第12話 おれが茜のこと大好きなくらい、茜もおれのこと好きってことか

 わたしは校舎裏についたときに、位置情報付きで空にメールを送信した。その位置あたりの屋上にきてくれるようにと。わたしが飛び上がったときに受け止めてほしいと依頼したのだ。それで、屋上の柵の外で待機してくれていた。尾形と対決することに決めたときに空らしき影が見えたから、この作戦を決行した。

 空には部活がある。部室にケータイを置いて練習をはじめていたらメールを見てもらえない。でも、教室から送信した第一弾のメールを見てもらえていたみたいだ。もし空がメールを見てくれずに屋上にあらわれなかったときは、本当に尾形をやっつけてしまおうと思っていた。だから、空がきてくれたのは尾形にとって幸運だったはずだ。

「なんでこんなことになったんだ。下でモメてたみたいだけど」

「女の世界に首ツッコむとヒドイ目にあうよ」

「そうか。いいけど。困ったことになったら、空、助けてっていうんだぞ」

 空がわたしの声真似をしたつもりらしいのがイラッとくる。空にウエイトを投げつけたい。

「ウエイト、全部尾形に投げつけちゃった」

「そんなことをかわいくいうな」

「ダメだった?」

「いつまでもおてんばだな」

「空は大人しくなっちゃったね、あんなにやんちゃだったのに」

「それは茜が一緒だったからだよ。影響されてたんだな」

「うそっ。わたしのせい?」

「そうだよ」

「じゃあ、これは覚えてる?空がわたしをお嫁さんにしたいっていってたの」

「もちろん覚えてるよ。茜だってお嫁さんにしてくださいっていってたぞ」

「してくださいなんていってないよ。なってあげるっていったんだよ」

「そうかー?うちに帰れば証拠の映像があるはずだぞ?」

「まじ?」

「まじまじ。おまけにファーストキスもな」

「すごいね。ビデオカメラが安くなって普及してたおかげだね。テクノロジー万歳だ」

「そうだな、おれたちの思い出が残ってるんだからな。で、茜は覚えてるのか?お嫁さんになってくれるっていったこと」

「しらなーい」

「ズリっ」

「ところで、いつまでわたしを抱きしめてるつもり?」

「飛んでいっちゃいそうだからな。しっかり抱きしめておかないと」

「いや、手をつなぐくらいで大丈夫だよ」

「そうか?遠慮するな。おれはけっこうイケメンだと思ぞ?」

「うん。認めてあげる」

「茜も美人になった」

「そう?美人って感じじゃないけどな。かわいいとは自覚してるけど」

「茜もいうな」

「わたしたち似た者同士だからね。空と同じくらいには自信過剰なんだよ」

「なるほどな。じゃあ、おれが茜のこと大好きなくらい、茜もおれのこと好きってことか」

「バーカ、わたしのほうがずっと空のこと好きだっての」

「まじ?」

「うっそー」

「本当なんだろ?本当なんだよな」

「うっさい、もう離して」

「いや、本当っていうまで離さないぞ」

「きゃー、お巡りさーん。強制猥褻犯がいまーす」

「あはははは。わかった、離す離す」

 空が上体を起こす。わたしは空の膝にのっている。ちょっとだけ上から見下ろす。空がわたしを見上げる。なんだか新鮮。でも、最近は宙に浮くことが多いからそうでもないか。わたしの腰を抱いたまま空が立ち上がる。社交ダンスの決めポーズみたい。

 手をつなぐだけだと、体が浮いてしまう。空の腕につかまることにした。

「カバンどうしたんだ?」

「あ、ウエイトごと尾形に投げつけちゃったんだった」

 屋上から下の校舎裏をのぞく。カバンは落ちてないみたい。やれやれ、もうひと騒動ありそうだ。

 空は、わたしを腕につけて部活の練習なんてできない。このまま家まで送ってくれることになった。靴を手に持って、足は宙に浮かせて空と教室にもどる。普段教室のロッカーに入れているトートバッグに、勉強道具と大事な色紙をいれる。

「忘れ物ないな」

「うん、色紙ももった」

「はじめからカバンを投げるつけるつもりで中身を机にいれてったのか。用意のいいことで」

「別にそんなんじゃないよ。カバンを奪われるかもしれないでしょ?」

「茜が?ありそうにないな」

「まあね。てへへ」

 帰る途中、遠回りしてホームセンターでウエイトを買った。ウエイトをつけると、やっと落ち着く。空の手を離してしまうと宙に浮いて行って成層圏と思うと、やはり気が気でない思いがするというものだ。

 つり橋効果という言葉を思い出した。子供のころいつも空とやんちゃをしていたから空のことが好きになったのかな。

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