――怪談会へ――

「――そのぬいぐるみは、息子さんの棺へ入れるかどうか最後まで悩んだそうですが、結局側に残したそうです。息子さんの想いが残っているような気がして、手放せなかったとおっしゃってましたね」


 過去に聞いたという不思議な話を抑揚よくようのない声音で淡々と語った女は、最後にそう付け加え笑うような気配を伝えてきた。


「……恐いって言うか、ちょっと切ない系の話ですね。あたしだったら、立ち直れなさそう」


 しんみりとした声で、戸波がそんな感想を口にする。


 空は更に夜へ近づき、枝葉の隙間から覗いていたオレンジ色の光彩はいつの間にか濃紺へと侵食されかけていた。


「生き物というのは、生まれるときこそ順番があれど、亡くなるときにはそれはありませんからね。後から生まれたからと言って、自分より長く生きてくれる保証はない。何とも、無情なものです」


 ガサリと、一際大きな音を立てて、女は足元に伸びていた雑草を踏み倒す。


「だからこそ、大切な人と過ごせる時間はかけがえのないものと言われたりするのでしょう。――さぁ、もう少しです。あちらに見えるのが私の家ですよ」

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