――怪談会へ――

「民家、ですか? そうですね……一番近い所でここから徒歩一時間はかかります。それでもお隣さんって呼ぶんですから、何だかおかしな感じでしょう?」


 うふふと笑う羽切を見つめながら、俺たち三人は一瞬だけ言葉を失ったようにポカンとなった。


「一時間? 隣の家に行くだけで? お店は?」


「ありません。もっと遠いです」


 信じられないと言いたげに口を開く戸波へ、羽切が当たり前のことを語るようにサラリと返答する。


 隣家へ行くだけで、一時間。当然、天候が悪ければ更に時間がかかるだろう。


 心筋梗塞しんきんこうそくや脳卒中など、万が一にも一刻を争うような状態に陥ってしまったら、助かる余地など限りなくゼロではないだろうか。


「……不安とかないんですか? 病気や怪我をしてしまったらどうしようとか」


 訊ねて良いことかどうか判断しかねて、それでも気になり俺は遠慮がちに訊いてみる。


「ない、わけではなかったですね。一人で暮らしを始めた最初の頃は、毎日途方に暮れそうになりながらどうにか生活をしていました」

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