消された歴史 2

 「結論から言うと、この巻物を残した者は王家に連なる人だと思います」


 「は、はい!」


 なぜかベッドに正座をしているヴァージニアに対して机の前にある椅子に足を組んで座ってるレイチェルは講義をするかのように厳かに言葉を続ける。


 「そしてそれは恐らく現在の王家と王位を争った白派の王族の物だと思われるのです」


 「百年前の継承戦争の話ですよね。そして負けたのは第二王子でした……よね?」


 「はい。『凄惨な歴史を乗り越えるために国を新たにする』なんて事を言って現王家は紋章を変えたのです。実際は様々な援助をしてもらった黒曜教に配慮しての事でしょうけど」


 「黒曜教って狼嫌いですからね~」



 黒曜教。

 パミア大陸の北東地帯にあるミレイユ山脈に本拠を置く大地母神を崇める教団の一つである。

 ミレイユ山脈で見つかる黒い石を『聖石せいせき』と呼び、その力を持って様々な奇跡を起こし『黒の災厄』以降に急激に信者を増やしていった。

 元々パミア大陸には土着の精霊信仰から発展した宗教があったが、それらを徐々に飲み込み今なお勢力を広げている。

 そんな黒曜教がなぜか嫌悪しているのが狼や白い毛を持つ獣であった。


 「不浄を呼び込むから、ですね。今でも黒曜教会は動物立ち入り禁止ですから徹底しているものです」


 「動物、可愛いのに不思議ですよね~」


 「まぁ、教会に連れ込まない限りは信者でもペットを飼うのは自由ですから。って、黒曜教会はいいんです。問題はかつての白派を率いた第二王子です」


 「質問です。なんでこの巻物の印が第二王子の物だと特定できるのですか? それ以前の王家でも使われていた紋章なんですよね」


 「この封に使われている蝋の色です。聖王国では金、あるいは黄色を使われていましたが継承戦争では、それぞれの旗の色に応じて装備の色なども変えたそうです」


 「白い蝋が使われているから、かつての白派の人が残したということですか」


 「まぁ、たまたま黄色が無かったから白を使った可能性もゼロではありませんけどね。ただ何がしか王家に関わる事であるのは間違いないかと」


 顔を近づけ声を潜め脅かすようにレイチェルが言う。

 

 「あの、レイチェル。やっぱり……」


 「誰かに知らせるのは禁止です。というわけで、姉さま。さっさと封を開けてみましょう」


 「絶対に楽しんでいますよね!?」


 「当たり前です。つまらないパーティーより遥かに面白いことになりそうな気配がプンプンしますよ、これは」


 「だって王家ですよ!? もしかしたらとんでもない事が書いてあったり!?」


 「王家に対する強請りのネタが出来ていいじゃないですか。……冗談ですけど」


 「あまり冗談に聞こえませんよ~」


 「とにかくまずは見てみないと始まりませんよ。いい加減覚悟を決めてください」


 「うう、散々脅かしておいて酷いですよぅ……」


 巻物を受け取ったヴァージニアはレイチェルと席を代わりナイフを使って丁寧に封を解き巻物を広げていく。

 その中には五つの段落で別けられた小さくびっしり書き綴られた謎の文字が並んでいた。その文字は現在使われている大陸共用語ではないのはヴァージニアにも理解できたが、レイチェルも形のいい眉をひそめ文字を穴が開くほど見つめ続けるが頭を振って降参してしまった。


 「……えっと、レイチェル?」


 「古王国時代の文字、じゃないですね。何かの暗号でしょうか? あんな仕掛けに隠しておいて更にコレとかどれだけ用心深いんですか」


 「う~ん、困っちゃいましたね」


 この日からウルフェン家の姉妹は謎の文字の解読に励む事になるが、所詮は素人。

 そうしている内に、二か月が過ぎてしまった。

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