第13話 憧れへのけじめ

最高傑作と称された、最強の怪物を倒し周囲を見渡す。

何か有益な情報を得られないか、山田は乱雑に置かれている、機材の元へ向かう。

落合は真っ二つになった、薬師の上半身の元に向かった。


吐き気を催しそうになるので傷口を見ず、不自然に膨らんでいる白衣のポケットを

探る。出て来たのは神話の怪物、オルトロスが刻まれたプラチナ色のメダル。

直通エレベーターの扉を開ける為のメダルは全て揃った。


落合:

「……女神とか神話とかダンテとか、好きすぎだろ。

いい年したおっさん達が何してんだよ」


落合が失礼なツッコミを入れている間に、山田は機材を動かし大型モニターに映像を映させる。

そこには写真付きのレポートが映し出され、写真にはノーミンに似ているが頭の

形が、冠の様な形をした灰色の寄生虫が映し出されていた。


《・クイーン・ノーミンについてのレポート

当初は何気なしに生み出されたプロトタイプ・ノーミンは日の光を浴びてはいなかった。しかし秘めたる凶暴性と寄生能力に目をつけた一部の上層部によって生物兵器として注目された。

一気にスポットライトを浴びる事になったノーミンだが大きな問題にぶち当たる。生物兵器としては力が足りないと判明した。力が無ければ兵器ではない。

とするならば強化せざる得ないのは必然だ。ではどのようにして?


再度の合成は安易では無いかと思ったがそれにしか強化は出来ないと結論に至った。再び合成を開始する。プロトタイプ2匹の合成は失敗に終わる。3匹失敗。

5匹失敗。6匹失敗。10匹でダニの様なものが誕生。

しかし寄生能力に欠けこれも失敗。

プロジェクトは暗礁に乗り上げ当初は誰もが失敗するだろうと思われていた。


だが成功した。

私の子である赤ん坊とノーミン10匹そして私の血を培養液合成をして成し遂げた。

新たに生まれた我が子をクイーンと名付ける。

クイーンは全てのノーミンの親となる。


病弱だった我が子に繁栄あれ》


山田は青ざめた表情で顔を伏せた。その拍子に手元に、資料を見つけページを開く。


《寄生虫について ~黒田博士の研究レポートより~

・寄生虫:ノーミンについての記述

合成として使った顔ダニもそうだが人間の体には30万匹程の寄生虫に寄生されている。つまり人間は寄生虫と共に共存しながら生きて来た事になる。


人間にとって寄生虫は共存の出来る友と言える。


であるならば一緒に手を取り力を携えるのは必然だ。

寄生虫は人間への活性化を促すのだから。

それは即ち死すらも活性化するという事だ。人間には次の進化が必要だ。寄生虫ならその進化を促してくれる。友とならこの世界を共存出来る。


私の夢である死を迎える事の無い永遠の繁栄も叶うだろう。》


山田は後ずさっていた。書かれていた内容にノックアウトされ、めまいがした。

このまま自分は倒れるんだと思ったその時だった。
落合に体を支えられた。

どうしたのかと聞かれたがその質問には答えず、落合の持っているものに

目がいった。





落合:


「このボイスレコーダー、アイリスが入っていたカプセルの底で見つけました」



山田:


「……聞いてみましょう、何か聞けるかもしれない」


ボイスレコーダー:
『我思う 故に我あり この言葉から論理的思考を推測するに、『感じるな、考えろ』という言葉に至る』



山田:


「この声、黒田博士……。でも声質からしてもう少し若い時の感じがします」



落合:


「そこまで分かるんですか?流石ファンですね。と言いたい所ですが、

そこまで分かると引きますよ……」




わざとらしい咳をした後、山田はリピートボタンを押した。

最後まで聞く為に耳を澄ませた。




ボイスレコーダー:
『国の頂きに上り全てを変えろ。我想う 故に我あり よって我は我にして我らなり』



落合:


「これは……。中二感満載な………犯行声明………と言った所、ですか……?」



山田:


「………」




笑いそうになるのを我慢して話す落合とは対照的に、山田は深刻な顔をして

ボイスレコーダーを見つめていた。





落合:


「あ、失礼。どんな人物であれあなたは尊敬してましたものね」



山田:


「いいえ。声を聞いてこれではっきりと分かりました。黒田さんは尊敬に値する人物ではなく、今回の事件の主犯である事が……」



落合:


「いいんですか?」



山田:


「いいんですよ。きっちりと割り切る為に、けじめをつけます」



落合:


「後は問題なのは宮部さんですね。叔父の犯行だということを割り切れますかね?」



山田:


「ええ、出来ると思いますよ。確証はありませんが。……時間がありません

戻りましょう」




そう言って踵を返し、部屋を後にする。



・C棟6階通路



17:30




B棟にいる宮部と合流する為に、駆け足で急いでいた。

しかしふと山田が立ち止まる。

落合が名前を呼ぶが山田は、通信室と書かれた部屋に入って行く。





・通信室




入った直後一匹のキジムナーが襲いかかろうとした。しかし事も無げに山田は

ショットガンで頭を吹っ飛ばした。大きな窓に大量の血潮が彩る。


その場面を見た落合は青ざめた表情で山田を見つめる。キジムナーの死骸の傍に

立ったまま、山田は落合を呼んだ。呼ばれた落合はうわずった声で返事をした。




山田:


「落合さん、通信機器には詳しいですか?」



落合:


「え、ええ…… それなりにですけど」



山田:


「じゃあ周波数の操作を頼みます」



落合:


「いいですけど、どれぐらいのレベルで?」



山田:


「狩矢崎市全域に、です」



落合:


「電波ジャックですね?! オーケイ、任せなリーダー! 」




様々な通信機器を弄っている間山田は、窓から沈んで行く夕日を眺めていた。

この夕日が沈めばこの町で見る夕日は最後となる。

つかの間の最後の展望を心ゆくまで堪能する。



準備が終わったとして落合が合図を送る。

山田はマイクを掴みスイッチを入れ、深呼吸を入れた後喋り始める。




山田:


『まだ生き残っている生存者の皆さん、聞いてください。

俺達の住んでるこの町の、我々のシンボルは死にました。


死が地上を覆い尽くし、絶望が町を浸食し、闇が希望諸共全て飲み込む。

俺達の日常は、我々の町は今日死にました。抗い難き敵の絶対的力によって……。



この町はもうすぐ滅びます。政府がこの町の完全抹消を決めました。

午後6時、後30分足らずで全てが滅びます。

滅びた後残るのは虚無だけです…………』




外の惨劇を見た後目をつむる。一呼吸置いて目を空け再び喋り出す。




『……でも決して希望を捨てないでください。我々に出来る事は、唯一の反撃はコレだけです。
陽はまた昇る。陽が沈んだらまた昇るだけです。何度も、何度でも。

明けない夜はありません!
 生きてさえいれば必ず希望は胸に宿ります。


望みさえすれば生きる為の活路を見出せます。皆さん死なないでください。

この町から逃げて生き抜いてください。


明日を生きる為に、明日の陽を見る為に、明日を目指して生きてください……』




スイッチを切りマイクを置く。

情けなく泣く落合にため息をつきながら、一緒に通信室を後にする。 




・6階B棟 小実験室(最深部)


17:35


小実験室に戻って来た山田と落合。2人は驚き立ちすくんでいた。

宮部が立っていたからだ。


山田:

「雅さん。もう立って大丈夫なんですか?」


宮部:

「あ、はい。ワクチンのお陰で体力が戻りました。あと、コレ。

ジャケットありがとうございます。……血で汚れちゃいましたけど……」


山田:

「いいですよ血くらい、あなたが無事ならそれでいい」


宮部:

「太郎さん……」


落合:

「いや~それにしてもワクチンは凄いですね。もう立てる程体力が戻る何て」


宮部:

「……生きる気力を、太郎さんに貰いました。 無線から聞こえて来た言葉で、

生きなきゃって思いまして。………何かあったんですか?」


山田:

「それが………」


バイオハザード室での出来事、黒田博士のノーミンについての研究やレポート、

ボイスレコーダーを聞かせた。話を聞いている最中宮部は、ずっと俯いていた。

山田が話終えても俯いたまま、宮部は口を開く。


宮部:

「……太郎さん」


山田:

「はい」


宮部:

「コレを聞いてどう思いましたか?」


山田:

「……今まで俺が見て来た人は幻想だったんだなって思いました。裏では恐ろしい事をやってのける、マッドサイエンティストだったのかと。………残念です」


宮部:

「………結局その程度だったんですね」


山田:

「え?」


宮部:

「あなたの叔父さんに対する気持ちは、改竄された数々のデーターで簡単に覆るような、その程度の気持ちだったって事です。そのボイスレコーダーは音声合成ソフトを、使った可能性だってあるじゃないですか!」


山田:

「それは……」


宮部:

「太郎さんは……いえ山田さんは結局他人だったんです。結局叔父さんを理解出来るのは、身内の私だけみたいですね。どれだけ改竄された証拠を突き付けられても、私は叔父さんの言う事を信じます。……山田さん、命を救って頂いた事だけは感謝します」


軽蔑の眼差しを山田に向けた後、宮部は小実験室から出て行く。


落合:

「はぁ~あ、結局こうりなりましたか………。

頭の固い女性はムキになると話になりませんよね、本当に厄介この上ない」


山田:

「そう言わないでください。身内や親戚のことを悪く言われれば、誰だって

ああなりますよ。行きましょう、彼女を一人にしては置けません」


ため息をつきながら落合は山田の後に付く。2人は小実験室を後にする。

交差するすれ違いの重き空気を背負いながら。

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