――招きに応じて――

「あの……?」


 視線を動かした以外の反応を示さない女へ、戸惑いながら再度言葉を重ねた渋沢だったが、女の口元が僅かに動いたのを見てそれ以上の言葉を飲み込み黙り込んだ。


「……何か、話し声が聞こえた気がしたものですから、どなたかいらっしゃるのかと思って様子を見ていました。皆さん、道に迷われたのですか?」


「あ、はい……そうです」


 女の声は、その見た目よりも年齢を重ねているかのような落ち着きをはらんでいて、俺は反射的にかしこまった態度をとってしまった。


「それはお困りでしょう。ですが、ここから一番近くの車道に出るにはそれなりに時間がかかってしまいます。今から向かわれても日が暮れてしまいますし、この辺りは猪などの動物も生息していますから、下手に下山を試みるのは少々危険かもしれませんよ」


 心配するように告げながら、女は俺たち三人を順番に眺めていく。


「マジかよ、参ったなぁ。因みに、えっと……日守湖ひもりこに続く登山道へ出れたら最高なんですけど、そこへ行くにもやっぱ遠いですかね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る