ついに姿を見せたハイドロジェットP

 ジェイムズ・ヴァンス・マーシャルの『美しき冒険旅行 ウオークアバウト』は1959年に発表された作品である。主人公は14歳のメリーと8歳の弟のピーターの姉弟。二人が飛行機事故でオーストラリアの砂漠に投げ出され、懸命のサバイバルを繰り広げる。そしてメリーは先住民の少年ブッシュボーイと出会う……という物語だ。

 映画化するにあたって、最も大きな障害はふたつ。第一の障害はブッシュボーイの存在である。野生で暮らす彼は生まれつき全裸なのだ。ちょっと自主規制すればいいという話ではない。ブッシュボーイなしでは物語が成り立たなくなってしまう。

 第二はメリーの存在だ。彼女は劇中でよく素っ裸になる。何度も着替えのシーンが出てくるのだ。とりわけ後半、コアラに服を引き裂かれた後は生まれたままの姿になる。全編の大半のシーンで素っ裸なのだ。どうしてこんな映画が撮れるだろう。

 だからハイドロジェットPが『美しき冒険旅行 ウオークアバウト』の映画化を発表した時、誰もがその企画を「無理だ」決めつけた。そうだ、無理に違いない……。

 だが、ハイドロジェットPは不可能を可能にした。

 2035年の夏、シドニー国際空港に降り立ったハイドロジェットPをついに目にした我々は、真実を目にすることとなる。

 ハイドロジェットPは女性、しかもアボリジニの血を引く有色人種だったのだ。

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