――5――

真相

「それで、探偵君。俺らを集めたということは真相がわかったということかい?」

 バーベキュー場に集められた大学生グループ三人と紗綾の友人たち、そして数人の警官を前にして山中警部が口を開いた。その表情はいかにも愉快と言ったもので、紗綾のような素人探偵とは時として敵になるこの職ながら、この場を楽しんでいるようにさえ見えた。

「ええ、大体ね。というのも、動機はあくまで推測ですから。山中警部、それはあなたが調べてくださいね」

 紗綾はそう言ってくるりと踵を返すと三人の大学生に一礼した。そして椅子に座ると上体をすこし前にのめらせて三人の顔をじっくり見回した。三人が三人とも椅子に座っている。右から赤羽裕、大庭翠、間宮凛と並んでいる。一番右の赤羽裕は相変わらず不貞腐れて腕組み足組み、紗綾とは顔も合わせようとしなかった。隣の大庭翠は俯いて、しきりにスカートの端をいじっている。最後に間宮凛は西洋のウィッチのように憔悴して、落ち窪んだ眼で周りを見回していた。

 紗綾は三人の様子を見ると、いまさらのようにウームと唸って手を組んで体を前後に揺らした。ゆっくりと体を二、三往復したところでピタリと動きを止めた。

「一説によると犯罪というのはその手口、その後処理において犯人の性格が色濃く反映されるそうです」

 目をゆっくりと見開くと、紗綾は言葉を継いだ。

「赤羽さん。向こう岸に渡るのすら面倒だったんですね」

 その言葉を聞いた刹那、赤羽裕の表情が固まった。スローモーションのように、ゆっくり赤羽裕は首をまわした。紗綾とようやく目が合った。

「そう。もしあなたが泰さんを手に掛ければ、例えば、あなたのその手で泰さんの首を絞めさえすれば、女性の彼女には犯行ができないとなったでしょう。なのにあなたはただ合図となる水の音を聞いて、懐中電灯を振っただけ。でもそれ、彼女さんに見られていましたよ。ねぇ、凛さん。違いますか?」

 一同の視線が間宮凛に向けられた。

「いや、私は……」

 間宮凛は立ち上がると、そこに立つ警部を、警官を見回し、気まずくなったのかしょんぼりとそのまま椅子に戻った。

「見なかった、と仰るんですね。いいでしょう所詮これは私の推測ですから。見なかったことにしても結果は同じです。ねぇ、大庭さん」

 呼びかけられて大庭は肩を震わせた。

「私は不思議でならなかったんですよ。あなたがあの橋を渡った時、懐中電灯をもって行かなかったことが。だって、このあたりの橋は欄干も無いんですよ。例え月明かりがあったとしても踏みはずせば川の中。こんな危険な道を夜な夜な明かりもつけずに歩くのはよっぽどの理由があるはずです」

「そ、それは懐中電灯が壊れたから……」

 大庭翠の声は震えていた。

「その答え、変だと思いませんか」

「え?」

「だって今はほら、携帯電話に懐中電灯の機能がついているじゃないですか。なにも懐中電灯という道具に固執することはないわけです。懐中電灯が壊れちゃったから、携帯電話のライトを使いました、これいいじゃないですか。それなのにあなたは頑なに明かりをつけなかったし、そのことを強調する。何故でしょう? あなたは明かりを使っちゃいけない理由が他にあったんですね」

「しかし、大庭翠がバーベキュー場に現れたのは光が見えてからすぐだったと言ったのは、瓦木君、君じゃないか」

「こんなのトリックでも何でもないですよ、山中警部。私さっき赤羽さんに言いましたね、『あなたは合図となる水の音を聞いて、懐中電灯を振っただけ』って」

「君は赤羽君が共犯だというのか。しかし赤羽君はこちら側にいたんだぞ。光が見えたのは対岸のバンガローじゃないか、君も見たんだろう? こちらで懐中電灯を振っても意味がないじゃないか」

「ところがどっこい意味がある」

「何?」

 しかし紗綾は眉一つ動かさなかった。

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