「全裸で何が悪い」

 ついにオーストラリアのマスコミの前にも姿を見せたハイドロジェットPは、堂々と自説を語った。彼女の本名はバーバラ知子シルバースタイン。母の美子は若い頃にオーストラリアに移ってきて、父のロバートとはキャンベラで結婚式をあげた。知子は幼い時から古い特撮映画や古いアニメに詳しく、いろいろな雑学知識をため込んでいた。『美女と液体人間』や『海底少年マリン』を見たのも小学生の頃だという。古典的な冒険映画にも精通しており、『ジャングルガール』や『コンゴのパンサーガール』といった古い映画もよく見ていた。道理で〈プロジェクト・リアーネ〉のネタを考えるのも、すらすらとアイデアが湧いて出たわけだ。

 彼女が最初に『ウオークアバウト』の原作を読んだのは高校生の時、それ以来ずっと映画化を夢見てきたのだという。

「ニコラス・ローグによる前の映画版については知ってます」彼女が言っているのは、1971年に製作され、日本でも『美しき冒険旅行』という邦題で公開された映画の事である。「あれは失敗作だと思います。第一に、アボリジニが重要な役割を果たす映画だというのに、まともにアボリジニの人物に考証を依頼しなかったこと。ですからアボリジニの風習や人格についてまったく不勉強で、ある意味、差別的な表現が多かった。こういうところのセンスの欠如については、ニコラス・ローグ版を引き継ぐつもりはまったくありません。

 特にブッシュボーイの性格については、まったくひどい解釈がされています。原作では、彼はメリーに対して特別な好意をまったく抱いていません。ところがニコラス・ローグ版では、彼はメリーに対して欲情したのがきっかけで好意を抱き、珍妙な踊りを踊ってメリーを怖がらせた末に自殺してしまいます。これは断じて許せません。そもそもこの時代のアボリジニはみんな全裸で暮らしていたんです。それなのに白人の少女の裸を想像して欲情する……。あり得ませんよ、そんなこと」

 ハイドロジェットPはさらにニコラス・ローグ版のおかしな点を指摘した。

「メリーは最初の内こそ裸になることに抵抗しています。でも砂漠での砂漠でのサバイバルを重ねた末に、次第に裸を見せることへの抵抗感が失われて、ラストシーンではついにアボリジニの家族の前で、全裸で立つことを当然のことと考えるようになります。これこそまさにハッピーエンドじゃありませんか。

 だから私はこのハッピーエンドを否定する人に訴えたいんです。全裸で何が悪いんでしょうと。それが人間本来の姿なんじゃないでしょうか」

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