――招きに応じて――

 ここまでの疲れやストレスで沸点が低くなってしまっているのか、戸波があからさまにムッとした様相で渋沢の頭をねめつける。


「おい、やめろよ。こんなとこで喧嘩なんかしても何も好転しないだろ」


 すぐさま仲裁するように声を割り込ませ、邪険なムードになりかける空気をどうにか抑え込む。


 女はそんなこちらのやり取りを面白がるように眺めてから、「あの……」と遠慮がちな声を漏らしてきた。


「もしよろしければ、私の家が近くにありますので休んでいかれませんか? 何でしたら、部屋もありますし、今日一晩お泊りになられても構いません」


「え? いや、でも……」


 突然の提案に、俺たちは咄嗟に反応を返すことができずそれぞれ視線を交わし合う。


「お気持ちはありがたいですけど、さすがにそんなご迷惑をかけるわけには……。戻り方さえ教えていただけたら、自分たちでどうにかしますので」


 見ず知らずの、それも女性の住む家に上がり込むというのもさすがに気が引け、代表するかたちで俺が言葉を返す。

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