〈プロジェクト・リアーネ〉
この当時、日本だけではなく諸外国でも、デスクトップモーションピクチャーのブームが起き始めていた。だが、どこの国のクリエイターたちも、コンテンツの不足に苦しんでいた。できれば多くの人に知られているコンテンツが欲しい。だが、よく知られているコンテンツほど、競争率も激しい……。
そこで日本の場合と同様、古い映画とかのコンテンツが見直される例が多くなった。『バットマン』ではなく『キャットマン』『ミニットマン』『ロケットマン』といったコンテンツが注目された。それらのコンテンツは決して剽窃にならないよう、オリジナルの作品のアイデアに配慮されていた。
たとえば女ターザンものが多数あった。元祖と言える『シーナ』はもちろんのこと、『ジャングルのジュデイ』や『タイガーガール』『プリンセス・パンサ』『シュディ』『ジャングルのジャン』といった作品群だ。もちろん現代の作品なので、人種差別や性差別らないよう配慮されている。また、希少動物の被害や自然保護についても昔よりも厳しくなった。
そんな中、ファンの注目したのが、〈プロジェクト・リアーネ〉であった。もとネタは西ドイツ映画〈まだドイツが東西に分断されていた時代の話だ〉で、日本でも『シャングルの裸女』という邦題で公開されている。ヒロインはアフリカの先住民の間で育った少女リアーネ。邦題の通りにほんのわずかの毛皮をまとっているだけの裸同然なのだが、それなりに当時の(男性の)考え方観客には受けたらしい
新しくなった〈リアーネ〉は、露出度の高さは前と変わらないのだが、アクションがまるで違っている。大胆に、それでいて可愛らしく。コンピューターに描かれた映像とは思えない。
製造元の〈フングラサングリエント〉社では、リアーネのキャラクター・デザインは固定化されていた。毛皮のどんなデザインも同じになり、リアーネはどんな状況でも似たような恥ずかしい姿で飛び回り、アクションを演じる。そのアクションにしても、やり投げや水泳、マラソン、短距離走、木登り、素手での相手とのファイトなど、ジャングル・ガールのスキルを難なくこなし、時には猛獣との派手な格闘戦もこなす。まさに理想の女ターザンなのだ。ちなみにスタッフはすべて自粛しており、リアーネを不必要に傷つけたりせず、また彼女自身も他人の血を流す行為は慎重に避けた。まさに女ターザンのあるべき姿なのだ。
もちろん「女ターザン」というものからして、現実にありえないものなのだが。
もちろん版権を管理する〈フングラサングリルエント〉社には、世界中から才能あふれるメガプロが集まった。たとえば東アメリカ(アメリカが東西に分かれたのは、その三年のことだ)のギレスピーPは、リアーネをヒロインにした連続ドラマをスタートさせた。『プリンセス・オブ・ビースト』。そのドラマの中では、リアーネは悪と戦い、迷宮に隠された財宝を探し、獰猛なライオンと戦うのだ。
また、西アメリカ出身のダンフォースPの『ジャスト・イマジン』も力作で、リアーネは未来人のタイムスリップに巻き込まれ、赤ん坊になったりはたまた老婆になったりを繰り返す。
ドイツ人のルートヴィヒ・ルッペルの『ドクター・サイクロプス』も変わった題材を扱っており、リアーネはマッドサイエンティストの実験によって身長五センチの小人に変えられてしまい、小さな蜘蛛やムカデと必死に戦うはめになる。
そんな中、日本から招かれて参加したのがハイドロジェットPである。
ハイドロジェットPの作品は、どれもオリジナリティにあふれており、面白い。たとえば『私は外宇宙から来た怪物と結婚した』では宇宙からの侵略を扱っているのだが、実座がとはあまり共通点がない。リアーネは奇妙なスクリーンにとじこめられて脱出できなくなったうえ、タイトルにあるように、グロテスクなエイリアンと結婚させられそうになる。
あるいは『モノリス・モンスター』はどうだろう。今度の敵は宇宙から来た鉱物質のモンスターで、リアーネはうっかりそれに触れてしまい、全身が宝石のようなモデルに変化してしまう。
また『裸のジャングル』では宇宙から落下してきたカプセルの内部に納められていた生物の標本をめぐって熾烈な争奪戦が繰り広げられ、ラストは巨大なミュータントとのバトルが展開する。
このようにハイドロジェットPの作品には、しばしば空想科学的なモチーフが出てくる。ハイドロジェットP自身が好きなのだろう。
しかし、彼はある作品の映像化の機会を何年も前から温めており、親しい友人にも洩らしていた。しかし誰もがその企画を聞いて、「無理だ」「あきらめろ」と言った。
それはジェイムズ・ヴァンス・マーシャルの『美しき冒険旅行』の映像化である。
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