「私の考えたこと」

 ハイドロジェットPは『美少女と液体人間』のヒントを旧作の『美女と液体人間』から得たという。

『旧作では、クラブの踊り子が液体人間に襲われ、溶かされてしまうシーンがあった。美女がどろどろに溶けて消えてしまうのだ。しかし、その女性が消えた後にはステージ衣装だけが残るのだ。ブラジャーやパンティだけが。このシーンには私は軽いショックをうけた。

 そこで逆を考えてみた。液体人間の犠牲になったヒロインが、肉体はそのままだが、どういうことかブラジャーやパンティを消されてしまう、という話だ。これならヒロインの女の子の裸がたっぷり見られるのではないか(笑)。そしてヒロイン自身も液体人間ということにする。そしてシナリオの書き直しをはじめてみたが、そしたら面白いようにアイデアが浮かんできて止まらなくなった』

 そこからハイドロジェットPはアイデアを紡ぎ出した。液体人間は2人の女の子ということになり、ラストシーンでは2人の肉体は溶け合い、水中で不思議なダンスを舞い踊る。二人の液体少女は一体となって生きた美しいモニュメントとなる。それは素晴らしいラストシーンになるはずだった。

 しかし、そのラストはひどい検閲を受けてずたずたされた。


 今やコンピューターグラフィックスだけではなく、映像すべてが実写にとって変わられている。すべての人が見ている動画はコンピューターグラフィックスと区別がつかない。「歴史の再現」と言われてるものが本物かどうかなんて、誰が気にするというのか。

 当然のことながら、歴史の捏造もはびこっていた。特に目立ったのは、「歴史の真相」と主張する作品群だ。たとえばある戦争に関する映画はかなり流行った。ナチスが「人道的」にユダヤ人を扱っている動画や、関東大震災の際に朝鮮人が「大量の暴行を働いた」という動画だ。もちろんそんな映像があるはずがないのだが、この頃にはすでに映像記録を見分けることすら困難になりつつあった。多くの人は「それらしい映像」を見せられると無条件で信じてしまうのだ。

 日本では「素晴らしい真相」という皮肉っぽいタイトルの映像が話題になった。それは題名に反してまったく素晴らしくない文明の一場面であった。恐ろしい真相でクールダウンした映像。それはコンピューターグラフィックスで作られた映像である。作られた話題の映像であれば本物のようにみえる。僕たちは可能であれば「それらしい映像」なら信じこんでしまうのだ。

 もちろん、中には「それらしい映像」が本物である場合もあるわけだが、もはやそれは本物と区別がつかない。

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