OANDAYいつか・・・・・・君に会いに行くよ

テン

第1話

 僕はカフェでチーズケーキをおともにコーヒーを飲んでいる。

 店の雰囲気は茶色を主役な少し暗めな感じだ。

 このカフェは原宿にあるが若者が遊びに来る街には似合わないと思う。

 チーズケーキを一口、口にくわえおいしさを堪能した後店長に声をかけた。

「店長さん、このチーズケーキ美味しいですね」

「そうかい、いやーお客さんにそういってもらえると作り甲斐があるな」

 ここには何度も足を運んでいるけどデザート系統はチーズケーキが一番おいしいと感じる。

 店長さんはホテルで働いていたらしくこのお店で出る料理はどれも絶品でその中でも王道かもしれないけどオムライスやナポリタンが美味しかった。

 再びチーズケーキを口にくわえながらコーヒーを少し飲む。

 コクのある苦みの中に広がるチーズケーキのさわやかな甘さが幸せを感じさせてくれる。

 幸せな気持ちに浸っていると足元に何かが当たる感覚する。

 何かいるのか気になり足元を見ると白い毛が特徴的な小型犬がいた。

 愛くるしい表情を浮かべているため僕も自然と笑みを浮かべる。

 犬種は確実にビションフリーゼだろう。

「この子は1年前から家で嫁と飼っていてね、名前はペロっていうんだけどかわいいでしょ」

「そうですね、とてもキュートで癒されますね」

 僕は店長さんと話しながらペロ君を持ち上げてジッと目を合わせる。

 最近まで飼っていた犬と犬種が同じためか面影を頭に浮かべてしまう。

 頭に沢山の飼っていた犬との思い出があふれ出てきて少し寂しく感じてくる。

 店長さんは僕が犬を飼っていたのを思い出したのか話を振ってきた。

「あれそういえば、君も犬飼ってたんだよね?」

「もう死んじゃいましたけどね」

 店長さんはあまり触れてほしくない話に触れてしまったと申し訳なさそうにしながら「ごめん、あまり聴かないほうがよかったね」と謝ってきた。

 僕は自分の中にあるものを店長さんに唐突に話したくなり聞いてくれるか質問することにした。

「いや、この機会ですから僕の話を聞いてくれますか?」

 店長さんは少し驚いた顔をした後、「存分に話してよ」と優しい笑みを浮かべた。

 心にあるものを僕は語り始めた。

 15年前僕は母と一緒にペットショップに犬を見に行った時にたまたま売りに出されていた白い毛がたくさん生えているクリっとした目が特徴の小型犬が売りに出されていた。

 何か運命を感じて僕は彼をガラス越しにジッと眺めた.

 とても気に入ってあらい君と勝手に名前を付けて彼を読んでみると「ワン」と返事をした。

 僕は嬉しくて何度もあらい君と呼ぶとそのたびに彼は返事をしてくれた。

 近くにいる母に急いで駆け寄り僕は「あらい君を飼っていい?」と買ってほしいアピールをするが首を横に振られて諦めなさいと言われてしまった。

 ペットショップには犬を買いに来たわけではなくただ見に来ただけであったから当たり前であるが僕は諦められなかった。

 母にこの出会いは運命的なのだと知らしめるため、彼の近くにより無限ループのように勝手につけたあらい君と言う名前を口にした。

 彼は長い時間僕に付き合ってくれ、こちらの声がかれるまで返事をしてくれた。

 疲れて息切れを起こしていると母が「名前あの子覚えちゃったみたいだししょうがないから家に向かい入れてあげましょうか」と僕のアピールが功を奏し正式にあらい君が僕の家に来ることになった。

 その日から1ヶ月後にあらい君は僕たちの家に来た。

 試しにリビングであらい君を遊ばしてみるとキョロキョロと警戒をしながら周りをうろちょろするだけで遊んでくれず、家の環境に適応するまでが中々難しくあらい君は初めて来た日からずっとお腹を下した状態でかなりストレスを感じているようで、こちらとしても不安になってしまった。

 もちろんお腹を下しているのだからトイレの掃除や子犬のこともあってゲージもうんこまみれになってしまう。僕自身としてはみんなで掃除をしたいところであったけど「お前の犬だろ!」と言われてしまい自分一人で綺麗にすることになった。

 面倒くさいと感じるところもあるけどあらい君の不安そうにしている表情を僕は見て僕がしっかりお世話してあげなくちゃいけないのだという気持ちが芽生えて苦ではなくなり、これも大切なことなのだと身に染みるぐら理解した。

 毎日朝昼晩あらい君の世話をしながら根気強く向き合いついにお腹を下すことがなくなり元気よくリビングで遊ぶようになり嬉しかった。

 しかし、僕が通っている工業高校が始まり登校するようになるとあらい君は再びお腹を下すようになってしまったり、ものすごく寂しがるようになってしまう。家にいる人は全員仕事に出かけてしまうため実質あらい君一匹だけになるため、まだ子犬のあらい君は体調を壊してしまった。

 その様子は酷く心に来るところがあり、自分が母子家庭であること結びつけるように考えることが増えた。父親がいないことが僕にとっては非常に寂しいことであり、あらい君には両親がいないと思うと胸が痛くなる。僕が守らなければ、いけないとネットで調べて色々なことを学ぼうと思ったがある事に気がついてしまった。

 躾というのは案外ペットに自分たちが好きなように動くために仕向けるための押し付けをしているに過ぎなかった。今まではペットにしつけをするのは当たり前だと感じる一般的な思考を持っていたはずなのに、その考えにはもう賛成することができなくなってしまった。動物は人間と同じで自我があるはずだから躾をすることや自分たちの環境に合わせろというのはただの自分勝手で過ぎないし、そうしないと生きていけないようにした人間はなんて残酷な生き物なのだろうか、でもそれを理解しても何も変えることができない。結論を言えば最後の最後まであらい君と一緒に居ようと思う。

 そんな考えを持つようになってからは周りの世界が変わったような気がした。

 周りから入ってくる情報を違う観点から見たり、人類がやってきたことに罪悪感を抱いたとしてもそれは変えられない事実であるのだから逆に未来を変えていきたいと行動するようになった。

 帰ってきてあらい君のトイレ掃除をする。その後にあらい君の要求を聞いてストレスがあまりないように一緒に遊んであげたり、お散歩はまだ行ける時期ではないので庭に出すようにした。

 すると驚くことにお腹を下すことが少なくなって、積極的に僕に懐いてくるようになり、コミュニケーションを取れるようになった。

 誰もいない期間があるのはとても寂しいだろうと思うけどその分色々なことをしてあげるのが僕たちができることだと実感し、前向きな気持ちになれた。

 一か月二か月と時間が過ぎていくとともにあらい君は家の環境にも慣れて僕が学校に行っててもお腹壊さないようになり、お散歩にも行けるようになってきた。あらい君にとっては外は初めての事ばかりだろう。元々家の周りには自然がたくさんあり、あらい君は楽しそうに歩いていた。ご近所さんに犬を飼っている人がたくさんいることもあり触れ合いも充実しているみたいだった。たくさんコミュニケーションを積極的にあらい君は取りに行くけど合う合わないがあるようで、威嚇されてしまったりすることも多々あった。でも人間と同じで犬にも社会があって礼儀があり年が離れている犬に無礼を働いて怒られていることがよく合ってなんだか自分を見ているみたいで新鮮だった。僕も他の飼い主たちと積極的に話をしたりして交流の場が増えいじめられているストレスがあまり感じなくなっていた。

 半年ぐらいたったある日、学校に行った僕はみんなと同じことができずクラスのみんなからいじめられて自分の不出来に悩まされて馬鹿にされたことが悔しくて心に大きな傷を背負って帰ってきた僕にあらい君は珍しく何も言わずに僕の膝から離れようとはしなかった。少し大きくなってからあらい君は猫みたいに気まぐれな性格になり家では僕と遊ぶよりも一人遊びのほうを好み、ちょっぴり寂しかったがこの時は一緒にいてくれた。あらい君から心から温かいものを感じてダムが崩壊したように涙がこぼれ落ちた。たくさん出てくる涙をあらい君は無我夢中で舐め始めたことでその行動があまりにも面白く純粋に見えて心から笑顔になり明日への活力になり、自分が苦手な分野に立ち向かっていくことができた。

 学校では沢山乗り越えるべき壁と戦い続け気が付けば僕は社会人の中でも部下をたくさん持つようになってしまっていた。仕事が忙しかったり目の前の目標があると時間が経つのが速いもので、あらい君も高齢になってしまっていた。毎日当たり前のように散歩行ったりリビングで過ごしたりしているけど衰えが酷く寝ていることや起きていても一か所から動かないことが多々あった。運動不足を解消させようとしてもあまり乗り気になってくれない。どうしようかと悩み始めたころに祖母や祖父にあう機会に恵まれた。たわいもない話をしながら祖母から「いつまで生きられるかしら」と突然話を振られた。僕はその時、心の底から怖いと思ってしまう。祖母や祖父がいなくなってしまうことに恐怖を感じるけど、それよりも自分が年老いてしまいには死んでしまうことが一番怖かった。生まれて初めて人間らしいと思える瞬間に出くわした。大切な人の事よりも自分の事を考えてしまうなんてなんて最低なのだろうか。口を動かせないでいると、祖母が笑みを浮かべながら「死ぬ前にひ孫を見てからがいいわ」と言った。理解できなかった。なんでそんなに笑顔を浮かべられているのか。

 死に対して、ぐるぐると考えるようになり、道なき道を歩んでいるような気がしてならなかった。母親とかに聞いたりしたが、年を取ってみないと分からないことだからと言われてしまって心のもやもやがどんどん増幅する一方で、自分がどうして生きているのか、何故仕事や副業で行っている小説に力を入れているのか分からなくなってしまった。末期には歴史の偉人を見ながらこの人たちは何を考えて死を迎えたのかなと考えるようになってきてしまう。

 答えが見つからない日々を過ごし1年経ったある日、あらい君がべったりと僕の膝の上から離れなくなってこちらにずっと視線を合わせてきたのだ。なんだろうと思っていると心のどこかに懐かしい温もり感じた。僕は過去にあらい君に励ましてもらった思い出がフラッシュバックして、笑みがこぼれる。そして何故だかわからないけどあらい君と歩んできた多くの記憶が、頭の中で映し出される。あらい君との楽しい思い出や中々芸を覚えてくれなかったり、一緒にどこかに出かけたことなどのたわいもない当たり前だと思っていた日々がバラバラになって頭の中に流れて行った。すべてがするすると流れ終えて、ふと、視線を下に向けるとあらい君が僕のまぶたをペロっと舐めて家に来た時から寝床にしているゲージにゆっくりと歩き出す。何時もなら自分で入りたがらないのにどうしたのかなとボート見ているとあらい君はピタッと立ち止まってこちらに振り返り、笑顔を浮かべた。すると、どうしてだかわからないけど僕の心の中に「今まで楽しかったね、僕もう行くよ、またね」と言葉が伝わってきて何となく僕にはこれが現実であらい君と一緒にいれるのは最後なのだと、そう感じた。自然と僕も悲しみの表情を浮かべるのではなくあらい君にこたえるように笑顔を浮かべる。あらい君はそんな僕を見て再びゲージに向かって歩く。その姿には翼が生えているようで、また会える気がした。ゲージの中に入ったあらい君はゆっくりと横になりそのまま目を覚ますことはなく永遠の眠りについた。

 僕は話したいことを話し終え、喉を潤すためコーヒーを口に加える。

「なんていい話なんだ、もう私なみだがとまらなくてなってしまいそうだ」

「え、そこまで泣きますかね」

 ドン引きするぐらいの涙を目から大量に流してちょこちょこ歩いていた店長さんが飼っているビションフリーゼであるペロくんを抱きかかえてほおずりする。あまりにしつこいものだからペロ君はとても面倒くさそうな表情を浮かべていた。

「それで、君は答えを見つけることができたのかい?」

「一応見つけることができたと思いますよ」

 どこか安心したように「そうかい」と口にした店長さんは新しくカップを出してペロ君を降ろしてからコーヒーを注ぎ自分の口に一口運ぶ。さすがはカフェを営んでいるだけあってコーヒーを飲む姿は上品で様になっている。こういう年の取り方ができたらいいなと感じられるものがありつい僕も真似してコーヒーに口を付ける。

 店長さんは自分のカップに入っているコーヒーを覗きながら僕に話しかけてきた。

「人生生きていれば色々あるよね・・・・・・・・理不尽なことや永遠に答えが出ないこととか、だけど苦みがある中にはうまみがあったりコクがあったり、人生はコーヒーに例えられるなんちゃって」

 僕は店長さんと同じく少し波立つコーヒーを眺める。

「確かにその通りですね」

 店長さんは「そうでしょ」と何かすっきりとしたような表情をした。まだ店長さんよりかは生きていなけど苦いことだらけな道を生きてきたような気がする。誰だって苦しい道を歩みたいなんて人なのだから思わないはず。だけど、人間に生まれてきた時点で避けることができないのだということも僕たちは知っている。同じ行動をして何も考えずに生きているものになれたらなと言う人もいるけどそんな恐ろしい生き物にはなりたくないと僕は思っている。だって、悲しみ、苦しみ、喜び、それらの表情を浮かべることができることこそが人類に与えられた特権で僕たちは他の動物よりも恵まれている証だ。コーヒーのように底なし沼のような黒をして味が苦かったとしても、その中にうま味やコクを感じることができるのは人間の本質でどんなに辛いことや自殺したいぐらいなことがあっても頑張って幸せを探せば必ず見つかるはず。

「店長さん、もう時間なので行きますね」

 僕は鞄を膝の上に置き財布を取り出した。

 お財布の中はパンパンになっている。

 小銭を使おうと思っていてもそのこと自体を忘れてしまいどんどんたまって行ってしまった結果がこの財布の状態だけど毎度なんで僕はこんなだらしないのだろうか感じ、ため息が出る。

 店長さんは苦笑いしながら僕のお会計を待ってくれている。

「君はいつも小銭をためてるね、だらしないというか、そんなに入っていたら趣味なのではないかと勘違いしてしまうよ」

 1円~500円までが大量に入っているため会計で払う分の料金を集めるのになかなか苦労する。

「毎度あり、この後仕事でしょ、頑張りなよ」

「では、行ってきます!」

 僕は代金を払い終わって、お店の外に出ようとするとペロ君が僕の足元に来た。下からこちらを見上げてくる姿があらい君にとても似ていてドキッとした。ペロ君を10秒くらい見つめた後僕は今度こそ扉を開けてお店を出た。

 結論になるけれど人生の意味っていうのは人それぞれだ。でも僕は今も胸の内にいる君からもらった温もりが答えだと思っているよ。残されてしまう後に次代の人たちに何かを託すことができるならばそれは立派な生きた証拠で人生を全うする理由だと思う。

 いつか君に会える日を楽しみにしているよ。

 

 

 


 


 

 

 

 

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