ハイドロジェットPの死闘
その後もハイドロジェットPをめぐっては、様々な毀誉褒貶が渦巻いた。宣伝のためにいい加減な情報を流しているという説、大きな混乱を作り出して新しい作品の前評判を高めようとしているという説、時には『美しき冒険旅行』を作るというのはウソだという説も流れた。「幻の傑作を作るというデマを流した」というデマもあった。まあ、デマだと思ってしまう理由も分からないではない。それほど不可能な問題に挑戦していたのだハイドロジェットPという人は。
この時期、ハイドロジェットPはアボリジニの代表者と何回も会見し、『美しき冒険旅行』から一切の差別的な内容を振り払おうと努力していたことがうかがえる。彼女は従来の偏見に満ちた作品より、新しい作品を作ろうとしていたことも。しかし、その崇高な理想は、多くの偏見に阻まれた。
たとえばANYMOREという団体が激しい抗議運動を繰り広げた。まだ映画ができてもいないというのに。彼らはまだ存在すらしていない映画に敵意を抱き、様々なネガティブ・キャンペーンを行なった。彼らはまだ完成もしていない映画にについて、ありもしない「感想」を書き並べ、憎悪をあおった。こんな映画を支持するだけで、レイシストだと糾弾された。
誰も新作『美しき冒険旅行』の実物を見てもいないのに。
ハイドロジェットPは沈黙を守った。一切の事前の予告なしに、観客の評価にすべてを委ねることにしたのだ。
結果から言えばこの戦法は大勝利だった。
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