第九章 白と黒の邂逅

白と黒の邂逅 1

 前日祭二日目。既に陽が傾き始めた王都の大通りをヴァージニアは疲れた足取りで歩いていた。


 (うう、何も出かけようとした矢先に学校の課題が届くなんてあんまりですよ……)


 今朝早くに来た学校側の使いは、かなりの量の課題をヴァージニアとレイチェルに渡すと学校の再開が後日祭一日目だと告げると忙しそうに次の配達先へさっさと向かってしまった。

 課された課題の量はまるで生徒を建国祭に参加させるのを邪魔する悪意を感じさせるほどだった。それでも課題を無視する訳にはいかずレイチェルの厳格な時間管理の元でヴァージニアは今の今まで課題に取り組んでいたのである。


 (でも先生たちの事は何も言っていなかったと言う事は、皆さん無事だったんでしょうか? それにあの黒い煙みたいな物の正体は判明したのでしょうか?)


 謎の黒い煙に襲撃された先生たちを心配するヴァージニアだったがレイチェルは「どうせ学校が始まればわかる事です」と特に関心を示さなかった。

 

 (レイチェルの言う事も分かりますが、やはり気になります)


 今日は時間が遅いので冒険者ギルドでエドワードの最後の依頼を請け負った冒険者の事を尋ねに行くだけとヴァージニアはレイチェルに言って屋敷を出た。だが、一度不安が首をもたげると、一目学校を見ておきたい気持ちを抑えきれなくなっていた。


 (冒険者ギルドに寄ってから少し学校を見てきましょう。夕食は外で済ませればいいですしね!)


 食べ物関連の店に関しては祭りの間は困ることがない。レイチェル一人に屋敷で夕食を取らせることに罪悪感はあるが、お土産に何か買って帰れば大丈夫と自分を納得させてヴァージニアは人が減り始めた大通りを南に向かって進んでいった。


 目指す冒険者ギルドの支部は王都の南、昨日行った歓楽街にほど近い場所にある。ヴァージニアもいつか行ってみたいと常々思っていたのだが、用もないのに行くのはどうかと思い建物の中に入った事は一度もなかった。


 (あの! 憧れの! 冒険者ギルドに! 今日、ついに私は入るのですね! ああ、中はどうなっているのでしょう? やっぱり本部と同じような感じなのでしょうか?)


 ヴァージニアの内心を表すように早足で大通りを進むと、遂に目的の場所が視界に入った。木造だった本部と違い支部は石作りの二階建てのどっしりとした造りの建物だ。入り口のドアの上には冒険者ギルドと大陸共通語で書いてあるプレートが掛けられている。


 (遂に来ました! 行列はなさそうですし入ってしまってもいいんですよね!? それでは、いざ!)


 冒険者ギルドの前で急に深呼吸を始めたヴァージニアに周りの通行人が奇異な物を見るような視線を浴びせる。しかし今のヴァージニアには周りを気にする余裕などない。

 長年憧れ続けてきた場所に入る緊張で高鳴る胸の鼓動を感じつつ、ドアに手を当てると簡単に内側に動いた。その力の流れのままにヴァージニアは遂に冒険者ギルドに足を踏み入れた。

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