第12話 最高傑作
・C棟 バイオハザード室
最深部 長い通路を抜け重々しい機材が、いっぱいある部屋に辿り着く。
薬師は背を向け、実験用なのか緑色の液体が入った、大きなカプセルの前で端末を
操作していた。
山田:
「追い詰めたぞ、薬師!!」
落合:
「いい加減に逃げるのを諦めろテメェ!!」
薬師:
「……しつこいぞ君達。しつこい男はおなごに、嫌われるって知っておるか?」
山田:
「あんたと恋バナしに、来たんじゃないんだよ、今までの礼たっぷりさせてもらう!」
薬師:
「ヒョ~ッヒョッヒョッヒョ。飛んで火に入る夏の虫とはこの事じゃ。君達はここで死ぬのだ、しかしわしが直接手を下すまでもない。彼女にやってもらおう」
落合:
「彼女?」
ふと気付いた。薬師の背後のカプセルの中身に。淡灰色で両腕と両股の内側の、筋肉の繊維が剥き出した、5メートルもある大男が入っていた。
鋭く大きく尖った鉤爪もそうだが、何より特徴的だったのが、赤黒い斑点のある心臓が、剥き出しになっていた事だろう。 目の錯覚なのだろうか、心臓が鼓動するたびに赤い斑点が動いているように見える。しかし白濁した目からは正気を感じられない。
山田:
「な、何だ……これは……」
薬師:
「KS社最高傑作にして我らの女神! “アイリス”様じゃ!人間の次なる進化の
架け橋となる存在。 このお方の御前では、君達等存在する価値もなく、わしでさえ
謁見などおこがましい」
山田:
「……女神? つまりこれの元は女性………?」
薬師:
「黒田博士の奥様じゃ。心臓に直接ノーミンを寄生させ、低温生命維持チューブを
媒体とし、長期保持を実現したのじゃ。つまり長期間のコールドスリープをさせながら、不安定な寄生を完全適合するようにしたのじゃよ。これこそがこの姿こそが、
人間が次に進化するべき姿なのじゃよ!」
山田:
「どいつもこいつも狂ってやがる!」
落合:
「ケッ、アイリスだか不思議の国のアリスだか、アイマスだか知らねーが、そんな
化けもんに殺されてたまるかよ!!」
薬師:
「いいや君達はここで死ぬんじゃ、彼女に裁かれてのう! 目覚めなされ我等が
女神、栄光の女神よ!!」
端末の何かの操作をして、勝ち誇った顔をする薬師。
アナウンス:『実験体アイリス放出受諾、培養液を排出、酸素受給、覚醒剤投与、
アイリス排出!』
カプセルの中にいたモンスターが目覚め、中からカプセルを拳で何度も殴りつける
殴られるたびに、カプセルのガラスにひびが入って行く。ガシャーンとガラスを
割り、ついに実験用カプセルが割れアイリスがのっそりと出て来る。
あまりの迫力に2人は腰を抜かし、唖然とした表情を浮かべ、アイリスを見る。
薬師:
「ヒョ~ッヒョッヒョッヒョ。今こそ!! 女神の手によって栄光の修正が
施され…………グフッ……」
喋り終わらない内に、体に衝撃が走った。何事か分からず視線を落とした。
血に濡れた大きな鉤爪が、薬師の体を背中から貫いていた。
アイリスは何事も無く薬師を持ち上げる。
「……な、ぜじゃ………何故じゃ……アイリス様。何故?全ては………貴女の、為……に……アイリス、様ぁぁあああああーーーーーー!!!」
アイリスは両手の鉤爪を使い、事も無げに薬師を真っ二つにした。
大量の鮮血が宙を舞い、床を朱色に彩った。
落合:
「……うわぁ、目の前で衝撃のグロ映像を見てしまった。夢に出るわ~コレ………」
山田:
「その前に眠らせてもらえるかどうか、そっちの心配をした方がいいと思う……」
のそのそとアイリスは、山田達の方へと歩いて来る。生気のない白濁とした目を、ただただ一点を見つめながら。
何故アイリスは2人に近づいてくるのか、歓迎のハグをしてくれるのでないのであれば、考えられる最悪なシナリオはたった一つだ。
2人の末路は第二の薬師になるだろう。そう察した落合は、持っていた手榴弾を投げた。大爆発を起こし、土煙が辺りを支配した。
落合:
「やったか?!」
たった一言に込められた、希望の言葉は虚しく叶わなかった。
土煙の中から平然とアイリスは、無傷で突っ立っていた。
アイリス:「ゥォォォ……」
落合:
「…………嘘だろ……。手榴弾だぞ? ……耐久力高いってレベルじゃねぇぞ……」
山田:
「撃て!!撃ち続けろ!!」
2人はショットガンで応戦した。
蜂の巣にされているにも関わらず、アイリスは2人の目の前まで歩き、大きな鉤爪を高々と上げた。咄嗟の所で2人は振り下ろされた鉤爪の、餌食にならずに左右に避けた。山田はアイリスの筋肉質な背中に集中砲火を浴びせた。
しかし鬱陶しいハエを払いのけるかのように、裏拳で山田を殴り飛ばした。
飛ばされた山田は床を滑り、機材に頭を打ち痛みに悶絶する。
それを観た落合は怒りの咆哮を上げ、アイリスの頭を中心に銃弾を浴びせた。
しかし体当たりを食らい、壁に激突して虚しく床に這いつくばる。
落合:
「………くそ……。何だ、この化け物………今までのとは桁違いの強さだ………」
山田:
「……俺達は………このまま死ぬのか………?」
アイリスはやはりのそのそとした動きで、落合に近づき片手で首を掴んだ。
首を絞められながら持ち上げられた、落合は苦しさに喘いだ。
山田はまだ痛む頭を抑えながら、アイリスの元へ走って背に飛び乗った。
スリーパーホールドを決めていたが、頭を掴まれ振るい落とされる。
体勢を立て直し起き上がろうとした瞬間、投げ捨てられた落合と衝突した。
落合:
「……ゴホゴホ! ………僕達もしかして、勝ち目無いんじゃ………」
山田:
「はぁはぁ、……例え勝ち目が無くても……死ぬかもしれないとしても……。もう、諦める事をしない! うぉおおおおーー!!」
雄叫びを上げながら、アイリスに向かって走って行く。しかし横から大きな鉤爪が、振り回された。大量の鮮血が宙を舞い、床に飛び散った。
落合:
「山田さーーん!!」
山田は刀で鉤爪を受け止めた。手の平から貫通した刀から、赤黒い血が流れた。
山田:
「……女神の血が赤いとは、知らなかったよ」
アイリス:「ウォオオオ!」
山田を引き裂く為に、高々と鉤爪を振り上げた。
しかし落合のマシンガンが、振り下ろす事を許さなかった。顔面に集中砲火を浴び、よろめいた。その隙を山田は見逃さなかった。
アイリスの筋肉質な胸に、飛び蹴りを食らわせ床に倒す。倒れたと同時に落合が数個の手榴弾を、投げつけ連鎖爆発させた。危うく爆発に巻き込まれそうになったが、山田は難なく落合と合流する。
落合:
「どうだマッチョマン!僕達のコンビネーションは刺激的だろ?!」
アイリス:「ウォオオオオーーー!!!」
土煙から顔を出しながら、怒り哮る最強のモンスター。少しは効いているらしく、
口から血を吐き出しながら、のっそりとした重鈍な動きで立ち上がる。
落合:
「チッ! まだ刺激が足りないらしい。我が儘な女神はどうやら、僕達ともっと刺激的なデートをご所望のようだ」
山田:
「紳士的にエスコートしましょうか」
アイリスが小走りで2人に寄って来た。殺気立った唸りを発しながら、小走りする
たび床のタイルをめくる。助走を付けた山田が中腰で通り過ぎる。
通り過ぎ際にアイリスの太もも辺りを渾身の力でたたっ斬る。
体勢が崩れよろめくアイリスの顔面に、落合がマシンガンでありったけの銃弾を浴びせる。フラついた拍子に数発の弾丸が、剥き出しの心臓に直撃した。
血がほとばしったかと思えば、アイリスが今までに聞いた事の無い雄叫びを上げた。
コレは効いている。落合は確信した。銃口を顔から心臓に狙いをつけた。
しかし大きな鉤爪が撃たれる事を防いだ。
あっけにとられた隙を狙われ、落合は後方へ蹴り飛ばされる。
背中の痛みに耐え体勢を立て直した落合の目に映ったのは、心臓を防いでいる腕を
刀で弾き、心臓に銃弾を浴びせる山田だった。
咆哮しながら勢いよく山田に鉤爪が振り下ろされるが、山田は後ろへ跳躍して叫んだ。
山田:
「落合さん、顔面!!」
合図だと悟った落合がアイリスの顔面に、雨霰の弾丸を降らせた。
再びフラついた隙に、山田が心臓を真一文に斬った。
大量の鮮血と共にアイリスは真後ろへ倒れた。
息を切らしながら山田は落合と見合わせ、ホッと胸を撫で下ろす。
コレでここでの悪夢は去った。お互いの健闘を称えハイタッチをしようとした。
しかし飛んで来た瓦礫に阻まれた。間一髪で避け振り返る。
床を破壊しながらアイリスが立ち上がっていた。傷口からなのか心臓から、灰色の触手が数本出現し蠢いている。
落合:
「……流石女神、イソギンチャクのブローチを付けてるとは、オシャレだね」
アイリスは再び咆哮した。褒められてはしゃぐ女の子のように、床を破壊しながら
落合の方へと走って来る。両手を広げて迫って来る。
落合はショットガンに持ち替えて、山田が斬ったアイリスの太ももに狙いをつけた。指が動き続ける限り連射した。
血しぶきを上げガクンと足から崩れ落ち、アイリスは片膝立ちになる。それでもなお落合を引き裂こうと、腕を上げ鉤爪を振ろうとするが、ショットガンの散弾に
よって、両腕が弾かれる。その直後体に衝撃が走った。アイリスは視線を落とした。心臓から刀の切っ先が出ている。
山田が後ろへ回り、アイリスの体を背中から刀で貫いていた。
アイリス:「ゥゥウオオオオーーーー!!!」
最後の抵抗かの如く雄叫びを上げた。しかしそれはただの断末魔に成り下がる。
奇妙な音がして心臓が破裂し、大量の血が床を彩った。アイリスは力なく倒れた。
今度こそ終わったのを2人は確認。山田は刀を引き抜き言った。
山田:
「女神なんてお高くまとってるより、そうやってお姫様として眠りな」
落合:
「まぁ、眠りから覚ましてくれる王子様は、永遠に現れねぇけどな」
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