第5話 また逆さまになったら、スカートがめくれてパンツ丸見えってことだよ
空の声が聞こえる。
「おい。おい、茜。大丈夫か。茜」
なにかわたしのことを心配しているみたいだ。
ん?急に意識がはっきりした。
小さく悲鳴をあげる。
わたしは教室の天井に背中を張りつけるようにして寝ていた。でも、それはわたしの体が浮いてしまっているからだ。落下の心配はないのだった。
こちらを見上げる空の心配そうな顔があった。
「空。助かった。きてくれたんだ」
空の顔を見たらすこし落ち着いた。スカートはウエイトのついた足と一緒に天井からたれさがっている。スカートを手で押さえる。
空がこちらに手を差し伸べている。スカートを押さえていない方の手を伸ばすけれど、なかなか捕まえてもらえない。
「天井に押し付けられる力は強いのか?手で天井押してみろよ」
空の言うとおりに、空に向けて伸ばしていた手で、天井を押す。ほわんと体が天井から離れる。
「こっちに、手を伸ばせ」
空がわたしを見上げながら移動して、手を捕まえてくれた。
「えーと、床に着地するように体の向きを調節しながらおりるぞ」
「どういうこと?」
「また逆さまになったら、スカートがめくれてパンツ丸見えってことだよ」
「ちょっと、なに言ってんの?オブラートに包んで言ってよ」
「はじめに包んでただろ。ったく。えーと、体をまっすぐにして降りてこないと、見られたくないものがのぞけてしまうぞ。どうだ?」
「うん、わかりづらいけど」
「どっちだよ。とにかく、自分で降りてこい」
「ガンバる」
わたしの体は足首に巻いたウエイトのせいでくの字になっている。ゆっくり上体を床に垂直にもっていきながら体を伸ばす。まだ床に足がとどかない。空が調節してくれる。どうにか着地。ひとつ息を吐く。
「もしかして、寝てたのか?」
「あんな状況で寝てるわけないよ。人のこと緊張感のない動物みたいに」
寝てたけど。
「そうか、ごめん。大丈夫か?体調はどうだ?」
「うん、だいじょうぶ」
よく寝てたみたいだし。
「ちょっとつかまってろ」
わたしは空の背中に抱きつく。空はゆっくりしゃがんでバッグからなにか取り出した。
「芸がないけど、ウエイト追加な」
「げえ。体きたえたくないのに。足太くなりたくないのに」
海どころじゃなく広い空に落ちて行って、成層圏で燃え尽きるシーンが脳内で再生された。仕方ない、空の手からウエイトをうけとる。今度は腰に巻くタイプだった。わたしは格闘家にでもなればいいのだろうか。
ウエイトをつけたまま風呂に入り、寝る前に少しエクササイズをして布団にはいった。
ひどい一日だった。空に裸を見られ、中学生にもなって男子と手をつないで登校し、授業中はずっとぼんやりしていて失敗するし、美月には無視のうえ見捨てられるし。美術部にもでられなかった。
でも、空はやさしかった。すごく久しぶりに親しくオシャベリしたし、わたしのためにいろいろしてくれた。
あー、でも美月は空のことが好きなのかもしれないんだ。空とあまり仲良くするのも考えものだ。
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