第8話 感謝

リギートに誘われるまま、一緒にお風呂に入った翠もちろん単にお風呂に入るだけ…で済むわけはなく、ひと悶着あったのはまた別の話である。そしてリギートはやる事があると言い残し、その場を後にした。翠はそろそろ自分の部屋に戻ろうと考えていたところ、ちょうど女湯の方から出てくるシルフィードを見つけた。シルもこちらを見つけ目が合う。当然のように話しかけてくると考えていた翠だったが翠を見つけた途端逃げだしたのである。翠は何故逃げたのか理由がわからずに後を追いかけることにした


翠「…な、なんで逃げるの…」


シル「…だって」


翠「?」


シルフィードが恥ずかしながら体をもじもじさせるようにして答えた


シル「…お風呂上がりで何もしてない顔や髪を見られたくなかったので…」


翠「…あぁ‼︎なるほど…でも普通に可愛いけどね」


…無神経だったね。ごめん


シル「え?」


翠「…ん?あれ?今僕なんて言った?」


シル「か、可愛いって…」


心の中の声と話す内容間違えて喋っちゃった…


翠「…ごめん…嫌だったよね…」


シル「い、いやじゃないですよ。むしろ、、、ぅ、、ぃ、、というか」


翠「え?何か言った?」


シル「い、いえ…なんでもないです」


翠「そ、そう?」


シル「はい!」


翠「じゃあ僕はそろそろ部屋に戻るけど」


シル「私も部屋に戻りますね。ではまたあとでお会いしましょう!」


翠「うん。またあとでね」


シル「はい!」


その後何故か機嫌が良くなったシルフィードと分かれた翠は自分の部屋へと戻っていった。部屋に戻ってきた翠は居心地がよかったお風呂というか大浴場を思い出していた


翠「ふぅ…お風呂大きくて気持ちよかったなぁ…さて今度は何しようかな」


次は何をしようか考えているとコンコンと扉をノックする音が聞こえた


翠「はい?」


セリナ「セリナです。おはようございます!扉を開けてもよろしいでしょうか?」


翠「はい。大丈夫です」


セリナ「失礼します。昨晩はしっかり眠れましたでしょうか?」


翠「はい!おかげさまで!」


翠は昨日王城に来たばかりであり、色々と疲れが溜まっている様に見えたこと、そして初めて泊まる場所でなかなか寝付けない人が多いため、セリナはその事を心配していた。実際翠も枕が変わると寝れない質であったが、この世界の枕はいつもよりも気持ちよく感じられる程であり、快適に眠ることが出来ていた


セリナ「それはよかったです!ではそろそろお食事の時間なので食堂に向かいましょう」


翠「分かりました!」


翠はセリナさんに案内され食堂へと向かう。食堂にはシルが席に座っており、何人かのメイドと執事は食事の準備を始めていた


セリナ「こちらの席にお座りください」


セリナがそう言うと翠の席を引いて座りやすいようにしてくれていた


翠「ありがとうございます!」


セリナ「何か食べられないものはございますか?」


翠「…特にないと思いますが、一応この周辺に来て初めての食事なので…」


セリナ「そうですか!是非食べてみてください。

この周辺の食事は美味しいのでどれもお口に合うと思います!」


王都周辺は特に市場などが盛んであり、特に魚料理などが人気である。理由としては近くに海があり、魚が新鮮な状態で運ばれてくるため、とても鮮度がいい状態で提供されるからである


翠「分かりました。楽しみにしてます!」


セリナ「かしこまりました」


セリナやシルフィードと少し話をしていると陛下が食堂へと訪れた


陛下「待たせてすまんな翠」


翠「いえ。自分も今来たところですから」


彼女との待ち合わせかって…


マスター。マスターは以前に彼女という存在はいたのでしょうか?


グサッ…まぁいたような?いなかったような?ん〜まぁ…ちょっと覚えてないというかなんというか…あはは


…はぁ


…なんですかピーちゃんそのため息は…


いえ別に。それより陛下が何か喋っていますよ


陛下「そうか。では早速食事にしよう。ここの食事は上手いぞ!」


翠「楽しみです!」


陛下「遠慮なく食べてくれ!」


翠「はい!ではいただきます!」


翠は陛下やセリナが美味しいという食事に胸を躍らせて、いつも通り手を合わせ食事を始めようとする。すると何故か皆が静かになり翠を見ていた。翠はその視線に気がつき疑問を投げかける


翠「ん?え、えっと何か?…あれ?僕なんかまずいことしました?」


翠の後ろに立っているセリナに聞いてみる


セリナ「えっと、そのい、いただきます?とはなんでしょうか??」


翠「あれ?聞いたことないですか?」


セリナ「私は聞いたことないですね」


陛下「私も聞いたことはないな。シルはどうだ?」


シル「私も初めて聞きました」


陛下「セバス」


セバス「私も初めてですね」


陛下「他のメイドや執事たちの中で知っている者はいるか?」


陛下は後ろで待機している執事やメイドに今のことを聞くと、互いに顔を合わせその後全員が首を横に振った


翠「そんな大した事じゃないですよ」


まぁ僕が考えたわけじゃないけど…


陛下「それはどういった意味があるのだ?」


翠「え〜と…これは食事をする際に使用した食べ物に感謝をするといった意味合いを持っています。例えば…お肉だったら牛や豚などに感謝して肉を食べるということです。あとは作ってくれた人への感謝ですね。やり方としては両手を合わせ、感謝を込めていただきますを食べる前に言い、食べ終えた後にはごちそうさまと言うのが基本ですね」


陛下「…なるほど。生きたものを食べるということは命を奪うことであり、それに対し、祈りを込めていただきますという言葉を使うといった感じか?」


翠「はい。そんな感じです」


陛下「…なるほど。よし。これを国中で広めてみようか」


翠「はい?」


聞き間違いかな???


シル「とてもいい考えだと思います!」


…ん?


陛下「そうであろう!メイドや執事たちよ。食事が終わったらこのことを街中に知らせてくれるか?」


…えぇ


執事やメイド達「畏まりました!!」


…………………………


陛下「よし。では冷めないうちに食事を始めるとするか」


陛下「では、翠よ」


翠「…分かりました」


やれってことだよね…この世の全ての食……すみませんふざけました…ちゃんとやります。はい


などとくだらないことを考えている暇もないので急いで翠は頂きますの合図を出す


翠「じゃあ皆さん両手を合わせて貰ってもいいですか?」


なんか幼稚園児の子供に教えるみたいだな


翠「いただきます」


シル「いただきます!!」


陛下「いただきます!」


いつもとは違った食事の入り方にいい意味で少し達成感を感じながら食事を始めた。その後陛下とシルフィードと色々な話をしながら食事を終えた翠であったが、陛下が後で応接間に来てくれと言っていたので、後に応接間へと向かうことにした



         第8話終わり

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