白と黒の邂逅 5
「はぁ、はぁ、良かった~。ジニーさん、帰っちゃてたらどうしようかと思った」
「イーリス、私は少しブレイドさんと話をしてくるからジニーさんにギルドの案内をしてあげてね。今は二階でギルドの秘蔵品展もやっていますから楽しんでください。それでは失礼します」
メメスは椅子から立ち上がりジニーに頭を下げると再び後ろの扉の中へ引っ込んでいってしまった。
一方帰ってきた途端にジニーの相手を仰せつかったイーリスは不思議そうな顔をしていた。彼女のギルド勤務経験(それほど多くはないが)では冒険者への取材でサブマスターである父にまで話を持って行く事態を見た事がなかった。
「ジニーさん、何か問題でもあったの? ひょっとして話を聞きたい人ってパパ……じゃなくてサブマスターだったの?」
「いえ、そうではなく――」
席から立ったヴァージニアはメメスとの雑談内容は省いて依頼の件だけをイーリスに伝えた。ヴァージニアはイーリスも目当ての冒険者と知り合いであることに期待したが腕を組んで首を傾げているのをみると違うようだ。
「私もここにいる冒険者さん全員知っている訳じゃないからなぁ。顔を見たら思い出すかもしれないけど」
「いえ、いいんです。それより今日はあまり冒険者さんがいないんですね。私はてっきり大勢いらっしゃるのかと思ってましたけど」
ヴァージニアの言う通りギルドの中は閑散としていた。ヴァージニアがメメスと話している間も何人か後ろを通り過ぎた程度である。
「この時期は冒険者も稼ぎ時だから。ジニーさんは冒険者の中にも色々なタイプがいるのを知っている?」
「タイプ、ですか? いえ、てっきり冒険者の方はダンジョンの攻略や魔獣退治を主にされていると思っていました」
「実は最近そういう冒険者は少ないんだよ。ほら、こっち来て掲示板をよく見てみて?」
促されるままにヴァージニアが掲示板に近づき改めて依頼内容を見てみると――。
「落とした指輪の捜索、家族の送迎、それに街の案内? これが冒険者の仕事なのですか?」
「元々冒険者って地域の面倒事を解決する人たちの事だからね。低ランクの依頼は大体こういう物なんだよ。ほとんどの冒険者はそれでお金を稼いで生活しているの。中には副業で冒険者やっている人もいるしね」
ヴァージニアは町や村で仕事をしながら手が空いた時に冒険者ギルドで簡単な仕事を受ける兼業冒険者の存在を聞かされた目を丸くした。彼女の知識では冒険者が簡単な依頼を受けるのは次の冒険への資金稼ぎであり、その稼ぎだけで満足している冒険者の存在は知らないものだった。
そんな話をしている時にギルドの中に三十代初めくらいの男が入ってきてイーリスに親し気に声を掛けてきた。
「よう、イーリス。そっちのお嬢さんは新人さんか?」
「違うよ、ジニーさんは依頼者……オジサン、ちょっと臭うよ?」
「いや、依頼された物を見つける為にゴミ捨て場を漁ったりしてたからな。ここに来る前に嫁さんに魔術で消臭してもらったんだけど駄目だったか」
「もうすぐ子ども生まれるんでしょ。あまり奥さんに無理させちゃ駄目だよ~」
「もうすぐ生まれるから稼いどかなきゃならないんだよ。それじゃな」
そういって冒険者の男は奥にある依頼の完了を報告しにカウンターへ歩いていく。
「あの人も普段は職人として働いているんだよ。元々は冒険者だったけど結婚して冒険者を引退したんだけど時間が空いた時やお金を稼ぎたい時にはここで仕事を引き受けているだ」
「では遺跡や未知の
ヴァージニアの言う魔窟とは世界を循環するマナが起こす異常現象と言われている。様々な要因でマナが一か所に集まり澱んでしまうと空間が侵食され迷宮が生まれる。それが魔窟と呼ばれる場所である。
魔窟の内部には様々な魔獣と物質化した高純度のマナの塊である『マナティア』を見つける事が出来る。このマナティアは武具や魔術具の良い素材になるため非常に高値で取引されるお宝で冒険者はこれを目当てに魔窟に挑むのである。
更に魔窟ではマナティア以外にも様々な武具や道具が発見される事もある。なぜ魔窟に道具が落ちているのかは未だ解明されていない。ある学者はマナに蓄積された記憶が具現化した物だと主張しているが、それが本当かは誰も知らない。ただ一つ確かなのは魔窟で発見された物は非常に役立つ物が多いということだ。
だから冒険者は一攫千金や冒険に役立つ物を求めて魔窟へ挑むものだとヴァージニアは考えていたのだ。しかしイーリスの話を聞いてヴァージニアの冒険者という存在に対するイメージは大分変ってきてしまった。
「古王国時代の遺跡発掘もウォルコット卿の時代から比べたら下火になっちゃったし、魔窟の方も国が管理して結構な入場料を取るから稼ぎが悪くなったってママが言ってた。でもだからって高ランクの依頼がなくなったわけじゃないよ。ほら、こっちの上の方に魔窟の調査や魔獣討伐の依頼もあるんだよ」
イーリスが指さした先にあった真新しい紙を見たヴァージニアはおやっと思った。そこに書かれていた依頼内容が『白毛の魔獣調査と討伐』とあったからだ。
(白い魔獣……。確かレイチェルが昨日うわさで聞いた人の命を奪いとる魔獣の事を話していましたね。それと関係あるのでしょうか?)
「あっ、いつまでもここにいてもつまらないよね? 展示会やってる二階に行こうよ。そこで渡したい物もあるし」
「渡したい物? あっ、手を引っ張らないでください~!」
魔獣に関する依頼書に後ろ髪をひかれながらヴァージニアはイーリスに引っ張られるように入り口近くの階段へ連れていかれてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます