ハルミ君
尾八原ジュージ
ハルミ君
僕の友達のハルミ君は、真面目で優しく、顔立ちも整っていて、僕も含め皆に好かれるような人だ。
が、ちょっと変わっている。
僕が初めて「あれ?」と思ったのは、ゴミ箱のことだ。
ハルミ君は、大学から自転車で10分くらいのアパートで一人暮らしをしているのだが、彼はそのアパートの部屋の前に、小さなゴミ箱を置いているのだ。生ゴミを捨てる感じの、蓋のついた小さいやつだ。
「何でゴミ箱なんか置いてんの?」
僕が尋ねると、ハルミ君はちょっと困ったような笑みを浮かべた。
「ああ、たまにゴミみたいなもの置いてく人がいるんだよね。ほっとくのも嫌だし、家に知らない人のゴミ入れるのも気持ち悪いから、ここに捨てるようにしてるんだよ」
ハルミ君みたいないい人に、嫌がらせする奴もいるんだなぁ……僕は少し心配になった。
試験前、僕たちはハルミ君の部屋で勉強会をすることにした。彼の住むアパートに到着したのは夕方頃だった。
雑談をしながら部屋の前まで行くと、ハルミ君が「あ」と言った。彼の部屋のドアノブに、大量の長い髪の毛がぐるぐる巻かれていた。
「ひっ」
「またか」
ハルミ君はうんざりしたように呟くと、ドアノブに絡まった髪をブチブチ引っ張り始めた。
「うえっ、何それ? 気持ち悪」
「まぁ、たまにあることだから」
「まじか」
そんな平気な顔してていいのか? 僕はドアノブから髪の毛を取ろうとするハルミ君のシュッとした背中を、ぼんやりと眺めていた。
「え? 髪の毛、そんなしょっちゅうなの?」
「うーん、月に3回くらいかな……違うもののときもあるよ。知らない人の写真とか、手紙とか。よくわからんジャムもあったなぁ。なんか生臭かったし、当然捨てたけど」
髪の毛を千切る陣内くんは、最近Wi-Fiの調子が悪いんだよね、みたいな口調で答えた。
「怖くないの?」
「うーん、これくらいならそんなに。俺、わりと変な人に絡まれるんだよねぇ」
「まじか」
「ポストに剥いだ爪が入ってたときもあったし、髪の毛くらいならまだマシでしょ」
「やべーやつじゃん」
つまり、おかしな人に絡まれすぎて、ちょっとおかしくなってきてしまったのが、ハルミ君という人なのだ。
しかし何だな、やっぱり僕があげたジャムは捨てられていたようだ。残念。
ハルミ君 尾八原ジュージ @zi-yon
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