第7話 王国騎士団団長との模擬戦

翠が目を覚ますと、そこには知らない天井が広がっていた。それはよくあるテンプレで、いつも寝ている自分の部屋の天井ではない、ということではなかった。それは言葉通りの意味で、自分の部屋の天井ではなく、昨日泊めてくれた王城の部屋の天井でもなかった


…いったいここはどこだ?


見覚えがない天井や空間に疑問を覚え、昨日の夜、何をしていたかを思い出す作業を行う翠


昨日は謁見の間で、式があった後、応接間で陛下と話してそのままセリナさんに部屋まで案内して貰って、そのまま眠くて部屋で寝ちゃった…ところまでは覚えているんだけど、ここはどこでしょう?


ピー。聞こえるピー?


…………………………………


反応なしか…う〜ん…ここはいったい…


???「………スイ」


翠「だ、誰だ!?…どこにいる?」


いきなりどこからともなく聞こえてきた声に驚く翠


???「…私はスイの中にいるよ」


翠「…僕の中だって?」


???「…うん…」


いきなり話しかけてきた人物と思われるものが、何かはわからないが、何故か安心感を感じられる。そんな気持ちになっていた。そして謎の人物と思われる声がどんどん遠くなっていく


翠「き、君は一体?…」


???「……そのうちまた会えるよ…………………ヵ……ギ………………ョ………………」


翠「え?」


そこで気配がなくなり、声が聞こえなくなった。翠は目の前が真っ白になり、そこで目が覚める


んっ…あの子は一体?それに最後の言葉、小さくてあまり聞こえなかったけど、鍵って聞こえた気がする


鍵が何か関係するのかと考えた翠はハイボックスと唱え、ハイボックにしまっていた鍵を取り出し手に取る


翠「なにかこれと関係があるのか?」


いくら考えてもわからない翠は、鍵をハイボックスにしまい、起きるにはまだ早い時間だが、眠気覚ましにはちょうどいいと考え、王城の中を散歩させて貰うことにした。適当に歩いて外に出ると、中庭から人の声が聞こえた。声のする方に行ってみると、そこには筋肉ムキムキの男性が木刀を振っているところであった。少し眺めていると、筋肉ムキムキの男性がこちらに気づき、近づいて話しかけてくる


筋肉ムキムキの男性「おお!おはよう!君が噂の少年かい?」


翠「噂ですか?」


筋肉ムキムキの男性「そうだ!!盗賊を1人で45人も倒したっていう」


翠「…まぁ一応通りがかったので、見過ごすわけにも行かないかと…それに盗賊に勝てたのもたまたまですよ…アハハ…」


筋肉ムキムキの男性「謙遜することはない。まぐれでそんなことは不可能だ!」


筋肉ムキムキの男性はボディービルダーがよくするマッスルポーズをしながら話をしていた。それを見た翠は、何て怪しい人なのだろうと考えていた。だが、ここは国の城上街で、ましてや陛下が住む国としては最重要防衛エリアであり、怪しい者が簡単に入ってこれる場所ではないことはわかっていた。そのためこの者の素性にまで興味を示すことは無かった


翠「…はぁ」


筋肉ムキムキの男性「自己紹介が遅れた。私は騎士団長のリギートだ。よろしく!!」


翠「聖神翠です。こちらこそよろしくお願いします」


この国の人は自己紹介を忘れやすいのか?それに今なんて言った?この人が騎士団長だって?この王国の騎士団の?


はい。目の前にいる人物が、この王国騎士団の騎士団長で間違いありません


あ、起きてたんだ。おはようピー


おはよう御座います


てか…本当にこの人騎士団長なの?…


はい。鑑定で確認したので間違いないと思います


いつのまに…それよりさ、さっき変な夢みたいな変な体験してさ、ピーに呼びかけたんだけど、全然反応なくってめっちゃ焦ったよ…


マスターもですか?私も先程マスターへの接続が少し不安定になっていたので、それについて少し調べていました


だから今話しかけてきたのか


遅くなって申し訳ありません


いやいいよ。それより何か分かった?


それがマスターとの接続が不安定になった理由ですが、精霊による介入という情報しか得られませんでした


…精霊?


はい。多分ですが上…


と翠とピーで話している途中でリギートが話し始める。思考加速によって今までの会話は一瞬にして行われているため、リギートからしたら一瞬の間のことであり、何の疑問も抱くことなく会話を続けていた


リギート「聖神あまり聞かない名だな…どこから来たんだ?」


翠「えっと…」


リギート「おっと失礼。答えたくないなら答えなくていい。人には答えたくないものもあるしな!」


翠「…すみません」


リギートはマッスルポーズをしながら答える。翠はせっかく良いこと言ってるのにポーズで台無しだよ‼︎と考えていた


リギート「いいってことよ!!その代わりと言ってはなんだが、俺と戦ってくれないか?」


といきなりリギートが言い出した


翠「…はい?」


リギート「もちろん使うのは真剣じゃない。お互いこの木刀を使って戦う。ルールは相手が参ったと言うまででどうだ?相手を死にいたらしめる攻撃や怪我をさせる攻撃は禁止だ」


翠「リギートさん。ホントは最初からこれがやりたかったんじゃ……」


リギート「な、なんのことかわからないなぁ…ヒューヒュー…」


翠に情報を聞かなかったのは、最初から翠と戦いたかったのではないかとリギートに尋ねると下手な口笛を吹き始めたリギートだった


ハァ…


リギート「さぁやろうか!」 


翠「はぁ…分かりました」


なんか勢いに流された気がするけど、まぁいいか…いい運動にもなるし騎士団団長の実力も知れるしね


リギート「合図はどうする?」  


翠「僕はいつでも大丈夫です」  


リギート「…余裕だな」


実際翠の精神は安定していた。それには理由があり、創造神ゼロと魔法神ソフィアに与えられたスキルにより精神耐性のスキルが与えられていた。それらの影響に加えて、ピーによる鑑定結果と合わせリギートの実力を把握していたためである


翠「そんなつもりじゃなかったのですが…」


リギート「じゃあ行くぞ!!」


翠「って聞いてないし!」


リギートが剣を構えたと思うと、一瞬にして翠の目の前に向かってきた。常人であればリギートのスピードは異常に見えるだろう。それ程までにリギートは速かった……が、それはあくまで相手が常人であればの話である


翠「いくら速くても正面から来てはバレバレですよ?」


リギート「当たり前だ!」


リギートもいくらスピードに自信があるからといって、盗賊45人を圧倒する者に真正面から突っ込んでも剣が当たらないことは分かっていた。そのため翠に切り掛かる直前に、あの巨体に似合わないほどの高速で翠の後ろへ回り込む。翠はそれを読んでいたかのように一瞬にして後ろへふり向く。だがリギートはそれも計算の内かのようにそのまた下へと滑り込み剣を腹へと打ち込もうとした


リギート「もらったー!!」


と叫びながら、リギートは剣が当たることを確信し、剣を思いきり翠の腹へ打ち込もうとした。これが翠に当たれば骨折は免れなかったであろうパワーが込められている。リギートのスピードとパワーが乗った渾身の一撃を翠は剣を持っていない左手の親指と人差し指で挟むようにして止めてしまったのである


リギート「なっ!!」


流石の王国騎士団長といえども、今までに体験したことの無い止められ方をされ、一瞬動揺が走る。だがすぐに頭を切り替え次の行動に移ろうとした


リギート「は、離れない!」


反撃するために全力でリギートが力をこめてもその剣が翠の指から離れることはなく、足で攻撃しようとしてもそれをすべて避けられてしまい、最後には剣を奪われてしまう。打つ手が無くなったリギートの首に翠は剣を突きつけた


リギート「…参った俺の負けだ」


リギートは降参のポーズである両手を掲げ、自身の負けであると宣言した


リギート「…お前強いな」


翠「そんなことないですよ!リギートさんだって凄いスピードとパワーを持ってるじゃないですか」


リギート「…それは嫌みにしか聞こえんぞ」


翠「ち、ちがいますよ」


リギートからしたら嫌味にしか聞こえないこの言葉だったが、翠は本心からこの言葉を言っていた。それには理由があり、先程もピーが使ったスキルを今度は翠がリギートと戦う前に使っていた。それは鑑定の上位互換である超鑑定というスキルであり、これは盗賊の頭を倒したことによるレベルアップにて獲得したスキルであった



スキル 鑑定(D)


ーーーーーーーーーーーーーーーー


相手の性別・身分・年齢を知ることができる


(ただし同レベルの隠蔽もしくはそれ以上のランク・レベルの隠蔽により防がれる可能性あり)



ーーーーーーーーーーーーーーーー



スキル 超鑑定(A)


ーーーーーーーーーーーーーーーー


相手の性別・身分・年齢・ステータス・スキル・レベルの全てを知ることができる


(ただし同レベルの隠蔽もしくはそれ以上のレベルの隠蔽により防がれる可能性あり)


ーーーーーーーーーーーーーーーー


リギート「…本当かよ」


翠「本当ですって!」


実際にリギートは騎士団団長を務めるだけの実力は持っていた。だか…今回は相手が悪く本来であれば相当な手練である。それに加えて超鑑定により翠はリギートがどのくらいのステータスなのか、どんなスキルを持っているかを事前に把握していたため、負ける方が難しい状況が既に作れられていたのである



リギート 【ステータス】



リギート 男 30歳 レベル78


攻撃力 1000


防御力 500


俊敏  400


魔力   0


運    350


知力  100



【スキル】


加速(B)レベル4

…スキル発動中のみステータスの1.5倍の速度で動くことが可能である


身体能力向上(C)レベル3

…スキル発動中のみ身体能力を向上させることができる


隠蔽(D)レベル3

…常時発動可能でありステータスを偽ることができる。鑑定スキルからの鑑定を防ぐことができる


鉄壁(C)レベル4

…常時発動しておりステータスの防御力を少し増加させる


大剣技(B)レベル4

…大剣を扱うことが可能となる


長剣技(B)レベル3

…長剣を扱うことが可能となる


短剣技(B)レベル2

…短剣を扱うことが可能となる


スキルレベルの上限は10までとなっている。だがこの世界ではレベル5までが最大とされている。それはレベル5自体が勇者クラスでないと獲得できないと言われてきたからであり、その上のレベルは眉唾であると言われていた。そのためそれ以上のレベルが存在しないとされている。実際にレベルが1違うだけで同じランクのスキルであっても相当の差が生まれてしまうのである


ーーーーーーーーーーーーーーーー


リギート「…まぁいいや。お前が強いのはわかったしな」


…いやいや。貴方も大概ですよ?


リギート「翠よ。この後予定は何かあるか?」


翠「いや特に決めてないですけど…」


リギート「そうか!ここの風呂は入ったか?」


翠「いえ、昨日疲れてすぐ寝ちゃったのでまだ入ってないです…ま、まさか臭いました!?」


リギート「いやそうではない。汗もかいたし丁度いいかと思ってな。だから一緒に風呂でも入ろうぜ!」


翠「…リギートさんとですか?」


リギート「おうよ!裸の付き合いってやつだ!」


翠「そうですね…自分も汗かいて丁度いいので入ろうと思います。それにどんなお風呂なのか入ってみたいですしね」


リギート「そうと決まれば早速行くか!」


翠「はい」


リギートからの誘いであったため、また何かあるのではと訝しんでいたが、日本人なだけあって、風呂という言葉には弱かった


リギート「そうだ。あと、、」


翠「?」


リギート「お前の敬語…気持ち悪いからなしな」


翠「…気持ち悪いって酷くないですか?」


リギート「いいな?あとさんづけもいらないからな!」


翠「えぇ〜…」


リギート「返事は?」


翠「いやでも…」


リギート「返事は?」


翠「ハァ…はい」


リギート「敬語!」


翠「わかったよ。これでいいか?リギート」


リギート「おし!じゃあ風呂行くぞ!!」


その後2人で、王国が誇る2番目に大きい浴場がある風呂場へと向かったのである。もちろん1番は王族が使用する大浴場であったが、王国の騎士団の兵士やメイド、執事達はこの大きい浴場にとても満足している様子であった


         第7話終わり

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