第九話 転生したのに魔法が使えないって酷くないですか!?

「マコトさんとコトミさんは異世界人ということで、手始めに最も簡単な魔法から行きましょうか」


「はい、お願いします!」


 久しぶりに授業らしきものを受けるが、これほどテンションが上がった授業が今まであっただろうか。

 だって、魔法だよ、魔法! 胸がバブリーダンスしまくっている。


 前世ではファンタジーで片付けられていた魔法を実際に私の手で出すことが出来るのだ。

 火を出したり、水を出したり、風を出したり。魔法を極めてちやほやされるのもいい。


 知名度が上がればいつか王子様が私を迎えに来てくれるに違いない。

 勇者ランクのたくましい男性でも、クールイケメンの貴族様でも、よりどりみどりになりはずだ。これはテンションが上がりまくる。


 前世のように古文とか、漢文とか、歴史とか、過去のことを学んでも仕方がない。

 私は振り返るのではなく、これから前を見て人生を歩んでいきたいのだ。そう、魔法のように!


「最初はやっぱり手から火の球を出すとか!? ド〇クエ的なセオリーから行くと!?」


「いえ……火の球は中級魔法ですね。エネルギーを加熱したうえで固く物質化し、風に乗っけて加速する必要がありますので……」


 ふむ、「メ〇」を手順分解するとそのようになるのか。

 イメージが大事と言ったセルカの言葉がようやく理解できるような気がした。


「じゃあ、水! 手から水をドバーって出すやつ!」


「水を出すのは確かに初級魔法ですが……最初に学ぶ魔法としては難しいかもしれませんね。空中にある水蒸気からエネルギーを吸収して液体化するのですが、エネルギーの吸収は放出よりコツが必要になりますので……」


「風を出すとか! ドラク〇の『〇ギ』的な奴で!」


「ば、バ〇というものが何なのかわかりませんが、風はエネルギーのコントロールが難しいので、最初に学ぶ魔法としてはお勧めしません……」


「じゃあ、もうなんなの!! もう少しファンタジー感出してよ!! もっと夢を見せてよ!!」


「ひい……!!」


「おい、コトミそこまでにしておけ。ここはド〇クエじゃない。Fカップのセルカちゃんが怯えてるだろ」


「……くっ……!」


 レベルアップすればスライムですら火の球を出せるというのに、私たちはスライム以下だというのか。

 なんという屈辱。最初の村から出たらゲームオーバーになってしまう貧弱さ。


 異世界転生をしてまさか劣等感を味わうとはおもわなんだ。しかも借金しているのでマイナススタートである。


「とりあえずエネルギーを体の部位に集中させるということからやっていきましょう。ここに丁度いい糸くずがありますので、これを指でつかみ、指にエネルギーを集中させて着火するところから始めましょう」


「な、なるほど、分かったわ!」


 火の玉ほどの派手さはないもの、物を加熱出来るというのは新しい。

 前世では出来なかった能力を習得できるというのは多少なりとも前向きになれる。


 よし、頑張ろう。

 もしかしたらこれが私が大賢者になるための第一歩なのかもしれないのだから。


「……マッチで良くないか?」


「……それは言わないで……」


 なぜこの兄はやる気を削ぐことばかり口走るのだろうか。


 自分のエネルギーを消費するより、マッチをこすったほうが圧倒的に省エネなのはこれ以上ないほど同意だ。

 科学文明は誰でも容易に同じ結果を出すことが可能であるという点で優れている。幼稚園児でも方法さえ教えてしまえばマッチを使えてしまう。ただし、もちろん、マッチは小さな子供の手の届かぬ場所におくことを忘れないでほしい。


 何とか感情を奮い立たせているというのに、水を差すことを言わないでほしい。


「エネルギーを集中させるってどうすればいいの?」


「とりあえず踏ん張ってください」


「……へ?」


「とりあえず指に力を集中させて、火が出るように念じてください。そうすれば着火できるはずです」


「ほ、本当に……? ……ふん!!!」


 為せば成る的な教え方をされた気がするが、とりあえず私は全力で指に力をこめた。

 神経を集中させ、親指と人差し指で挟んだ糸くずに体温が乗るように試みる。少しねじるように摩擦も加えて、少しでも加熱の足しになるような工夫もしてみる。


 あなたならやれるわ、コトミ。

 この異世界でヒャッハーするために転生したの。魔法の一つや二つ使えるようになるのよ。

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!」


 般若のような顔つきになりながらも、全力でエネルギー的な何かを糸くずに移すように意識を集中させる。


「どうですか!? エネルギーを感じますか!?」


「そ、そうね……か、感じ……」


 糸くずとにらめっこすると、指に何となく熱を感じた気がした。

 もしかしたら、勘違いかもしれない。


 いや、やっぱりこれは魔法だ、ちょっと指が温かい気がする。

 でも熱を発するほどじゃないし、体温なんじゃないか?


 これだけ集中しているのだ、魔法に違いない。

 ただ、着火はしてないし……。


「……よくわかんないわ」


「そ、そうですか……」


 色々考えた結果、よくわからないということが判明した。

 集中するという感覚がつかめないのだ。何となくエネルギーを込めては見るものの、果たして正しいのかが分からない。


「お兄ちゃんはどう?」


「ふむ、やはりでないな」


「そう……」


「……やはりマッチでいいな」


「いうな!!」


 兄は要領がよいタイプの人間だが、それでも魔法を使うことが出来なかった。

 あの天使が言うように私たちに異世界人的なアドバンテージはないようだ。あくまでも人間、しかも能力としてはスライム以下というステータスで転生したようだ。


「そうですか……小学校で最初に学ぶ魔法がこの着火になるので、ここが突破できないと他の魔法を教えても難しいかと……」


「私たちは小学生以下か……」


「で、でも、魔法も得意不得意ありますし! 全然大丈夫です! 私たちはマコトさんのアドバイスで救われましたし!!」


 フォローしてくれるなんて、なんていい子なんだろう。

 性格も謙虚で見た目も可愛い。


 胸が私より大きくなければもっと好きになれただろうに、なんとも残念である。


「それで、マコトさんとコトミさんはなぜこちらに来られたのですか?」


「そ、そうね、すっかり来た目的を見失ってたわ……」


 確かにさっきから下らない話ばかりしている気がする。

 そもそもここに来たのはアフターケアのためであって、別に魔法を勉強しに来たわけではない。


 魔法を使えても借金は減らない。

 セルカを助けて、相談料なり頂ければ少し借金は減る。


 私たちが優先させるべきことは、明白だった。


「何か最近困りごとあったりする?」

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