第10話
環奈とフェルト。
ふたりで。
投射の塔にお出掛けです。
ここは視覚トリックが豊富で。
幻想的で。
変則的なアート建造物となっています。
観光客も居ますねー。
大きな吹き抜けと。
複雑に交わった通路が天井に見えます。
鏡が張り巡らされていて。
どこか不思議の国に迷い込んだようですね。
天井にも側面にも。
いろんな角度から。
「硝子の花弁」と呼ばれる塔なんですよー。
街からすぐ近くです。
有名な観光スポットですよ。
この塔は建設当初から。
有名な剣士達がすごく気に入っていて。
あまりの絶景と美しい舞台により。
試合が行われるようになって。
王様も貴族も公認するようになった歴史があります。
環奈。
「あそこに鎧が展示されてるよー。」
「現代の鎧の代表!だって。」
フェルト。
「セラミックス複合材を用いた鎧ね。」
「中々剣も届かないし。」
「軽量な上に着脱も容易。」
環奈。
「しかも銃弾も効果が無いほどの強度があるよねー。」
「美術品としても優れているしー。」
フェルト。
「少し高価なのが難点よね。」
「軍隊で大量調達されるのは量産型だから。」
環奈。
「中々お目にかかれないよね。」
「それにしても立派な鎧だなあ。」
フェルト。
「こっちには魔封じの珠があるわよ。」
「天然石?」
環奈。
「ある程度の魔法攻撃を無力化する。」
「そういえば理沙ちゃんと渚沙ちゃんも持ってたよね。」
フェルト。
「試合用の指輪かしら?」
「ある程度までの魔法攻撃を無効化するの。」
「でも上限があって。」
「それ以上の攻撃を受けると輝きが無くなって。」
「魔法を防げなくなる。」
環奈。
「そうなんだー。」
「こっちの看板に書いてあるよ。」
「魔法の指輪は一週間すれば溜まったエネルギーが排出されて。」
「また使えるようになる。」
「へー。」
フェルト。
「一度に大量に装備すると。」
「上手に効力を発揮しないわ。」
環奈。
「魔石同士が喧嘩するらしいね。」
「こっちは?」
フェルト。
「量産型の鎧と兜。」
「盾に剣に。」
「ここは展示コーナーね。」
「なんていう甘美な贅沢!」
環奈。
「量産型でも。」
「銃弾30発命中。」
「切り傷9回受ける。」
「それでも中の兵士は無事だった。」
「なんて話もあるほど。」
フェルト。
「有名な話じゃない。」
「高級品はもっと凄いわよ。」
環奈。
「こうなるとどこを斬ればいいのかなぁ。」
「勇猛果敢に出たとこ勝負。」
フェルト。
「私だったら斬りながら考えるわね。」
「どちらにしても手ごわい相手になるわよ。」
環奈。
「戦場に出るか分からないし。」
「んー。」
フェルト。
「進路決まってるの?」
環奈。
「兵員の教官かなぁ。」
「兵法学者も狙ってる。」
フェルト。
「私は警備員かなー。」
環奈。
「どうせなら他の事もしたいなー。」
「本を書いたり哲学に打ち込んだり?」
フェルト。
「私は詩文を書くのが好きよ。」
「仕事しながら。」
「自分の景色を詩にするんだから。」
環奈。
「いろいろやればやるほど。」
「人生がゴージャスになるからねー。」
フェルト。
「同感だわ。」
入り組んだ通路。
鏡の壁。
実際より奥行きが狭かったり。
坂になっていたり。
複雑かつ単純ですね。
空が見える通路をふたりで歩いています。
環奈。
「こうしてふたりで歩くのも久しぶりだよね。」
フェルト。
「そうよねー。」
「せっかくのデートだし。」
「観照を見つけたいわ。」
環奈。
「難解な事柄でも。」
「いくら難しい事柄でも。」
「本質は簡単だよね。」
フェルト。
「私が知りたいのはこの世界の真実。」
環奈。
「ほんとうのこと?まこと?」
フェルト。
「一見こんな光景も。」
「事実のひとつに過ぎない。」
「本当の姿がある。」
「真実の姿がある。」
「私はいつか見たわ。」
「この世界の尊さも。」
「真実の見え方も。」
「もう一回見たいの。」
環奈。
「この世界は幻想的で。」
「意外な所に神秘が潜む。」
「世界が歌のように優しくなればいいのになぁ。」
フェルト。
「いつか人も正義に従って生きるようになるわよ。」
「さあ頂上よ。」
塔の頂上。
展望台になっています。
フェルト。
「一度正々堂々と言ってみたかったの。」
環奈。
「かんなも正直に言ってみたかったよー。」
フェルト。
「真剣勝負したいって。」
環奈。
「かんなもそうだよ。」
フェルト。
「幼馴染みとはいえ。」
「あんたには散々に追い抜かれたわ。」
環奈。
「追走してくるフェルちゃんから逃れるのにいつも一生懸命だったよ。」
フェルト。
「その為に練習剣を持ってきた。」
環奈。
「かんなも同じ。」
フェルト。
「確か公の場の試合は。」
「周囲に危害が及ばなければOKだったわよね。」
環奈。
「この塔で試合をやる人はけっこう居るよ。」
「許可貰っておいたから。」
フェルト。
「心置きなく。」
環奈。
「本気で行きます。」
ふたり。
塔の頂上の大きなスペースで。
練習剣を抜く。
仕掛けたのはフェルト。
環奈。
「前と剣筋が違う・・・。」
フェルト。
「大人を相手に毎日本気でやりやってたのよ。」
「人の限界すら超えようと。」
「苦闘の日々だったわ。」
環奈。
「かんなは最初に世界を見せ付けられた。」
「世界とはこんなに途方も無い領域だと。」
「最初に世界を知った以上。」
「これを目標に日々邁進したのです。」
フェルト。
「私は人の可能性に賭けた。」
「人はこんな程度で終わるわけがないと。」
「その結果はこれよ。」
「人知の及ばぬ力!」
環奈。
「かんなと競う相手はいつも歴史上の剣士や世界の剣士。」
「偉大なるその力を前に。」
「尊敬と畏怖と。」
「私の中に奇跡を。」
フェルト。
「奇跡は繰り返される。」
「でも奇跡に頼ったら負けよ。」
環奈。
「かんなは可能性を実行する。」
「無二の力をいまここに。」
激しく斬り合っては退いて。
斬りあっては退いて。
観客は大盛り上がり。
両者のスタミナが徐々に減っていきます。
決着が付きません。
環奈。
「因果ですね。」
フェルト。
「良い意味でね!」
環奈。
「恵まれたの?」
フェルト。
「人の理解は及ばないわよ。」
環奈。
「人の力がこんな程度だとは思わない。」
フェルト。
「証明してみなさい!」
環奈。
「人の力。」
「人の可能性を目撃した者として!」
向き合います。
環奈は剣を逆さにして。
斜めに構えて防御体系。
フェルトは剣を真っ直ぐに伸ばして。
回り込もうとする。
環奈が剣を撃ち払うが。
フェルトは後ろにジャンプして逃れる。
追撃。
横転して回避するフェルト。
環奈は追い続ける。
フェルトのフェイント。
深追いする所を狙っていたようです。
環奈はすぐに防戦にチェンジ。
防戦一方だけれど負けません。
フェルトは戦法転換。
押し切れないと分かって。
テクニック重視の戦術を取ります。
環奈は劣勢だと分かって。
攻めに行きます。
環奈。
「人の輝きはあんな程度なの?」
「違う。」
「人はその力を半分も使っていない!」
フェルト。
「御名答!」
「反対に非力な者は自分の可能性を放棄したわ!」
環奈。
「人の力が才能で決まっていたら。」
「全員が絶望するように創られているなんてことに!」
フェルト。
「なるわね!」
「反抗してみなさい!」
「それができるのなら!」
環奈。
「許されし反抗。」
「その名は試練!」
フェルト。
「くっ!押し切れない!」
環奈。
「人よ!」
「戦士になれ!」
フェルト。
「人を戦士にするもの・・・。」
環奈。
「新しい領域に進む勇気ある者こそ。」
「新たな力を手に入れる。」
フェルト。
「そうよ。」
「私は試されている時。」
環奈が隙ありとばかりに斬り付けたら。
宙返りをして避けられました。
また睨み合いです。
環奈。
「決着はつけてみせるよ。」
フェルト。
「尊いこの世の華道!」
「意味なんて求める人は理屈を求めている。」
環奈。
「すべて自然にもたらされしもの。」
フェルト。
「この世の条理!」
環奈。
「いいや。」
「この世の真実。」
フェルト。
「するとこの世界は余程の正直者と見える。」
環奈。
「かんなにも見える。」
「これが私の青春の1ページ!」
フェルト。
「ええ。」
「美しきかな。」
「いま。」
「という瞬間。」
環奈。
「かんなは人に必要なのは。」
「絶対的な勝利ではなく。」
「戦う姿勢。」
「戦う意思だと思っているよ。」
「勝者は絶対者となり。」
「敗者もまた美しい。」
フェルト。
「それが正しいのなら。」
「人の中に美学を見出せるわよ。」
「そろそろ決着にするわ!」
再び斬り合いますが。
両者相手の動きを読み切っていて。
まったく決着がつきません。
環奈。
「まだ戦える!」
フェルト。
「よしなさい。」
「疲労で倒れるわよ。」
環奈。
「決着付かず?」
フェルト。
「そのようね・・・。」
両者スタミナ切れで引き分け。
観客は拍手喝采!
ベンチで少し休みます。
環奈。
「やりきったー。」
フェルト。
「久しぶりに本気でやったわね。」
環奈。
「フェルちゃん強いよ。」
フェルト。
「かんなも凄いわ。」
環奈。
「実力以上が出ていた。」
フェルト。
「いつも私の人生に華を添えてくれるのはあんたよ。」
環奈。
「いつもかんなの人生に美学を見出せるのはフェルちゃんのおかげ。」
フェルト。
「うふふ。」
「なんだか不思議ね。」
環奈。
「そうだねー。」
フェルト。
「今回は引き分け。」
「次は私の完全勝利♪」
環奈。
「次はかんなの大勝利♪」
フェルト。
「この~♪」
環奈。
「もうっ!」
ふたりで大爆笑♪
手を繋いで。
鏡の塔から帰っていきました。
尊い少女の。
青春の1ページ☆
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