最終話 脱出
18:00
ミサイルがヘリの横を素通りした。 三人はミサイルを目で追った。
炎に包まれ体が溶け始めた黒田は、天を仰いだ。
雷雨が止み分厚い曇天の隙間から、妖しい月光を放ちながら月が顔を出す。
黒田?:
「…………ワ……ガ、子タチ、ニ……栄光ヲ……。 ……我ガ子ニ、永遠ノ………
繁栄アレェェエエエエーーーーー!!!」
ドロドロに溶けていく右手の鉤爪を、月に伸ばした。
ミサイルが遮った。
三木:
「目を瞑って何かに掴まれ!!」
昼のように明るくなった。直後ヘリを揺らす程の衝撃波が襲う。
ヘリが墜落するのを覚悟したが、それは杞憂に終わる。
激しい揺れが収まったのを、確認して振り返る。
狩矢崎市は大きなキノコ雲に、成り果てていた。三人はへたり込んだ。
三木:
「……こちらウォーカー、どうした? …………任務を放棄して君も脱出しろ。
通信を終える」
無線で誰かとやり取りをしている三木を、ぼーっと見ていた山田の隣りに
宮部が座る。
宮部:
「……終わったんですね、全部………」
山田:
「……ええ、終わったんです。……全部」
何気なしに宮部が見つめてると、感じた山田は宮部を見つめる。
2人にそう言う空気が流れ始めた矢先、落合が話を振った。
落合:
「……いや~一時はどうなるかと思いましたが、案外どうにかなりましたね~」
山田:
「そうですね。がむしゃらに生きた。………必死に生きようとしたのは、
人生を振り返っても多分今日ぐらいでしょう」
宮部:
「何かに必死になるっていうのは、改めて素敵だなって思い知らされました」
落合:
「確かに素晴らしいと思いますけど、気付き方というか、その過程が
どうかしてると思うんですよね…」
山田:
「確かに」
三人で吹き出し、一斉に笑う。
宮部:
「……あの、太郎さん。これからどうするんですか?
住む場所ごと故郷が無くなって、何もかも失いました。これからどうします?」
山田:
「どうしましょうか。 今のところ何も考えられないので、取りあえずは
治療ですね。その後風呂入って、寝て、明日起きるのが目標です」
落合:
「普通ですね~。まぁ普通が一番か……」
山田:
「そして一緒に生きましょう」
宮部:
「えっ………」
真っすぐ宮部の目を見据える山田。宮部はただただ赤面する。
しかし落合が話に入る。
落合:
「その『一緒に』って僕も入ってますよね?」
山田:
「…え?ええ、まぁそうですね」
宮部は少し不機嫌な顔で落合を睨む。落合はわざとらしい口笛を吹く。
怒った宮部に体を揺らされ、傷みに悲鳴を上げる落合。
2人のやり取りを微笑みながら見た後、山田は窓の外を頬杖をつき、眺めた。
「生きてるって、幸せだな」
ヘリは山々と空の地平線を飛んでいく。どこまでも自由に。
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