第3話 決断

屋上の階段を駆け下りる3人。

ふと山田は違和感を抱き、自分の部屋がある階の階段の踊り場で立ち止まる。


山田:

「………火が、消えてる……?」


今宮部達が下りている階段は、宮部を追いかけていた時確かに火の手が上がり燃えていた。しかし今は燃えておらず煤けているだけだ。

火がそう簡単に鎮火する筈がない。


「……誰かが消したのかな?……ん?」


不思議に思っていると、自分の足下に手帳の様な物が落ちているのに気づいた。

さっき通った時には無かった物だ。手に取り中身を開く。


《誰かの手記:

・例の会社の傭兵になって早数年

報酬が良くそれ欲しさに傭兵になった筈だ。

それなのにこの体たらくは何だ?飼い殺しにされたただの犬だ。

都合のいい操り人形とは良く言った物で、俺はそれに成り下がっている。


傭兵とはそういうものだと割り切っていた筈なのに、こうも自分の意思を尊重されない非人道的な仕事ばかりさせられては、気が滅入りガキのように拗ねるのも当たり前だ。


・限界は疾うに通り越し廃人と化す

撃っては殺し、撃っては殺し、時たま生きて捕縛すればそいつは何かしらの実験材料と成り果てる。牢の番をしていた方がいくらかマシだ。


陰鬱な顔で睨まれるが、死人の目でず~っと見つめられ続けられるより

遥かにマシだ。鏡に映ったそいつと同じようで吐き気を催す。

同族嫌悪という奴だろうか……


素直にここで働いている奴らを褒めたい、人でなしと。

どうすれば人を苦しめずに、痛めつけずに、心を殺せるのか……

教えてほしいくらいだ。名誉の為に敢えて名前は伏せておくが、この会社はクソだ!地獄へ堕ちればいい、俺と共に。


______数ページ破られた後殴り書き______


どうやら俺はこの女との出会いで、ずいぶんと変わっちまったらしい。

柄にも無く感情的になって、署長を撃っちまった。

少し前の俺じゃ考えられなかった行為だ。俺はどうやら心に従って生きて行きたいようだ、その死んだ筈の心に光が差し込んだ。


そうしたのはあの女。自由奔放に生きている、眩しいくらいに。

その眩しさに俺は憧れていたようだ。

俺は決めた、この女に付いて行こうと思う。篝火に集る蛾になる。

自由に生きて死んでやる、地獄もそれまで待ってくれる事を願う。》


山田:

「……会社?傭兵?……実験材料?地獄?……何だこの物騒な手記は……」


パラパラと読んでいた山田の頭は疑問符だらけになり、目を閉じて手帳を閉じる。

しかし即座に手帳に書かれていた署長という文字を思い出す。知り合いなのだ。


「………署長が撃たれた?……無事だろうか……」

落合:

「山田さーん!どうしたんですか?行きますよー!」


山田:

「あ、はーい!今行きまーす。」


下から声がかかり、他2人を待たせている事に気づき、手帳をポケットにしまい階段を下りる。


宮部:

「山田さん大丈夫ですか?」


山田:

「ええ大丈夫です、ただ警察署に急用が出来ました。」


落合:

「警察署に、ですか?」


山田:

「はい、少し歩きますけどすぐそこです。」


落合:

「分かりました、武器を調達しましょう。僕のロッカーには他にも武器があります、職員用ロッカーは2階です。」


宮部:

「まだ10階程ありますけど……」


山田:

「急ぎましょう」


言った直後、階段の踊り場から3匹のヒューミンが顔を出し、手を伸ばして襲って来る。


ヒューミン達:「ぅぅう~ぁあ~」

山田:

「く!急いでいるのに!」


落合:

「下がって!!」


銃を二発撃ち2匹殺し、もう1匹近寄って来た所を山田が刀で頭を切る。


宮部;

「2人ともすごい……」


落合:

「そう言えば、宮部さん武器がありませんね。

一丁どうぞ、素手では心もとないでしょうし。」


宮部:

「あ、ありがとうございます」


懐からもう一丁銃を出し、宮部に手渡す。


落合:

「銃を撃った経験は?」


宮部:

「あ、ありませんよ……」


落合:

「狙って、撃つ。 それだけですよ、実に簡単でしょ?」


宮部:

「狙って撃つ……狙って撃つ……」


山田:

「それでは行きましょう!」


宮部に銃を教え、急いで2階まで下りる。

階段の踊り場で立ち止まり、通路の安全をそっと確認する。


__2階通路__



落合:

「……よし大丈夫、こっちです!この通路の向こう側が職員用務室で、僕のロッカーが……あっ……」


ロッカーのある職員用務室へ向かうとするが、目の前に大きなシャッターが閉まっており向こうへ行けない。


宮部:

「そんな……」


山田:

「これじゃあ武器を手に入れられない……」


?:「そこに居るのは誰だ!」


声のした方を振り向くと、銃を持ったホテルスタッフのおじさんがいた。

しかし髪が乱れ、制服もボロボロで疲れた顔をしている。


落合:

「た、竹林さん!ぶ、無事だったんですね?」


竹林と呼ばれた男:「落合貴様か、まさか貧弱そうな貴様が生きているとは驚きだ」


落合:

「こ、こちら僕の上司の竹林さん、フロント係です。竹林さん、こちら生存者の山田さんと宮部さんです。お客様です」


山田&宮部:

「「どうもはじめまして」」


竹林:「ふん、今更自己紹介等必要ない。見ただろ外を!終わりなんだよ!

みんな死ぬんだ!!自己紹介なんぞ無意味だ!」


落合:

「で、でも竹林さん、僕たちここから出ようと思います」


竹林:「何?聞こえなかったのか?外は……」


山田:

「警察署へ行こうと思います。そこに知り合いの署長が居ます、何とかしてくれるかと。」


竹林:「知り合いの署長?………いいだろう付き合ってやる、ただし無駄骨だったら撃ち殺してやるからな?」


落合:

「あの、それ僕の……」


竹林:「借りておくぞ」


落合:

「そんなぁ~、お気に入りのコルトガバメントなのに~」


宮部:

「皆さん!向こうから奴らが!!」


見ると通路の向こう側から、大量のヒューミンがこちらに向かってくるのが見える。


山田:

「あ、あんなたくさんの相手にしてられない……」


落合:

「階段へ戻って1階へ下りましょう!!そこから出口へ!」


その直後大きなシャッターの向こうから、女性の声が聞こえシャッターを叩く音がする。


?:

「誰かーー!そこにいるんですかーー?」


山田:

「__!__ 大丈夫ですかー?!無事ですかー?!」


?:

「助けてください!!彼が、彼が起きなくて……武器も弾切れで……ダ、ダクトからモンスターが……」


山田:

「大変だ!急いで助けなくっちゃ!竹林さん、マスターキーとかないんですか?」


竹林:「どっかに落として無いよ、だがもう諦めろ!助けてやる程暇はないんだ!」


山田:

「あんたねぇ!!」


落合:

「山田さん!助けられません!!時間がないんです!」


山田:

「落合さん……あなたまで……」


宮部:

「化け物がすぐそこまで来てます!このままじゃ私達まで逃げられなくなります!!」


山田:

「……くっ!!」


?:

「お願い!!誰かここを開けてーー!!」


竹林:「ヒーローごっこをして無様に死ぬなら勝手にしろ!俺は逃げるぞ!!」


そう言って竹林はそそくさと一人で階段を下りる。


落合:

「……山田さん、残念ですけど……僕たちも危険なんです」


山田:

「でも、でもこのまま……放っておくなんて……」


宮部:

「逃げられなきゃ、誰も助けられません!!」


山田:

「………ん……」


?:

「誰か……お願い……開けて……」


山田はシャッターの方へ向き直り、深々と頭を下げる。


山田:

「………ご、ごめんなさい………本当に、本当に……ごめんなさい」


?:

「待ってぇー!嫌ぁ!!」


女性の悲鳴を背に、急いで3人で階段を下りる。

山田の顔には悲しみの表情が色濃く残っていた。


__1階ロビー__


階段を下り終え、ロビーへと付いた山田は立ち止まってる竹林の背中を見つけ、殴りたい衝動に駆られ近づくが、すぐにその衝動が収まる。

なんと出入り口が塞がれているだけでなく、外から大群のヒューミンが集まっており、ガラスを叩いているのだ。


宮部:

「そんな!出られない……」


落合;

「皆さん!こっちです!裏口から出ましょう!!」


竹林:「どけどけ!裏口があったのを忘れていた!俺としたした事が!」


山田達を押しのけ我先にと竹林が裏口付近へ向かう。

がしかしそこから10匹程のヒューミンが湧いて出る。

竹林は小さな悲鳴を上げ全員の所まで小走りで戻って来る。


竹林:「おいあんた、この銃をやる!刀だけじゃ心もとないだろ、さっさと殺せ」


竹林は近くにいた山田に自分の銃を押し付け身を隠す。


山田:

「……(どうして落合さんが銃を職場に持ち込んでいたのか、やっと理由が分かった気がする)」


銃を持つ3人が並んで銃を構える。


落合:

「狙って、撃つ、それだけですよ宮部さん」


宮部:

「狙って、撃つ、狙って、う、撃つ」


山田:

「来た、一斉射撃!!」


迫って来たヒューミン達を3人で撃ちまくる。宮部は小さな悲鳴を上げながら。

ヒューミン全部倒すと全員で裏口付近へ歩き出す。


竹林:「よし!よくやった!出来した、銃を持ってる奴らは先に歩け、俺は後から付いて行く」


宮部:

「落合さん、上司ですけど撃っていいですか?」


落合:

「よろしくお願いします」


宮部と落合がこそこそ喋って裏口から出て行く最中、山田は床に落ちている物に目を留める。ウサギ柄のブローチだ。それを拾う。


山田:

「……妹が好きそうだ。 持って帰ろう、必ず!生きて帰る!!」


ぎゅっとブローチを握り締め、裏口からマンションを出る。

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