第1話 寄生される日常

・超高層マンションビル最上階


男:

「……ん……夢?……何で今更、あんな昔の夢なんか……」


昼下がりのマンションの一室。布団から目覚めた男は、気怠げに起き上がり布団を片付ける。その動作も気怠げで機敏さは無い。

朝でもないのに朝のコーヒーと洒落込み、コーヒーメーカーがコーヒーの準備を

している間に男は、トイレを済ませ歯を磨き、顔を洗い髪を整える。

薄い青色のYシャツに着替えながら、ウサギ柄のマグカップに注いだコーヒーを片手で飲む。ベランダのカーテンを開け、昼過ぎの日光浴をする。


「ん~今日もいい天気だ。いつものように何も変わらない日常、春の穏やかな日差し、変わらない青空に大量に飛ぶ鳥達。燃えるビル群煙を上げる事故車両、逃げ惑う人達。 うん実に優雅な俺に相応しい一日の始ま………え?」


我が目を疑いバルコニーに出て身を乗り出す。


「何だよ、コレ……」


と声を絞り出すのが精一杯だ。よく見ると、空も煙で煤けていてまるで曇天のようだ。 何より、決定的な絶望を与えるかのようにこの都市のシンボルである、

KSコーポレーションからも火の手が上がっている。


遠くの方から無数の爆発音と銃声と悲鳴が聞こえ、ふと下を見るとぴょんぴょんと

キョンシーのように跳ねながら動く、不気味な人達が他の人々を襲っているのが見えた。 瞬間、ガシャンと左隣りの窓ガラスが割れ、隣人が何者かに襲われ倒れる。


「え、あ、ちょっと……」


声をかけた男に気づいたのかベランダの壁の淵から、丸い大きな赤い目に、蚊の口ようなを針を鼻の付け根から生やした、灰色模様のこの世のものとは思えない様な、人の形をした何かと目が合う。


「ひぃ!」


この世ならざる謎の生物に畏れをなした男は、一目散に部屋に戻りベランダの窓を閉める。窓を閉めたと同時に謎の生物が、窓にぴたりと張り付きガラスを叩く。


「う、うわぁああーー!!」


恐怖に駆られた男はカーテンを閉める。


「な、何だよアレ!何だよアレ!何なんだよ!どうなってんだよ?!……そうだ!

テレビ!何か分かる筈!」




テレビを付けると、この都市の様子が映し出される。




テレビ:「こちら事故現場です。朝から事故が多発しているという事で、未だに現場は騒然としています! あ!怪我人です、助けましょう!大丈夫ですか? え、ちょ、きゃあああ!」


テレビ2:「え~怪我人が続発して相次いで救急車で暴れる、という自体が各所で起きている模様です! 一体何が起こっているのでしょう? ん?救急車が暴走してこっちに! うわぁああ!!」




男は次々とテレビのチャンネルを変えていく。




テレビ3:「こちら警察署前です! 暴徒と化した市民を止めるべく発砲許可が

下りた模様で、警官が発砲していますが、止まるどころかさらに被害は甚大……
あ、撃たれた人がこちらにやって来ます! 救助を……な、何す、やめ、ぎゃあああーー!」


テレビ4:「人を襲う犬がこの公園付近で目撃されたようで、非常に警戒をして

ここに居るのですが、何も居ませんねぇ……「ワンワン」え!たくさん! ああーー!!」




男:
「おい……嘘だろ」




次々と映し出されるこの都市の地獄絵図。男はテレビを消す前にテレビが消えていた事を、認識するのに数秒を要した。テレビだけではない、自分の部屋中の電気が消えているのだ。
発電所に何かトラブルがあったと考えるに難くない。




「……ここも教われるのも時間の問題、か……なら自分の身は自分で守らなきゃ!」




男は歩き出し襖を開ける。刀置きに置いてある刀を取り出す。


「知り合いにヤクザがいて、こんなに助かったと思った事は無いな……」


複雑な心境を胸に仕舞い込み、いざ覚悟を決めて戦う事を決意しようとしたその時、

窓が割れさっきの奴が唸り声を発しながら襲って来た。侵入して来たのだ。


謎の生物:「ぅう~ぁあ~」


男:

「え、ちょ、待って! まだ心の準備ができてないよ! 心の扉がまだオープン前だよ!」


焦りからか男は刀をブンブン振り回す。それにも関わらず謎の生物は直進する。

運がよかったのか、刀の先端が謎の生物の足に直撃し、蹌踉ける。

男はそのチャンスを逃さない。想いっきり刀を振り、謎の生物の頭に直撃させる。

ホームランを狙った野球選手のようなフルスイングを決められた哀れな生物は、小さな悲鳴を上げそのまま動かなくなった。


「はぁはぁ、死んだか?死んだのか?……死んだフリか?その手には乗らないぞ?」


警戒しながら、ちょんちょんと刀の先端で床に倒れている生物を突っつく。

だが何の反応もない。


「はぁ~よかったぁ~! 死ぬかと思ったぁあ~!!」


安心したのか男はその場に尻餅をついて座る。

息を整えていると、ふと屍になった生物の首あたりに目がいった。

コブの様な出来物が出来ており、目の様な赤い2つの斑点がある。

そのコブが床に落ち、僅かに動いたかと思えばすぐに萎れた。


「何だ?今動いた?……わけないか」


一息ついた男はおもむろに立ち上がり、リビングまで戻り、ベランダの方を見て外の惨状を再確認する。椅子にあったワインレッドのジャケットを着て出入り口のドアの前に立つ


「……覚悟を決めろ、俺」


そう言って男はドアノブに手を伸ばす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る