DTMPの時代

 西暦2028年。人類は新たな時代を迎えた。この年の年の六月一日に、動画投稿サイト〈あおぞらロード〉がスタートしたのだ  。

 このサイトの特徴は、かねてから一部のサイトで試験運用されていたシステムの本格的な使用であった。投げ銭システムである。投稿者自らが、自分の動画に値段をつける。最低でも一円ぐらい。感動的したなら何万円を送ってもかまわない。素朴な『歌ってみた』や『踊ってみた』という動画も人気があるが、何といっても人気を集めたのは、CGを多用したオリジナルのアニメであった。

 あおぞらロードのオープンの幕開けとなったのは、ボーンクラッシャーPの力作、『ムーンブレイカー』だった。ボーンクラッシャーPの敬愛する結城ぴあのが主演する本格スペースオペラで、ぴあの自身が自らのサイトで絶賛したこともあり、ほんの数日で四十万再生を突破し、二百万を超える投げ銭を獲得した。その後も絶え間なく投げ銭に金を投入するファンが大勢いた。最終的に『ムーンブレイカー』だけでもボーンクラッシャーPは三千五百万円もの高額の資金を稼いだと言われているぐらいだ。

 驚くべきは、その資金の総額が極めて安くついたということだ。資金の多くはパソコン上でCGのキャラクターを動かすために費やされる。何よりもCGのキャラクターはベースアップを要求したりはしない。『ムーンブレイカー』はサイレントであり、登場人物にはすべて台詞がなかった。しかしボーンクラッシャーPの追従者にはそんな遠慮はなかった。同年の九月に発表された塩ラーメンPのアクション大作『ブラックドッグ1』の場合は多くの台詞かあった。だがその台詞にしても、人工的な音声を使っており、声優にギャラを払う必要はなかった。

『ブラックドッグ1」はホーンクラッシャーPの記録をあっさり塗り替え、短期間て四千二百万もの投げ銭を獲得した。同様に多額の資金を手に入れようとする者は数多くいた。もちろんそんな方法でうまくいくわけがなく、もうけを得るのには優れた才能と努力が必要だ。

 このように多額の資金を稼ぐ者を、メガプロデューサー。略してメガプロがというようになった。このように短期間で多くのメガプロが頻出して時代こそ、DTMPの時代と呼ぶべきかもしれない。そう、デスクトップモーションピクチャーの時代である。もう映画とは多くの人の努力と何百万もの資金で生産するものではない。一人かせいぜい数人の努力によって、ほんのわずかの予算で生産するものなのだ。もう巨大セットも、大勢のエキストラも不要だ。何もかもデスクトップで作り出せる。大金を必要とするゲストもいらない。ゲストキャラクターもデスクトップで作り出せる。

 さらにはアフレコに人間の声を使う意味すらもうなかった。この時代には人間の声を真似るコンパニオンがかなり普及しており、誰でも自由自在に使いこなせた。さらにヌートフォネティクスの普及により、本物の人間の声で喋らせることすら可能になっていた。もう声優が声をアテる必要もないのだ。

 そう、我々はもはや多額の金を実際に使って映画を観ることはないのだ。


 そうしたムーブメントの中で、私は一人のメガプロに注目した。ハイドロジェットPである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る