白と黒の邂逅 7

 「本当に送って行かなくていいの?」


 「宿はすぐ近くですから大丈夫ですよ。ではまた明後日に会いましょう。お父様にもよろしくお伝えください」


 イーリスの家の玄関先で、心配そうな顔をしている新しい友達イーリスに笑顔で別れを告げヴァージニアは夜道に足を踏み出した。

 ヴァージニアはイーリスの家の細い路地を通り抜け大通りに出ると、そのまま貴族街のある北へ歩き始める。大通りの店も一部の飲食店以外は既に閉まっているが未だに人の数は多い。馬車道も商売を終えて故郷に帰る者の馬車が行列を作りゆっくりと進んでいく。路地を覗き込めば衛兵の目を盗んで商売をしている者がいるが、すぐにやってきた衛兵に捕らえられ詰め所へと連行されていく。

 そんな前夜祭のよくある光景を横目にヴァージニアはこれからの事を考えていた。


 (予定よりも時間が遅くなってしまいましたね。今日はもう帰るべきでしょうか? ですがこれだけ遅ければ学生街にほとんどいないでしょうから忍び込むチャンスかも? う~ん……)


 決断が出来ないまま貴族街と学生街の分岐路まで来た時、学生街が暗いのを見てヴァージニアは決断した。


 (あまり頻繁に夜中まで出歩いているのはよくありません。だから今日のうちに学校を見て行きましょう! 何もなければ石の力を使って外壁を走って行けばそれほど時間をかけずに帰れますしね)


 王都を守る外壁にも見回りの兵士がいるが森が広がる北側の外壁の防備は非常に緩くなっている。ちなみになぜヴァージニアがそれを知っているかというと、以前に石の力を試した時に侵入したからだった。


 一度決断すればヴァージニアの行動は早い。

 ヴァージニアが居る方に向かってくる馬車が通り過ぎたタイミングで馬車道を横切り学生街へと走る。

 この行動にヴァージニアは何の意図も持っていなかった。強いて言えば、単に早く学校に辿り着くことだけが目的だった。

 しかし、ヴァージニアがとった行動は思わぬ効果をもたらしたのだが、それをヴァージニアが知ることは無かった。


―――

 あっ、と思った時には遅かった。

 栗色の髪をなびかせて監視対象ヴァージニアが馬車道に飛び出した。それを見ていたまだ幼さが残る顔つきの青年が慌てて同じように馬車道に飛び出そうとしたがタイミング悪くやってきた馬車に行く手を阻まれてしまった。


 (しまった! ここまで上手くいっていたのに!)


 彼はスコット付きの従士の一人であり、主の命令で他の従士と順番でヴァージニアの監視を行っていた。対象は『無能』のお嬢様だと言う事もあり彼は今回の任務を楽観視していた。

 スコットからは「くれぐれも油断はしないように」と言われていた。だが無能者であるという差別意識から大した事は出来ないと思い込んでいた。加えてギルド前での長時間張り込み、そして時間を見ても家に帰るとだろうという思い込みが咄嗟の判断を鈍らせたのだ。


 (くそっ、これで尾行に失敗したら他の奴らに笑われる! あの無能者め、どこに行った?)


 ヴァージニアに感づかれないように二時間ごとに従士仲間で交代しながら監視を続けてきたのだ。これで撒かれてしまったのでは仲間に顔向けできない。ましてや無能者にしてやられた間抜けと侮られるのは沽券にかかわる。

 馬車が来ないのを見計らって馬車道を駆け抜けヴァージニアが走っていった方向から行き先を推測する。そして行きついた答えは一つしかなかった。


 (まさか自分の通う学校に行くつもりか? だがなぜ? いや、考えるのは後でいい。早く追いつかないと!)


 彼も以前は学生街の騎士学校に通っていた。だから学生街周辺の地理には明るくヴァージニアの移動ルートは簡単に予測が付けられた。学生街へ近づくにつれ人は少なくなり移動を妨げられることもない。若い従士は躊躇わずにヴァージニアが通う学校のを目指して足を速める。

 

 だが向かう学校には既に先客がいたのだが、彼がそれを知る由もなかった。

 

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