浮かび上がる真実 2

 問われたヴァージニアはペンダントが秘めた力、身体能力の異常強化を伝え、自分が見つけたから二か月間密かに訓練を続けていた事を伝えた。

 ヴァージニアはペンダントを使う事に抵抗があったのだがレイチェルが「念のために練習はしておいてください」と説得され、王都の外に出て実際に体を動かす練習を重ねていた。


 「わざわざ王都の外まで行ってたの? 時間がかかって大変だったでしょう?」


 「いえ、屋敷の屋根から街を守る防壁に飛び移って、そこから反対側に飛び降りればすぐですよ」


 「……は? あの高い防壁はそんな簡単に昇り降りできるものではないでしょう?」


 当たり前だが防壁に梯子や階段などない。普通に飛び降りれば即死間違いなし、魔術で身体強化しても大怪我で済めば御の字という高さの防壁を魔力を持たない少女が昇り降りしているのだというのだからエレンが信じられないのは当然だった。


 「いえ、ペンダントの力を借りれば簡単ですよ。家の裏にある壁を越えればすぐそこに森がありますから秘密の練習にはもってこいです!」


 エレンの記憶ではウルフェン家は貴族街の北東端にあった。その先には小さな森が広がっているのも間違いないがエレンはやはり信じられない。だが親友ジニーが意味のない嘘を付くわけもない。そう考えエレンはひとまずその話を置いておくことにした。


 「まぁいいわ。近いうちにあなたの訓練をみせてもらえばはっきりするでしょう。ところでそのペンダント触ってみてもいいかしら?」


 「あっ、気を付けてくださいね。レイチェルによると、触れようとするとバチッと弾かれるそうですから」


 「本当に? ……痛っ、本当ね。なるほど、資格がない人間には触れられないということね。それじゃ、ジニー、少し力を引き出してみてくれる?ちょっと魔力感知をしてみたいから」


 「それは止めたほうがいいです!」


 「何で?」


 「レイチェルが前にそれをやって三日間意識が戻らなかったんです。あの時は本当にどうなるかと気が気ではありませんでした」


 それは魔力の泉から帰った翌日の出来事であった。

 ペンダントの秘密を解き明かそうとレイチェルがヴァージニアにペンダントの力を引き出させてから魔力感知を使うと倒れてしまったのだ。

 幸い後遺症はなかったものの、気が付いてからも丸一週間は立ち上がる事も出来ない有様だった。


 「呪術の類かしら? それでレイチェルさんはどう言っていたの?」


 「凄まじい力がペンダントから逆流してきて死にかけたって言っていました。私にはよく分からない感覚ですけど危険なのは間違いないと思います!」


 「魔力の逆流? トラップの一種? じゃあ注意して見なくちゃ」


 「ええっと、私の話聞いてました?」


 「その辺は上手くやるから心配しないで。とりあえずペンダントの力を引き出していない状態で見てみましょう」


 「うう~、本当に気を付けてくださいね」


 頼みごとをしている立場のヴァージニアは断りきることが出来ず仕方なくペンダントを手に載せてエレンによく見えるようにする。

 それを見てからエレンは魔力感知の詠唱を終えヴァージニアのペンダントを見たが、すぐに目を離してしまった。

 

 「……はぁ、はぁ。一体何よ、あの力。危なかった。レイチェルさんの話を聞いていなかったら本当に危なかったかもしれない」


 「エレンちゃん、大丈夫ですか!?」


 「大丈夫よ。なるほど、確かにこれは普通じゃないわ」


 エレンが見たイメージは、ただひたすらに圧倒的な力の塊だ。

 その力を感知した途端にエレンの意識が消し飛ばされそうになった。すぐに視線を外して感知魔術を解除しなければエレンもレイチェルと同じになっていただろう。


 「はぁ、嫌な汗かいた。お風呂に入る前で良かったわ」


 「エレンちゃん、本当に大丈夫ですか?」


 「すぐに感知を切ったから大丈夫よ。というよりむしろジニーこそ大丈夫なの? こんな普通じゃない力を使って体壊れていない?」


 「いえ、むしろ以前より快調なくらいです!」


 「本当に? 何か私にはこのペンダントが呪いのアイテムに見えてきたわ。あっ、ちょっと待ってて、ジニー。確かこの辺に……」


 少しふらつきながらエレンが散らかったままの自分の机の引き出しから一枚の綺麗な白い布を取り出した。


 「あった、あった。前にフレデリックから貰ったのよね。はい、これジニーにあげるわ」


 「え、ダメですよ! だってこれ王子様からの贈り物じゃ……」


 「違うわ、これは私への贈り物を包んでいた魔力を通さない特殊な布よ。前にこっそりフレデリックが高価なマジックアイテムを宝物庫から持ってきてくれたことがあったの。これはその時忘れ物。これでペンダントを包めば不幸な事故は防げるでしょ。街中には高価な物を物色するために感知魔術を使う人もいるから面倒事に巻き込まれずに済むわよ」

 

 確かに街中で感知魔術を使っている人がヴァージニアのペンダントを見て倒たりしたら大変である。その時、もし近くにヴァージニアしかいなかったら衛兵に捕縛されペンダントを没収されてしまう可能性もあるかもしれない。

 

 「でも、こういった布って結構高い物では……」


 「フレデリックが忘れていってから大分経つけど何も言ってこないから彼にとっては大した物じゃないでしょ。後であなたが誰かを殺した罪で牢屋に入れられるなんてのは嫌だしね。ジニーはお裁縫は出来るわよね」


 「はい、簡単な物なら作れます」


 二年前までウルフェン家にはヴァージニアにも好意的だった庭師の妻がいた。時折夫の差し入れに来ていた彼女にヴァージニアは手芸を習い、今ではヴァージニアは自分の服の解れを直したりできるようになっていた。


 「じゃあ、これを出来るだけ早くペンダントを覆うように仕立てて使いなさい。誰かの魔力感知に巻き込まれて犠牲者が出る前にね」


 「それじゃあ、有難くいただきますね」


 エレンがトラブルに巻き込まれないように本気で案じているのを感じヴァージニアは素直に贈り物を受け取った。

 受け取った布はさらさらとして手触りがよく、普通の布としても非常に高品質であることが感じられた。

 

 「ところでフレデリック王子がこの布に包んで持ってきた物って何だったんですか?」


 「なんでも宝物庫にあった……。いえ、止めておきましょう。これは表沙汰にしないって話だったわ」


 以前会った時の品行方正そうなフレデリック王子のやんちゃな一面を聞いてしまったヴァージニアにエレンは悪戯っぽく笑う。


 「世間の評判なんて、あまり当てにならないのよ。特に王族に関してはね。さてと、続きはお風呂に入ってからにしましょうか?」


 「あっ、そうですね。それじゃ私は部屋に戻り……」


 「何寝ぼけた事言っているの。一緒に入るに決まっているでしょう」


 「ええ!?」


 「だってジニーだけじゃお風呂の魔術具を動かせないでしょう。ちょっと狭いけどそこは我慢してね。さぁ、行くわよ」


 「ま、まってくださ~い!」


 そして2人は一時歴史の事をしばし忘れ他愛のないおしゃべりと暖かな湯で心身ともにリフレッシュするのであった。

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