――招きに応じて――

 緊張を紛らわすようにそんなことを言い合いながら、女の元へと近づいていく。


 女の方はと言えば、見知らぬ男女三人が真っ直ぐに自分へ接近しているのを見ているにも関わらず、動揺する素振りすら窺わせることなくただ同じ場所に立ち続けていた。


「あの、すみません」


 女との距離が五メートルほどにまで縮まったタイミングで、渋沢が他人向けのかしこまった声を放り投げた。


「オレたち、ちょっと道に迷っちゃいまして。ひょっとして地元の方だったりします?」


 出方を探るようにして問う渋沢の声に、女はその黒い瞳だけをスッと動かし僅かに細める。


 肩口で揃えられた黒髪、同じように黒いスラックスにベージュのノースリーブ姿の女は、何と言うのか、素人目に見てもこんな山の中を歩くには不向きすぎる格好に映り、あからさまな違和感を与えてきた。


 とは言え、まだ二十代半ばくらいに思えるその顔は遠目に見た以上に美人でつい見とれそうにもなってしまう。

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