――招きに応じて――

 突然の友人の変化を不審に思いながら声をかけると、渋沢は俺たち二人へ振り向くことなく警戒心をにじませた声を返してきた。


「……人がいる」


「え?」


「ほら、あそこ。こっち見てるぞ」


 言いながら、渋沢が正面を指差す。


 それにつられるように、俺もその示された先へ視線を向けると、確かに一人の女がこちらを見つめながら佇んでいるのがすぐにわかった。


「……この辺に住んでる人かな?」


 警戒する俺をよそに、戸波は期待を抱くようなニュアンスの言葉を漏らしてくる。


 見たところ、他に人がいる気配はない。


 仮に怪しい人物であったとしても、女一人であればそれほどのリスクは生じないか。


「……どうする? あっちもオレらに気づいてるし、声かけてみるか?」


 渋沢も俺と同じような判断をしたのか、慎重な様子で意見を求めてきた。


「だな。このまま迷ってるくらいなら、一か八かできる行動は起こした方が良いと思う」


 すぐに同意し、俺はこちらを向いた渋沢へ歩みを再開するようジェスチャーで促した。


「あの人も、同じ遭難者だったりしてな」


「そのときはそのときだよ。協力し合えないか話をしてみよう」

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