第22話 空のエッチ
階段スペースの手前の壁に手をついてとまり、壁に背をつける。壁の向こうの様子を探る。
あ。
家庭科の女の先生が階段をおりてくるところだった。先生は、廊下で松本先生と空に気づいた。そりゃそうだ。別に隠れていたわけではない。
「松本先生どうしたんですか?そんな大きい荷物をもって」
「美術部の曽根の荷物を頼まれましてね。運搬係です」
「三浦くんも一緒に?」
「実は、サッカー部が曽根に差入れをもらいまして。その見返りにってわけです」
松本先生が後頭部をかく。
「サッカー部ですか。食べ物に釣られてしまったら仕方ないですね」
さすが家庭科の先生らしい感想だ。そのまま空たちとすれ違って玄関に向かって行ってしまった。空が速足で階段スペースにやってくる。
「うおっ」
逆さ状態のわたしが頭を床につけんばかりにしているのにぶつかりそうになった。手を床についてその場でくるっと回転、頭を上にもどす。乱れた髪を整える。
「なにやってんだ」
「見られたらマズいかと思って、そこのところに逆さ状態で待機してようと思ったんだけど、自動小銃が少しだけ重かったみたいね、釣り合わなくてちょっとづつさがってきてたってわけ。ちょうど釣り合うのって、なかなかむづかしいものなんだ」
わたしは階段スペース側で上を指さして、廊下の天井と階段スペース側の壁が交わるあたりを示した。
「逆さ吊りでいると気持ち悪いからやめろよな」
「ひどっ。気持ち悪いはないでしょう?」
銃口を空の鼻先に向ける。
「じゃあ、なんていえばいいんだ」
空が手で銃をどける。
「ちょっと違和感がある」
「わかった。逆さ吊りはちょっと違和感があるからやめてくれ」
「いいでしょう」
銃をおろす。
どうにか今日の目的を達成することができた。キャンバスは、美術室に鎮座ましましている。
「この壁に貼ってあるの、茜のか?」
「あ、まだ見ちゃダメなのに。下描きなんだから。空のエッチ」
壁と空の間に割ってはいる。
「エッチっていわれてもなー。こんなに堂々と貼りだされたら、誰だって目に入るぞ」
「それだけ恥ずかしいってことだよ」
空が壁から離れて目線をほかにもっていった。壁に貼った下描きの前で空に向けて構えていた銃をおろす。自動小銃って、けっこう便利かもしれない。いや、ドローン仲間の仲間になってしまう。断じて便利なんかじゃない。
借りた服は洗濯して、後日松本先生に渡した。持ち主に返してもらうように。服以外の防弾チョッキやらなにやらの装備品はそのまま返した。
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