第11話 悪魔の実験

・6階B棟からC棟への連絡路


落合:

「バイオハザード室?」


山田:

「ええ。黒田さんがそこにいる可能性が出て来ました。だから調べたいんです」


落合:

「なるほど……。宮部さんは休ませて正解ですね。……おっと、客が来やがった」


山田:

「増えてる……」


先ほど山田がスルーして来たヴァリオスが2人に立ちはだかった。しかし今度は2体に増えていた。しかし数が増えても火炎放射器の前では成す術が無く、瞬く間に塵と化した。


それからは化け物は出る事は無く、難なくとC棟に着き曲がり角を右に曲がった。

その直後後ろから数十体のベビーマンが襲って来た。


落合:

「何て数だ!」


山田:

「さっきの隊員達か!」


一瞬驚いたが気を取り直して一斉に火炎放射を浴びせる。

数十体の奇声に耳を塞ぎたくなったが、突如大爆発を起こした。

隊員の一人の腰に手榴弾があったようだ。


山田が全ての手榴弾を回収し忘れたからだろう。爆発した事に驚いたが怪物の襲撃に対応出来た、という形になった為気にせず歩みを進める。道中通信室という部屋を

素通りし、バイオハザード室と書かれたプレートの付いた部屋の前に立ち止まる。


山田と落合がお互い冷や汗をかきながら頷き合う。

意を決して自動ドアを開け中に入る。




・C棟 バイオハザード室




17:20




重々しい機械、複数の何かの生物が入った実験用カプセル。散乱した檻の様なもの。

コンクリートで出来た部屋では全てが、物悲しく冷たい空間が支配していた。
しかし目の前には惨劇が広がっていた。重装備の筈の特殊部隊員達の亡骸が、そこらかしこに転がっていた。


人としての尊厳等無く、無惨な遺体となっている。
山田がふと死んだ隊員の手元を見ると何か握っている。つまみ上げると、神話に出て来るケルベロスの、模様が掘られた銀色のメダルがあった。残り一つ。




落合:


「……ここで散った兵士達に、憐れみを」



山田:


「……と言いながら武器は回収するんですね」



落合:


「それはそれ、これはこれです。それにこのM26手榴弾は、すごい戦力になるんですよ?さらっとあなたは回収したみたいですけど、どれぐらい頼りになるか分かってます?武器はあるに超した方がいいって言いましたよね?実にその通りで、そして武器が強ければ強い方がいいんです!生存確率も高くなるんです!」



山田:
「分かりました分かりました、落ち着いてください。暑苦しいモンスターになってます。退治しますよ?」



落合:


「退治しないで!?」



?:


「おやおや、騒がしいと思えば君達か」




声のした方を振り返る。物陰から薬師がニヤけながら出て来た。

山田と落合は地下一階での出来事を思い出し、怒りを露にする。




山田:


「薬師!」



落合:


「テメェジジィ!」



薬師:


「まさかあの暗闇でαを打ち破るとは思わなかったわい。沢山の自衛隊員が敗れたというのに」



山田:


「俺達を殺そうとしたのも、隊員達を殺したのも、その他全部含めて罪を償ってもらおうか」



落合:


「今からボコボコにしてやる!半殺しにされても文句ねぇよな?!」



薬師:


「ヒョ~ッヒョッヒョッヒョ申し訳ないのう、相手をしたい所じゃが生憎今忙しくてな、前から試してみたかった実験の最終段階なんじゃ。
じゃが君等と遊びたいという子達がいるから、遊んでくれるかの?」



山田:


「は?」




「お前達」と薬師が誰に言うのでもなくそう呼びかけた。すると物陰からぞろぞろと何かが出て来た。目だけが大きく肥大化し赤く光り、全身真っ黒の子供の身長くらいのある何かが、12体程出て来てブツブツ喋る。


?:「……アソビ、タイ……アソ、アソ……遊び、たい……………」


落合:

「な、何だコイツらは」


薬師:

「通称“キジムナー” 子供にノーミンの血を注入して、造った作品じゃ」


山田:

「……子供……!」


薬師:

「しかし困った事に遊びたいという欲求しか無く、あまり言う事を聞いてくれないのじゃ。生物兵器としては失敗作じゃよ。」


落合:

「テメェ!!子供を一体なんだと思ってやがる!!」


薬師:

「ヒョ~ッヒョッヒョッヒョ。子供と遊ぶのが大人の勤めじゃろ? だから一緒に遊んであげただけじゃよ」


キジムナー2:「……アソ、ブ………遊ぶ?……。」


薬師:

「おうそうじゃ、あのお兄さん達がお前達と遊んでくれるそうだ。 遊んでおいで」


キジムナー3:「……アソ、ボ……遊ぼ?……」

キジムナー4:「……オ、お兄ちゃん……遊ぼう?……」

キジムナー5:「………遊ぼう、ヨ……」


ゆらゆらと動き、鋭い爪を動かし、ゆっくりとキジムナー達が近づいて来る。


落合:

「クソ、来やがった。12体だから一人6体。僕は左の6体を倒しますので、

山田さんは右の6体をお願いします!」


山田:

「……出来ない……」


落合:

「は?」


山田:

「……俺は、子供を殺せない。子供に………罪は無い………!!」


銃を落とし崩れ落ちる。視界に映る床が滲んで見える。

落合は山田の胸ぐらを激しく掴み上げた。


落合:

「山田!! テメェしっかりしやがれ!アレの何処が子供だ?! ただの哀れな

モンスターだろ、子供に見えてる事の方が、よっぽど残酷だろうが!!」


山田:

「……落合さん………」


落合:

「宮部さんを絶対死なせないって言ったよな?! あのままだと死ぬぞ!?

必ず戻ると、生きてここから脱出すると、そう言っただろうが!!」


キジムナー6:「……オニ、イ、チャン………遊んで……」


落合:

「しまった……っ!!」


落合に覆い被さるように、キジムナーが襲いかかって来た。

咄嗟に反応出来ず、顔を掴まれ死ぬ事を覚悟した。


しかしショットガンがキジムナーの頭諸共吹っ飛ばした。

撃ったのは山田だ。尻餅をついている落合に目を配る事をせず、立ち上がって覚悟のある目でキジムナー達を見る。


山田:

「ありがとうございます、落合さん。お陰で目が覚めました」


落合:

「それは、よかったですね。……でも僕顔を掴まれたんですよね、大丈夫かな……」


山田:

「大丈夫ですよ。……多分。」


落合:

「余計不安になったよ!!」


キジムナー7:「………アソボウ……お兄ちゃん、遊ぼう……」


山田:

「……あの世で神様に遊んでもらいな………」


跡形も無く頭を吹っ飛ばす。

もう一体、もう一体と何かを噛み締めるようにショットガンで、一体ずつ殺して行く。反対に落合はマシンガンで、自分の分の数を一掃して行く。


薬師:

「ヒョ~ッヒョッヒョッヒョ。どうやらキジムナーだけじゃ、足らんようじゃのう。お前達も遊ぶがいい、出ろ“テケテケ”!」


落合:

「何だ?!」


スマホの様な端末を操作し、何かが入った実験用カプセルを開け、中の生物を解放する。外見はまるで真っ黒なクモ。しかしよく見ると、2体のキジムナーのブリッジの状態だ。


テケテケ:「………ぁ……ああ………ぁ……」


薬師:

「通料テケテケ、キジムナーを下半身から繋ぎ合わせて強化したんじゃ。珍妙じゃろ?」


山田:

「どこまで命を愚弄すれば気が済むんだ!!」


薬師:

「ヒョ~ッヒョッヒョッヒョ。ではまたの、わしは実験があるのでの」


数十体のテケテケをカプセルから解放し、薬師は笑いながら奥の部屋へと消えて行く。山田と落合は背中合わせになり、キジムナーとテケテケを迎撃する。

しかし数が多く銃ではさばききれない。仕方なく山田は火炎放射器を使う事にした。


燃え盛る炎に身を焦がしながら、あついとたすけてと、慈悲を懇願するキジムナー達。悲痛な叫びを聞かずに済めればどんなに良かったか、灰塗れの床を見ながら、

何度も何度も山田は心の中でそう思った。落合が肩に手を置いた。


落合:

「今までの分のお礼参りに行きましょう」


山田:

「ええ、子供達の分も含めて」


頷き合った後、薬師を追うため億の部屋へ。




・C棟 バイオハザード室 (中央部)


薬師を追い、さらに奥の部屋へ辿り着く。太いパイプが天井に貼り巡り、実験を

見守る為のものなのか、二階上部には座る為の椅子がある。天井、壁、床全て

コンクリで出来た部屋。その部屋の中心に薬師はいた。


山田達に背を向け笑っていた。


山田:

「追い詰めたぞ薬師!」


落合:

「年貢の納め時だぞ!」


薬師:

「なんじゃ?もう来おったのか?案外早かったのう。一人は死ぬと思っておった

のじゃが」


喋りながら振り返る。体をずらしたその時、椅子に縛り付けられた池上が見えた。


山田:

「池上さん?! 池上さんをどうするつもりだ!」


薬師:

「こやつは知り合いか?これは面白いのう」


落合:

「何かしたら只じゃおかねぇからな!!」


薬師:

「もう遅い。ノーミンの血を注入してしまったわい」


山田:

「何だと?!」


薬師:

「言うたじゃろ?実験の最終段階じゃと。わしはず~っとこの実験がしたかったんじゃよ、子供にノーミンの血を注入した事はあれど、大人には投与はしておらんかったからのう。しかし今日わしの望みは叶った!今日程素晴らしい日は無い、科学者冥利に尽きるとはまさにこの事じゃわい!」


池上:

「………ぅ、ぅぅ…………ぐぁ………ぅぅ……」


落合:

「この悪魔!!」


薬師:

「ヒョ~ッヒョッヒョッヒョ。悪魔はワシの素晴らしき友人じゃよ」


池上:

「…………ぅぐ!………ぐわぁああああーーー!!!」


池上が悶え苦しみ始めた、口から大量に血を吐き出しながら。

首から顔に掛けて青筋の、血管の様な細い筋が浮かぶ。

縛られていた縄を引き千切り、変異して行く。


横で見ていた薬師はスマホの様な端末を操作し、耳に当て誰かと会話をする。


薬師:

「……はい。………分かりました博士、彼女を起こします。では……。実に残念じゃが、急用が出来た。実験の結果は君達が見届けておくれ。友人なのじゃろ?」


山田:

「何を…………っ!!」


落合:

「待てテメェ……!!」


手をひらひらさせ、奥の通路へと消えて行く薬師を追おうとした。

しかし藻掻き苦しんで這いつくばった、池上が立ち塞がった。

背は大きく曲がり老人のよう。


その背中からは大きな膿が、溜まった腫瘍のなような物が出来上がっていた。両目

から血が噴き出したかと思えば、顔面が真ん中から真っ二つに裂け、数十本の触手と共に無数の歯が出現した。肌は焼き爛れたように赤黒く変色し、両手には鋭く

大きな歪な鉤爪がある。



モンスター池上:「……ギギエエーーー!!」


落合:

「池上さん………」


山田:

「……アレを池上さんだと認める方が、残酷だと思います」


落合:

「山田さん……。そうですね、池上さんはロビーで死んだんですよね」


山田:

「だから楽にしてやりましょう、この幻影を。俺達の友人の為に」


2人で拳銃の銃口を池上だったものに向け、引き金を引く。


池上は大きな鉤爪の付いた右腕を、大きく振り下ろす。

山田達は間一髪の所でジャンプして避ける。

抉られた床を見ながら2人は冷や汗をかいた。




山田:


「予想はしてましたけど、耐久力が半端無いです!拳銃じゃ駄目だ」



落合:


「ならばショットガンで!」




顔面だった触手まみれの口に連射する。




モンスター池上:「ギエエエーーー!!」




効いたのかは分からない、しかし池上は鉤爪を器用に使い、自分が座っていた椅子を落合目掛けて放り投げた。落合は間一髪で避け、山田はマシンガンで腫瘍のようなものを撃つ。汁の様なものを飛ばし、雄叫びを上げる。山田の方を向き直り、池上は跳躍した。


天井のパイプを数本壊し、山田目掛け鉤爪を振り下ろした。後ろへ避けた山田は

転んだ。転んだ山田に襲いかかり、伸し掛ろうとした池上の腫瘍を落合がショットガンで撃った。撃たれた池上は悶えた後振り返り、凄い勢いで体当たりをかまして、落合を数メートル吹っ飛ばす。




落合:


「ぐぅうう、くっ!………山田さん!燃やせ!!」




落合の合図で池上は、火炎放射器の炎に包まれる。

焼かれ苦しんでいた池上だったが、火炎放射器の炎が徐々に弱まり、ついには火が

出なくなった。




山田:


「あれ?あれ、あれ?! 嘘ガス欠?!………ぁ」




目の前に池上が迫っていた。


落合:

「山田さん逃げて!」


山田:

「こっちにこないで!」


池上目掛けて火炎放射器を投げた。池上は火炎放射器を口で受け止め、かぶりつく。

その間に山田は距離を取った。そしていつのまにかパイプを上り、天井に着いているパイプから落合が援護謝儀をする。


背中に何度も銃弾を受け、目障りだったのか落合の方を向き直り、足場であるパイプを次々壊して行く。足場のパイプを次々壊されて行くたびに、落合はうしろへうしろへ下がって行く。



落合:

「ちょっ!まっ!やめ!ホント!!マジでっ!助け………!!」


山田:

「こっちを向け!化け物!!」

モンスター池上:「ギギギエエ~?」


山田は栓を抜いた手榴弾を投げた。池上は一瞬首を傾げたが、何の迷いも無く

かぶりついた。直後大爆発を起こした。

爆風で落合は二階上部まで吹っ飛び、椅子に荒々しく座る。

山田は落ちているパイプと一緒に、床を滑り壁に当たる。


池上は下顎だけを残し立ちすくんでいた。

数秒後地響きを鳴らしながら、崩れ落ちた。


「………ゆっくり眠ってくれ池上さん。………あ、落合さん!大丈夫ですか?!」


落合:

「…………ぁぁ、大丈夫だよ。空中散歩を楽しんでた、だけですから………」


頭を抑えながら顔を出す。その姿を見て少しほっとする。

二階上部から飛び降りた落合と合流する。

頷く事も無く、薬師が向かった先へと急ぐ。 

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