翠「じゃあ各グループに白金貨5枚渡すから、いろいろ調達してきて。余ったら好きなもの買ってきていいよ」
使用人達「…」
翠「じゃあグループに分かれて行こうか。カレナ、カレア、レイ、カリン行くよ!」
カレア、カレア「はい!!」
レイ、カリン「は、はい!!」
その後グループごとに分かれて買い物に向かった翠たち。その間使用人達は、誰がこの大金を持つかを擦りつけあい、最後はどこの世界でも固有の文化であるじゃんけんで勝敗を決した。そのときに負けたのはミズキ、アリサ、イヴァンが持つことになり皆顔を青くさせていたのである
買い物に出た翠、カレナ、カレア、レイ、カリンのグループは陛下から貰った城上街に属する屋敷から商人が店を出している城中街へと向かっていた
カレナ「翠様質問をしても宜しいですか?」
翠「ん?」
カレナ「今はどこへ向かってらっしゃるんですか?」
翠「今は適当に家具の店を探してるんだけど、僕この街に来たばかりだからあんまり知らないんだよね」
カレア「私が案内しましょうか?」
翠「知ってるの?カレア」
カレア「はい。昔この街に来たことがあったので…」
翠「じゃあ頼んでいい?」
カレア「はい!!」
カレナ(私も知ってるのに!!!)
カレナはカレアを睨むが、カレアはカレナにこれでもかというほどのドヤ顔をして返した。家具屋を探しながら歩いていると後ろから声が聞こえてきた
レイ「ちょっと待って…翠さま」
翠「…ん?」
レイ「カリンがちょっと遅れてるから…」
翠「あ、そっか…ごめんね。気づかなくて。カレナ、カレアしっかり見ておいてね」
カレナ「…はい。すみませんでした」
カレア「…はい。すみませんでした」
カリン「私が遅れたのが悪いんです…」
カリン「ごめんなさい。カレナさん、カレアさん」
カレナ「私達は翠様にお願いされてたから、私達が悪いわ」
カレア「かわいい〜!!」
カレアが謝るカリンの頭を撫でて可愛がっているとカレナがカレアの頭を叩いた
カレア「いてっ…何するのよ…」
カレナ「カリンちゃんの担当はカレアでしょ?しっかり面倒見なさい」
カレア「…はい」
翠「喧嘩してないで早く行くよ。あんまり喧嘩してるんだったら…カレアとカレナだけご飯なしにして貰おうかな」
カレア「ご飯無しは嫌だぁ〜!!!」
カレナ「私もそれは嫌です!」
翠「分かったから。そんな泣きそうな顔しないでよ冗談だから…じゃあ喧嘩してないでいくよ」
翠は喧嘩しているカレナ、カレアを置いて、カリンとレイの手を握って歩いていく
カレナ「翠様ちょっと待ってください〜」
カレア「翠様。ご飯無しは嫌だぁ…」
カレナ「いつまで言ってんよ。早く行くわよ!」
カレア「うん!」
2人は翠の元へ走っていき、カレナがレイの手をカレアがカリンの手を取り、5人並んでカレアの案内で家具店へと向かった。このとき翠は家族ってこんな感じなのかなと家庭の温かさのようなものを感じていた。それは翠だけではなく、他の4人もいい主人に仕えることが出来る喜びを感じていたのである
第13話終わり
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