異世界転生してヒャッハー出来ると思ったら膨大な借金を押し付けられて、冒険者の経営アドバイザーにさせられるってヒドすぎませんか!?
第八話 異世界から来たってあっさりばらしちゃうのってムードぶち壊しじゃないですか!?
第八話 異世界から来たってあっさりばらしちゃうのってムードぶち壊しじゃないですか!?
「へえ、因みに魔法ってどういう風に使うの?」
せっかくなので、私は素朴な疑問を投げかけた。
この世界では魔法というものが一般的に使われており、基本的に誰でも扱える代物らしいが、前世で魔法なんてなかった私にとってはまだファンタジー感が抜けきれてなかった。
怖い話な度で超常現象的なもので盛り上がることはあるが、それはあくまでエンタメとしてである。
良い大人がマジな顔をして「魔法使いになりたい」といったら、相当頭がイカレていると判断され、治療施設に回されるのがオチだ。魔法への欲求が自分のオツムの悪さをさらけ出してしまうのだ、実に世知辛い世の中である。
ただ、実際目の前で私と同じぐらい、またはそれ以下の女の子たちが魔法の実戦練習をしている。
手から火の球を出したり、強風を出したりしている。しかもオツムに何の異常もない。
「どういう風に……ですか? 学校で学びませんでしたか?」
「い、いやー……ちょっと忘れちゃって……」
セルカは不思議そうな表情を浮かべる。
そうか、この世界では学校で魔法を学ぶのか。私たちが生物や物理を学ぶような感覚で学校で魔法を学んでいると想像がつく。
さて、どうしたものだろうか。
私が長年蓄積してきたラノベ的な知識から、異世界から来たことはあまり公にしないほうがいいのが一般的だ。
この世界に来て私たちの知識レベルは幼稚園児のそれと変わりがない。
文化も知らなければ、魔法も当たり前のように使えない。
私の太ももぐらいの高さの少年ですら弓や剣を操っているというのに、私たちにはできない。
ここでの私たちの特徴といえば、異世界人であるということのみ。
切り札は最後の最後まで取っておくのが、モテるレディのたしなみというものである。
「オベリス〇の巨神兵」や「ラー〇翼神竜」などを最初の最初から出してしまっては、その後のデュエルに張り合いがない。
であれば、ここでの選択肢は一つしかない。
――上手くごまかさなければ!!
「いや、俺たち異世界から来たんで。魔法とかわかんないんで」
「えええええええええええ!? そこあっさりばらしちゃうんだ!!」
「え、えええ!? お二人とも異世界の方だったんですか!?」
私の隣には制御不能なダイナマイトが伏兵にいたことを忘れていた。
自分の立ち回りを色々考えていた私がアホらしく感じるぐらいすがすがしいほどのカミングアウトっぷりに私は唖然とせざるを得なかった。
「だって、別に隠す必要なくない? 別に異世界人だから俺たち特別なことが出来るわけじゃないし」
「まあ、そうだけどさあ……もう少しファンタジーな感じで打ち明けたかったのに……」
「ファンタジー? どういうこと?」
「物語とか進めていって、最後の最後で『実は……私たち異世界から来たの……』って神妙な面持ちでカミングアウトするとかさ……こういう草原で『これからちょっとトイレ行ってきますね!』みたいなノリで打ち明けるんじゃなくて、もう少しこう……ムードが欲しかったの!!」
「ムードって、面倒くさいなあ……」
もう少し空気を読んで私の気持ちを汲んでほしいものだ。
デリカシーがミジンコぐらいしかなく、雰囲気も読まずにずけずけとしているから兄は恋愛が出来ないのだ。
熱狂的なファンなどのイロモノに好かれることはあるが、ごく普通の女の子とごく普通の恋愛をした経験なんて聞いたことがない。
「んじゃ、セルカすまん。今のことは忘れてくれ。ムードが出来上がったらまた改めてカミングアウトすることにする。その時はうまい感じにリアクションしてくれ」
「え、ええっと、もう知っちゃったので、多分上手くリアクション出来ないと思います……」
セルカは困った表情を見せる。
相談しに来た時にバストサイズを聞かれた時と同じ表情だ。
「で、でも理解しました。マコトさんとコトミさんは異世界から来たから、こちらの学校に行ったことがないということですね!」
「うん……そういうことです……」
カミングアウトしたことによって話がスムーズに進むのだが、自分としては複雑な気分だ。
自分だけに秘めた特徴でニヤニヤするのが好きだったのに、これで世間に知られてしまったのである。セルカが言いふらすタイプの人間には見えないが、それでももう自分の秘密ではないという感覚に変わりはない。
「魔法は詠唱よりも、イメージが大事なんです」
「イメージですか?」
「はい、イメージです」
「魔法は自分のエネルギーを他の形に変える、いわば料理みたいなものなんです。自分のエネルギーをコントロールして、空気中にある元素に干渉したり、エネルギーを特定の部位に集中させて熱や電気を発したり、他の人に移して自然治癒能力を活性化したり。自分が持っているエネルギーをいかに自分の思いのままに変化させるかが魔法なんです」
「へー! そうなんだあ……」
料理はインスタント麺とゆで卵しかできない私には、料理の「り」の字も分からないのだが、ここで話の腰を折るのもおかしな話なので、あたかも聞いたことを全て理解したかのような表情を装う。
「そうですね……例えばですが」
セルカはおもむろに地面に転がっていた石を握ると、思い切り遠くへ投げる。
「今、私は自分のエネルギーを腕や肩に集中させ、自分の持っているエネルギーをこの石に乗っけて遠くに投げました。つまり、魔法はこれの延長線で、どのようにエネルギーを変換するかが大事なんです」
話の途中で石を投げたとき、一瞬この子の頭がおかしくなったのか勘ぐってしまったが、どうやら説明をするために実演したようだった。全てを理解した、とまではいかないが何となく魔法の概念自体はつかめた気がする。
「呪文みたいなものもあるのかしら? あそこの子、ひっきりなしにぶつぶつ言っているのだけれど」
紫色の三角帽子を被った眼鏡の女の子が、今にでも人を呪い殺そうというオーラを醸し出しながら小声でぶつぶつ呟いていた。
正直近づきたくない。時々「ヒヒッ!」と笑っているのが超怖い。
魔法使いというよりかは呪術師のようであった。
「呪文……? ああ、詠唱のことですね。あれはイメージのお手伝いみたいなもので、練習次第で詠唱する必要はありません。投石のたとえでいえば、『石を掴んで、振りかぶって、腕に力を入れて、石を離す!』というのを口ずさむことで動きを確認している……みたいな感じですね」
そういうものなのか。
確かにテスト問題を書くときに方程式などを口ずさむ人がいるが、その類に近いのかもしれない。
そういう人に限って全ての感情が駄々洩れているので「やばい、分からない」とか、「ムズすぎ」とか、「余裕じゃんこれ」とか色々口走っているものだが、この異世界でも同様の現象が起きているようだ。
「では、実際にやってみましょう!」
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