第3話 お悩み相談 前編

甘菜は昨日の出来事が夢だったのか、現実なのか受け入れる事が出来ないまま朝を迎えてしまった。 


「うぅ、、結局全然眠れなかった、、」

時刻は朝の5時。頭の中では昨日の出来事を未だに処理できず、スッキリしない。

モヤモヤとした気持ちが身体の中を巡っている。

気持ち悪い感覚が全身を巡って手足の先まで到達し、そのせいかフラフラし手にも力が入らない。

取り敢えず、顔でも洗うか。と洗面所に向かう事にした。


顔を洗い終えた甘菜は鏡に映った自分の顔を見つめている。

毎日鏡で自分の顔をみるのは精神的にもいいらしい。その日の自分のコンディションを自分で認識するためにも大事な事と言える。

もちろん甘菜は、そんな事知ってか知らずだが、無意識に見ていた。


「私が恋をしていますと・・・・・・・・・・!?いやいやいやいや無い無い無い無い!!!!ありえないから!!!!湖に恋している!?ろくに人にも恋した事も無い私がそんな無機質な物に恋するわけ無いじゃん!」


当たり前の感情だ。そんな人でも物でも無いものに恋するなんて馬鹿げている。

仮にそうだとしたら、それってもう人間としてどうなの!?そんな自然と恋するって神様かよっ!!とそんな宇宙的な考えに到達し、自分を否定していた。


熱くなった物は、時間が立つと冷えるのが道理だ。

甘菜はすぐに熱くなるが、すぐ冷める。

良い風に言えば、すぐ冷静になれると言う事だろう。考えが良くなるとはまた違う物だが。


例に習い彼女も冷静さを取り戻すと、また違う考えが浮かんでくる。

「でもでも、湖が嫌いかと言われればそれも違う。確かに好きではある、、でもそれはLikeであってLoveでは無いはず、、と思う。」


これである。この無限ループが昨日から彼女を悩ませているのだ。今彼女の頭の中はまさに森羅万象。宇宙規模に到達していた。


もはや自分でもどちらの好きなのか、次第にわからなくなっていた。

しかしこんな事、人に相談する事もできない。

確実に頭のおかしい子だと思われる。一体どうした物か甘菜は考えが纏まらないまま時間は刻々と過ぎていき登校の時間を迎えるのであった。


「甘菜〜おっはよ。」

学校に到着し下駄箱で靴を履き替えていると、後ろから低めだがとても通りの良い声が聞こえてきた。

そこにいたのは井伊原佳織だった。

長い黒髪でスタイルも良くとても可愛らしい。隣に来るとシャンプーのいい匂いがし、女子の私でも惚れ惚れしてしまう。


「あっ佳織ちゃん!おはや。あっ!?よ!」

「あははははっ!何、朝から噛んでるの!?」

噛んでしまった。朝からやってしまったと甘菜は少し恥ずかしくなって顔を赤くした。

それを見た佳織は愉快そうな笑いを飛ばしている。

見た目は大人っぽいのに良く笑う子だなぁと甘菜は思った。これは確実に男子からモテるだろうとそう確信していた。


「あっいや、ちょっと考え事してたもんでして。口の動かし方を忘れてしまっただけだよ!」

「え〜〜!?なにその言い訳!初めて聞いたよ!ふふふ。て言うか珍しいね。甘菜が考え事するなんて。じゃあお姉さんが聞いてあげる。ほらっ言ってごらんなさい。」

「いーいーいー!そんな大した事じゃ無いから!大丈夫だよ!」

「何私に言えない事なの?もしかして恋愛関係?」

「うぐっ!ちっ!違うよ!違うから!」

甘菜は言葉では否定していたものの、今の表情はそれとは程遠く、額からはジトリと汗が流れ、目は完全にグルグルと視点が定まっていなかった。何より耳が真っ赤だ。

誰がどう見ても顔だけは肯定しているのが明白だった。


「・・・・えっ?何その反応。・・・本当に?」

「違うって!!!」

「え〜〜〜〜〜!!誰?誰?誰!?」

佳織は朝からとんでもないスクープを入手したと言わんばかりの反応を示す。

朝の玄関に佳織の声が響き渡り、他の生徒が一斉に二人の方を見る。

彼女がここまで大袈裟な反応をするのは珍しい。よっぽどびっくりしたのであろう。


「と、取り敢えず、ここで話すのも何だしまだ時間はあるから、場所変えよっか」

佳織はそう提案してきた。


人目の付かない所をと選び、体育館横の通路が選ばれた。


「うぅ本当に違うのに、、、、、、」

甘菜は少し泣きたくなってきた。これが本当の恋愛ならば間違いなく佳織に相談していたであろう。

しかし事が事だ。絶対引かれる。どうした物かと悩んでいると佳織はそんな甘菜を思ってか、こんな提案をしてきた。


「わかったよ。じゃあこうしよう。無理に甘菜にだけ秘密を喋らすのは確かに不公平だよね。だから私も秘密を教えてあげる。まだ誰にも話していない私だけの秘密。どう?これで教えてくれる気になった?ふふふっ」


うぅどこまでも卑怯なやつだ。と甘菜は思った。

でも佳織は信用のできる子だし、隠し事も一切しない子だ。

そんな子に秘密があると言うのだ。彼女の性格から言って秘密があると言うのは事実であろう。そんな彼女が私にも話していない秘密があるなんて信じられないし、よっぽどの事だろう。正直に言うと気になる。


そんな佳織からの提案に揺れ動いている私を見て彼女はこう言った。


「今、私の秘密の事すごい気になっているんでしょ。だとしたらそれはずるいよ。自分の秘密を教えないで人の秘密だけ知りたいだなんて。欲しい物があるんだったらそれに見合う物を差し出して頂戴。」

と彼女は先程とは違う少し落ち着いた声音で言った。


「それに今の私、見て。すごい緊張しているんだよ。」


そう言われて冷静になり彼女見てみると、震えていた。

小さくだが、震えている。佳織はいつも落ち着いていて、あまり緊張している所を見た事がなかったのでその光景は少しドキリとした。


「実は最近、私も誰にも言えないような出来事があって、なんとなくだけど、もしかして甘菜の今悩んでいる事は、私の身に起きた事と似ているんじゃ無いかなって思ってさ。実はまだ誰にも言って無いんだけど甘菜なら言っても良いかなって思ったんだ。私の覚悟はもうできたよ。これだけ言っておいて甘菜の悩みが、本当にどうでも良い事だったら私すごく恥ずかしいね。」


取り敢えず、私はこれ以上黙っているの辛いから、良いきっかけだと思って、告白するね。と佳織は言った。


「佳織ちゃん・・・。」


彼女は気づいていたのだ。私が本当に秘密を抱えていると。

そして佳織はその為に、自分のとっておきを差し出してくれたのだ。


きっと、佳織は私には秘密がある。と言うことすら、物凄く怖い事だったのだろう。

それほどの秘密を抱えていたのだ彼女は。

彼女の性格からすればわかる。

彼女はそれを事もなげに言ったのだ。

そんな彼女の決心の取引に気づかないとは、本当に情けない。


もしかしたら、私以上の秘密かもしれない。


甘菜の心の中にも、ようやく一つの決心がついた。



「わかったよ。佳織ちゃん。教えてあげる。私の秘密。」













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