第17話 最後の戦い
山田はマシンガンを、宮部は銃を、落合はショットガンを持ち、
憎しみの目を向けて来る黒田と向き合った。
怒りと憎しみに狂った獣が咆哮した。
それは空間を揺らし、豪雨の闇夜を切り裂いた。 マシンガンの引き金を絞った。
狙いは特に決めず、体のどこかに当たれば僥倖だと思った。
しかし黒田は、いや黒田だったものは跳躍した。
ヘリの底スレスレまで飛び、下降して来る。降って来るという表現が正しいか。
降って来る雨粒より速い速度で、地面に激突する。
山田達は大きくスライディングして避けた。
三人がいた場所に、大きな鉤爪が深々と突き刺さる。山田と宮部は事なきを得たが、落合は右足に傷みを覚え顔をしかめた。
ふくらはぎからの出血を一瞥し、腹這いの体勢のままショットガンを連射した。
赤い大きな右目を中心にした、数個の小さな目玉達が落合を睨む。
肩の肉片を散らし咆哮した後、ライトの外側の闇へと消える。
三人は目を凝らし、辺りを注意深く見渡す。
闇に潜むものを選別出来る目を、養っていたなら三人に取っては、何の事も無い単純な動作だっただろう。 しかし三人にはそういう類いの目を持っていなかった。
だから何かが蠢いていると、認識した時には既に遅かった。
闇から出現して山田の背中を、通りすがりに引っ掻いた。
半回転しながら地に伏した山田は、目の前に大きな槍が掲げられているのが見えた。 貫かれる事を覚悟したが、銃弾に弾かれ胸に数発被弾。
苦しみの呻きを上げた後、再び闇へ消える。
感謝を目に宿して宮部とアイコンタクトを取る。
落合:
「……クソ! どこにいやがる、暗すぎて見えやしねぇ!」
山田:
「……大佐!ちゃんと照らしてください! 何も見えなければ対処のしようが
ありません。目隠しプレイは趣味じゃないんですよ!」
無線(三木):
『この豪雨で操縦が難しい状況で、無茶ぶりも良い所だが何とかしてみよう』
無線:『操縦してるの大佐じゃありませんけどね!!』
無線(三木):
『細かい事は良いんだよ!』
再びライトの光によって、照らされた黒田。余程眩しかったのか、左右に顔を振る。その隙を三人は見逃さなかった。
銃、ショットガン、マシンガンの集中砲火を黒田に浴びせる。
肉片や血しぶきを散らしながら、黒田は再度闇に消える。
闇に身を隠し数秒、また光に照らされ銃弾の的となる。
しかしまたしても跳躍し、三人のいた場所に降って来る。
間一髪の所で避けたものの、山田は背中の痛みに悶絶した。
蓄積されたダメージは、着々と山田の体を蝕んでいる。
短期で決着をつけなければならない、と一瞬焦った。それが原因だったのか。
目を瞑ってしまった山田は、槍で横一文字に斬られる。
傷はそんなに深くはなく、浅いが出血と共に激痛が走る。
顔をしかめた山田にノミの足で、蹴っ飛ばされ地面を滑っていく。
黒田の頭を中心にショットガンを連射していた落合は、落ちていた瓦礫を大量に
投げられ気絶する。
雄叫びを上げながら銃を撃ってくる宮部に気付いた
黒田は、臆する事無く槍で宮部の右肩を貫き、階段室の壁に串刺しにする。
悲鳴を上げ苦痛の表情に歪む宮部の顔を覗き込む。
まるで命乞いを聞きたいがために、止めを刺さないように。
宮部は黒田の顔に唾を吐き捨てる。
宮部:
「………もう男に媚びへつらう事に飽きたのよ」
鉤爪を上げ振り下ろそうとした。しかし先に左手の槍が地面に落ちた。
山田が渾身の力で刀で叩き斬った。
ノーミン黒田:「グガォォオオオーーー!!!」
叫び、振り向き際に裏拳で山田を後ろへ吹っ飛ばす。
倒れた山田に追撃しようとしたその瞬間、落ちた筈の槍が自身の胴体を貫いた。
宮部がなけなしの力を振り絞り、黒田に一矢報いた。振り返ろうとした黒田の頭に、瓦礫が投げつけられ視界が揺れる。落合に寄る咄嗟の判断だ。
無線(三木):
『山田君!今からそちらにマグナムを投げる、それでケリを付けろ!!』
再び天を仰いだ。暗闇から落ちて来る銀色に輝く、何かに手を伸ばす。
黒田が無線に気付いたのか、自身に取って次の脅威を察知し、素早く動いた。
鉤爪を突き立てるために、右手を伸ばした。
デザートイーグルを両手でキャッチし、そのまま向かって来る黒田に放った。
右目諸共右側頭部から頭頂骨にかけて、大きく抉られる。
小さな呻きを上げ、黒田は地に伏した。
宮部:
「……やった……やった!」
落合:
「……よっしゃー!ついに倒れたー!!」
山田:
「……はぁはぁ、大佐何とか倒せました……」
無線(三木):
『よくやった。今からヘリを下ろす。あまり時間がない、すぐに乗ってくれ』
ヘリが徐々に下降していく。三人は歩み寄りほっと安堵する。
17:55
ヘリが着陸し三人は急いで乗り込む。
コックピットの助手席から三木大佐が顔を出す。
三木:
「三人とも、無事で何よりだ」
宮部:
「ええ、お陰で助かりました。………でも大佐、他の隊員達はどうしたんです?
もっといましたよね?」
三木:
「……彼らは、彼らの職務を全うして殉じたよ」
その言葉で察した。
これ以上の言葉は不要で、大佐には慰めにもならなければ、隊員達の供養にも
ならない。
パイロット:「全員乗ったな?では離陸する!」
機体が持ち上がり地面が遠ざかっていく。
重苦しい空気が機内を支配し、気まずい雰囲気が流れ続けるかと思われたが、落合がその空気をぶち壊した。
落合:
「……ところで、脱出した後病院的な所行きたいんだけど……。
ワクチン打ってても傷が痛くて痛くて、そろそろ限界」
三木:
「安心したまえ。軍用の医療所が設けてある、そこで治療しよう」
山田:
「…………。」
宮部:
「よかったぁ~。これで本当に終わったんですね……。太郎さん、私達
助かったんですね」
山田:
「……そのようです、本当に良かったですね。ところで大佐、
ちょっと聞きたい事が……」
?:「グギャァァアアアーーー!!!」
落合:
「な、何だ?!」
山田:
「まさか!!」
全員で窓の外を覗き込む。倒れた筈の黒田が再び立っていた。
顔の右半分の抉られた部分から、ウジャウジャと無数のベビー・ノーミンが蠢き、
犇(ひし)めき合っていた。その隙間からは時折、赤黒い触手が出現している。
パイロット:「クソ!まだ生きていたのかあの化け物。即刻ここから離脱する!」
山田:
「待ってください!アレをこのままにはしておけません。
逃がしてくれるとも到底思えない」
宮部:
「それにそのままだと町の外へ、逃げてしまう可能性だってあります。
ここで倒しましょう!」
落合:
「え?嘘?マジで?満身創痍なのに戦うの?
老体に鞭打ちとかまさにこの事だよ!!」
三木:
「……仕方ない。ではその固定銃座を使いたまえ。今度こそ止めを刺せ」
落合:
「うっひょひょ~!!M134のガトリング銃~!!
生でお目にかかれるとは思いもしなかったーー! 生生生、生が一番!!!」
山田:
「……現金な奴」
宮部:
「太郎さん、倒しましょう。あの人を……」
山田:
「雅さん……。ええ!終止符を打ちましょう。あの人に!」
2人で肩を並べ、ガトリング銃を黒田に向ける。
・KS社上空
一緒に引き金を引き、雨霰の銃弾を黒田に降らせる。
人なら即ミンチになる筈だった。しかし人を捨て、人を超え、人を超越した者。
肉片と血しぶき、ベビー・ノーミンを散らしながら尚、倒れず立ち続けている。
ノーミン完全体:「グウォォオオオ!!」
吼えた直後跳躍した。
ヘリを飛び越え隣りのB棟の、屋上へと着地しヘリを見据える。
三木:
「跳んだ!! ……何てジャンプ力だ」
山田:
「追いかけて!」
パイロット:「何が悲しくて大の大人が、春休みに化け物と、
おいかけっこをしなきゃいけないんだ!」
ヘリは急旋回をし再び黒田に銃口を向ける。
しかし向けたより早く、黒田から吐き出された寄生虫弾が、ヘリの側面に当たり
大きく揺れた。
宮部:
「きゃあ!」
山田:
「う!くっ!」
落合:
「痛い!痛い痛い! この揺れ傷に響く!!」
三木:
「空の上で地震に合うとは、思いもしなかった……」
パイロット:「おい!あの変な弾の処理も頼む。当たり続けたら
ヘリが保たない!!」
宮部が飛んで来る寄生虫弾を、銃弾で相殺し、山田は黒田本体を蜂の巣にする。
度重なるダメージにより黒田が片膝を付いた。
B棟の屋上がボロボロになってきた頃、再び黒田が跳躍、ヘリを飛び越え
C棟の屋上に着地する。
山田:
「追って!」
パイロット:「一般人なのに人使いの荒さ、半端無いな!!」
ヘリが大きく旋回し、3度ガトリング銃の銃口を黒田に向ける。
黒田が高速で寄生虫弾を、吐き飛ばして来た。
宮部が何弾か処理するも、数弾ヘリの側面に当たり、ヘリが大きく揺れる。
それでも山田は攻撃の手を緩める事をせず、黒田を蜂の巣にし続ける。
そうしてやっと黒田が両膝を付き、頭(こうべ)を垂れた。
これを勝機と見た落合が、積んであったロケットランチャーを担いで、
黒田に狙いを定めた。
三木:
「おい、勝手に使うな!」
落合:
「汚物は消毒だぁぁあーー!!」
引き金を引きロケット弾が、真っすぐ黒田に飛んでいく。
黒田に着弾し霧散するかと思われた。 黒田は顔を上げたかと思えば、跳躍した。
すれ違い様にロケット弾が黒田がいた場所に着弾し、C棟の屋上
が木っ端みじんになる。
そして黒田はヘリに体当たりを食らわし、ヘリを激しく揺さぶった。
三人は衝撃で後方へと投げ出される形となり、スライドドアにぶつかった。
ノーミン完全体:「グギャァァアア!!」
黒田はキャビンスライドドアに、鉤爪をこじり付け体勢を保った。
大きなノミの足で、ガトリング銃を破壊していく。
山田達は絶望の眼差しを向け、諦めの言葉を口にした。
宮部:
「そんな……。私達は、ここまでなの………?」
落合:
「ぎゃああーー!!僕達は死ぬんだー!ここで死ぬんだーー!!」
パイロット:「死なせるかよぉ!!」
パイロットは操縦桿を渾身の力で捻り、ヘリを高速で回転し始めた。
遠心力で壁の隅に山田達が追いやられる。
三木:
「機内は満員のため、お下りください!」
コルトパイソンを懐から出し、黒田に連射した。
黒田は限界が来たのか、力尽きた様な形でぶら下がり始めた。
山田はその隙を見逃さなかった。
山田:
「憧れを超える!! うぉおおおーーーー!!」
僅かに残った人間の左側の頬を、ストレートパンチを食らわす。
遠心力も手伝ってか、黒田が弾き飛ばされ中央研究所の屋上に落下していった。
パイロット:「時間が限界だ、ここから離れるぞ!」
そう言ってヘリは体勢を整え、KS社から離れていく。
離れた直後、KS社の地下から爆発が起きた。予告された自爆が始まったのだろう。
地下区画は広かったようでKS社の周りの、道路が爆破し事故車両を
巻き込んでいく。そして一階で爆発が起き、連鎖爆発が上階に上る。
C棟とB棟の建物が崩れ始め、中央研究所に寄りかかる形で激突する。
そして中央研究所の屋上が爆発し、黒田が炎に包まれた。
ノーミン完全体:「グォォオオーーー!!!」
黒田の断末魔が爆煙に轟いた。
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