第一話:海にいた影

 だけど、すぐにそうじゃないって気づいたんだ。


 その人影さ、海の中にこう……立ってるような感じで垂直に浮かんでたんだけど、普通その状態から動くには普通に泳ぐか足で漕ぐような動きをしなきゃまともに移動なんてできないだろ?


 仮に足がつくくらいの水深だったとしても、水中を歩くわけだから身体は左右に揺れたりするじゃん?


 でもそいつ、そういったモーションが一切なかったんだよ。


 まるで真っ黒い立体映像をそのままスライドさせたみたいな滑らかな動きで、スー……ッて僕のいる方向に近づいてきたもんだから、もう一瞬にして恐くなってさ。


 逃げようと思って慌てて走りだしたんだけど、その途中で振り向いたらそいつ、砂浜の上も同じように移動してて……しかも、下半身がなかったんだ。


 腹から上の上半身だけしかない影が、棒立ち状態の姿勢で迫って来てて。


 しかも僕よりも全然速いし、マジで追いつかれるってパニックになりかけた瞬間に、すぐ近くから従兄弟の声が聞こえてきて懐中電灯の明かりが見えたから、僕も即座に大声で助け求めてさ。

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