第6話 応接間

式を終えると謁見の間から退出し、陛下の命により侍女が用意してくれた部屋へと案内される。部屋に入ると、そこにはさすが王族が住んでいる場所である再認識させられるほど豪華な装飾が施されており、椅子からマットに至るまで、全てが高級品で包まれていた。そんな豪華な部屋に通されたにも関わらず、自分の部屋だと聞かされた翠は体験したことのない体験のせいなのか、疲労が蓄積しており、疲労に耐えられなくなった体で遠慮なくベッドへと倒れ込む


翠「つ、疲れた…」


疲れきった翠見たセリナは微笑みながら答える


セリナ「ふふ…お疲れ様です」


翠「…おかしなところはなかったですか?」


セリナ「とてもご立派でしたよ」


翠「そうですか…良かったです…フゥ」


ベッドに顔を埋めながら答える翠


セリナ「それからおめでとう御座います!」


翠「ん?」


セリナ「シルフィード様との婚約の件です。改めておめでとう御座います」


セリナの表情が穏やかなものから真剣な様子に変わり、いきなり頭を下げる。翠もセリナの様子が変わったことに気づき、急いで寝転んでいた姿勢を正す


セリナ「メイド長として申し上げます。シルフィード様をよろしくお願いします」


翠も真剣な様子で答える


翠「はい!必ず幸せにします!」


その後少し時間がたち、案内された部屋で休んでいると他の執事に呼ばれ応接間へと案内された。応接間には陛下、シルフィード、執事長、翠、セリナの5人が集められた


執事が翠を応接間前まで案内すると応接間の扉をコンコンとノックする


執事「聖神翠様をお連れしました」


執事がそう言うと応接間の中から陛下の声が聞こえる


陛下「入って良い」


執事「どうぞお入りください」


執事が翠のために応接間の扉を開けてくれたので執事の人に向かって礼を述べ、室内へと入る


翠「ありがとうございます」 


翠が応接間に入り、続いて一緒にいたメイド長のセリナも応接間へと入っていく。執事はそのまま応接間の中には入らず応接間の扉を閉めた


陛下「こちらに来て座ってくれ」


翠「はい」


翠は陛下に席に座って寛いでくれと言われ、その言葉に従い、向かいの席に腰を掛けた。部屋の手前席には翠が座り、その向かいの席には陛下とシルフィードが座っている。そして陛下とシルフィードの隣に執事長とメイド長の2人が立って待機していた。翠は1人大きな椅子に座っているのもあり、あまり落ち着かない様子で回りを見渡す


…セリカさんも執事の人も座ればいいのに…家臣が陛下の前で座るのは無礼に値するから駄目とか理由があるのかな


などと緊張を和らげるために関係ないことを考えていると陛下から声がかかる


陛下「翠よ。改めて言わせて貰うシルフィードを助けてくれたこと心より感謝する。ありがとう」


陛下がそう言うと翠以外の4人が一斉に頭を下げた


翠「さ、さっきの式でたくさんお礼を貰ったので、もう十分ですよ‼︎ですので頭を上げてください皆さん‼︎」


陛下「相変わらずだなお主はハッハッハ」


シル「翠様はとても良い方ですよお父様」


陛下「そのようだな…さて褒美の件だが白金化50枚と名誉子爵を証明する短剣を其方に贈呈する」


陛下がそう言うと執事長と思われる人が優雅な様子で机の上に白金貨50枚が入った箱と名誉子爵を証明する短剣を置く


翠「有難く頂戴します」


翠はそう言うと、白金貨50枚と名誉子爵を証明する短剣をハイボックスへと仕舞う。ボックスのスキルはランクBではあるが、なかなか習得するのが難しく魔力量によって大きさが決まってしまうため、認知度は高いが使用できる者は少なかった。だが陛下は異常な容量を持ったボックスを使えると、家臣から聞いていたので少し驚くだけで済んでいた


陛下「…うむ。さて本題だがシルとの婚約の話だ。謁見の間にてシルとの婚約パーティーを開くと言ったのを覚えているか?」


翠「はい」


陛下「其方は旅をするために、この場に留まることは出来ない。そういう理由で屋敷と男爵の地位を辞したのであったな?」


翠「…すみません」


陛下「それについてはよい。問題はそれでは婚約パーティーを開くことが出来ないということだ」


翠「何故ですか?」


陛下「翠は王都に来たことはあるか?」


翠「…いえ、最近旅を始めたばかりなので」


陛下「そうなると住居もまだ持っていないだろう?」


翠「はい」


陛下「それが理由である。簡単に言えば式を開く住居、つまり式会場を翠が所有していないということである」


翠「あ!そうか…」


陛下「そしてシルフィードは第二王女とはいえ王族だ。それなりの場所でパーティーを開く必要がある。王城で開くことも出来なくはないが、基本的には王を継ぐもの、まぁわしの息子だな。そのわしの息子のみが王城で婚約パーティーを開ける決まりとなっているのだ…そこでだ翠よ。先程までの褒美は国としての褒美だ。ここからは私一個人として、親として屋敷を褒美として渡したいと考えている」


翠「そ、そんなに褒美は貰えませんよ…さっきだって大量に貰ったばかりなのに。それにそんな褒美を貰ったら他の貴族たちに何か言われるんじゃ…」


陛下「私一個人として褒美を渡すのだ。誰にも文句は言わせん!それに屋敷がなかったら婚約パーティーは開けないぞ?ハハハ」


翠「………有難く頂戴します」


陛下「うむ!それでいつ開くとする?翠よ」


翠「そ、そんなにすぐ開くんですか!?」


シル「この国の貴族では婚約が決まったらすぐに婚約パーティーをする人が多いのです!」


執事長「他貴族へ家や置物、料理の質や見栄えを提供する場と考えて頂ければ」


陛下「どの要素も良ければ他の貴族たちにアピールという名の牽制になるしの」


これはどの国の王族、貴族でも共通する話であり、婚約パーティや祝いの催しなどは豪華に着飾る場合が多い。その具合によっては、見栄だけではなく、資金的な財政面や商業面、発展性など、今後の付き合いや取引に影響する場合も出てくるからである


翠「…なるほど。因みにそちらの方は?」


陛下「そうだ失念しておった。執事長にはまだ挨拶をさせていなかったな」


執事長「遅れて申し訳ございません。私執事長のセバスと申します。以後お見知りおきを」


陛下「セバスは私が1番信頼している部下の1人だ。困ったことがあったらなんでも言ってくれ」


セバス「遠慮なくお申し付けください」


翠「わかりました」


陛下「では一旦今日はここまでにして、婚約パーティーの細かい日時はまた来たときに話すとする。それで良いな?翠、シル」


翠「はい」


シル「はい!!」ニコッ


陛下「さて翠よ。屋敷を渡すまで、住居がないであろう。この城に住むとよい」


翠「え?いいんですか?」


陛下「当たり前だ。恩人を帰すわけにはいかん。それにシルの婚約者だからな。当たり前だ」


翠「ありがとうございます!」


陛下「なんならずっと泊まっていっても良いのだぞ?ハハハ」


翠「…それは…ちょっと…アハハ」


陛下「ハッハッハ冗談だ。それで翠よ。婚約パーティーを模様した後はどうするつもりなのだ?すぐに旅立つわけではないのだろ?」


翠「そうですね…一応この街に来たばかりなので情報収集を含め、ある程度は滞在しようと考えています」


陛下「うむわかった。では今日は疲れただろ。部屋に戻って休むといい。セリナ、部屋まで送ってあげなさい」


セリナ「畏まりました。では行きましょう翠様」


翠「はい」


その後セリナに部屋へと案内された後、お風呂に入るかと聞かれたが、疲れたので今夜はいいと答え、そのまま意識を手放すようにしてベッドへと倒れ込んだ


         第6話終わり

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